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第15話 最初で最後の夜(後編)

 少し身体を離し、雄吾(ゆうご)冬馬(とうま)の身体を見下ろしている。まじまじと見つめられ気恥ずかしい。今更隠すのも変なので、どきどきしながら彼の反応を待った。雄吾は感嘆したように溜め息をついた。 「冬馬、すごくきれいだ」  再び彼は冬馬の肌に唇を寄せた。次第に微妙なところへと這っていく。冬馬は快感に眉をひそめた。変な声が出てしまいそうで思わず唇を噛み締めると、雄吾の指先でやんわりと(ほど)かれた。 「そんなに噛み締めたら切れちゃう。もっと声出して良いよ。無言だと、全然感じてないのかって不安になっちゃうし」 「……雄吾は上手だよ。すごく気持ち良い」  恥じらいながら打ち明けると、雄吾も照れたように俯いた。胸の(いただき)を柔く唇の隙間で吸い上げられ、軽く歯を立てられ、(たま)らず声が出た。 「あっ、ああっ……」  唇を噛み締めてはいけないと、口を半開きにして力みを逃そうとするが、今度は唇の乾燥が気になる。舌で唇を舐めると、雄吾と目が合った。 「……その仕草、色っぽい」  冬馬の喘ぎ声と舌なめずりのような仕草に彼は興奮したようで、少し強めに胸の頂を吸い上げられた。 「やっ、あ、あん」  甘い喘ぎ声と共に、冬馬の中心が勢いよく立ち上がり、雄吾のお腹を叩いた。まるで『ここも構って』と言わんばかりの自身の主張に、冬馬は再び頬を赤らめた。 「……恥ずかしい。もうこんなに興奮しちゃって。あんまり気持ち良くて、ドキドキしてるから」  そんな可愛い言い訳が男心をときめかせるなんて、うぶな冬馬は思いも寄らない。雄吾は頬を(ゆる)め、屹立した冬馬自身を掌で包み込んだ。冬馬は呼吸を乱し、羞恥と期待の入り混じった目で雄吾の次の動きを待つ。優しい指先が冬馬の先端に触れた。そこはもうしとどに濡れていた。その(ぬめ)りをすくった雄吾の指が、ゆっくり冬馬の茎を上下に扱く。自分で触れる時とは、強さやスピード、触れる場所がどれも少しずつ違っていて、もどかしかったり、微妙に痛かったりもしたが、『好きな人に愛撫されている』ことを意識させられて、余計に興奮した。そのためか、軽く何度か上下に扱かれただけで、冬馬はあっけなく精を放った。 「ううっ、恥ずかしい……。こんなにあっという間にイッちゃって」  施された手淫であまりにあっさり達してしまったのが恥ずかしくて、眉を下げて申し訳なさそうな顔をした冬馬の額に、雄吾はキスをした。 「嬉しいよ。冬馬に気持ち良くなって欲しくて、してるからさ。それに、冬馬まだ二十歳だもんな。まだまだイケるでしょ? 一晩で、最高何回出したことある?」  雄吾に気楽な調子で言われ、冬馬は真っ赤になって、両の(こぶし)で雄吾の胸を軽く叩いた。 「もう! そんなこと聞かないで! 恥ずかしいよぉ!」 「えっ? 一晩に何回って、男同士のトークの鉄板ネタだと思ってたんだけどな。ケニアの男は、そういう話しないの?」  雄吾は笑いながら、冬馬の拳を軽く掴んだ。 「ケニアの男全般のことは、どうでも良いの! 僕は恥ずかしいんだもん」  拳を雄吾に預けたまま、冬馬は甘えるように小鳥が啄むようなキスをした。 「うん、他人のことを気にしないのは、良い傾向だね」  雄吾は満足気に頷き、一度力を失っていた冬馬の中心に再び手を伸ばす。あっという間に、そこはまた鎌首(かまくび)をもたげ、何度か優しく扱かれて芯を取り戻した。自分で慰める時は、こんなに立て続けにはしないから、自分自身の貪欲さに冬馬は一瞬戸惑った。しかし、その直後に与えられた快楽に眩惑され、目の前がチカチカした。  雄吾の口に含まれたのだ。 言葉にならない声を漏らし、抗うように上半身を起こそうとしたが、手にも腕にも力が入らない。再び仰向けに崩れ落ちた。ぬるぬると湿って滑らかな粘膜と、形を変幻自在に変える熱い舌に転がされ、冬馬の中心は一気に限界まで膨張する。自然と腰が動き、身体がよじれてしまう。雄吾は、冬馬に見せつけるように舌を出し、雄茎を根元からゆっくり舐め上げる。 「……やぁあっ……。あああっ、やっ……。ああ……いいっ……」  自分のものとは思えない喘ぎ声も、内腿が準備運動なしに全速力で駆けた後の痙攣のように震えるのも止められない。恥ずかしくて冬馬は(まぶた)を閉じた。初々しく恥じらう様子は雄吾を更に煽った。少し舌の速度が上がり、軽く吸い上げられ、冬馬の先端は張り詰めた。雄吾は、感じやすい場所を迷いなく攻め上げる。裏筋に沿って舐め上げられ、先端のくびれや鈴口に舌を這わされ、小さな孔に尖らせた舌を差し込まれると、冬馬は切なげな声をあげ、再び欲望を吐き出した。 「は、ああっ、あっ……!」  口淫で二度目の絶頂に達した後の冬馬は、頭にも視界にもぼんやりと霞が掛かったようだった。息絶え絶えに身体を投げ出していると、雄吾が、そっと指先で、額や鼻の周りの汗を拭った。 「……遊び過ぎた子どもみたい」 ようやく呼吸が落ち着いてきた冬馬に、雄吾はフフッと微笑んだ。 「冬馬、可愛いよ。ちゃんと気持ち良くなってくれた?」 「……うん。でも、僕一人じゃなくて、雄吾と一緒に気持ち良くなりたいな」  快楽に濡れたままの瞳で見つめると、雄吾は、野生の雄の獣のように短く身震いした。目にも欲情の色が滲んでいる。  冬馬を横向きにして背後から抱き付き、脇腹からお尻まで、優しく掌で撫で下ろす。そのごく弱い刺激からも、鋭敏になった冬馬の肌は快感を拾ってしまう。思わず背中を反らせて双丘を差し出していた。雄吾はサイドテーブルの引き出しからボトルを取り出した。 「……これは、潤滑剤。女と違って、男の身体は殆ど濡れないからさ。こういうの使ったほうがスムーズに行くし気持ち良いんだ。冬馬、もう一回背中向けて」  不思議そうな顔をしていたのだろう。雄吾は冬馬に説明しながら、ボトルから液体を出し、掌で温めた。彼は、背を向けた冬馬の双丘を押し開き、無垢な(つぼみ)へと指を伸ばした。ぬるぬるした雄吾の指に触れられ、冬馬は一瞬身体をびくっとさせ、くすぐったくて笑った。 「ダメだよ、笑ってたら力が入っちゃう。力抜いて?」  冬馬の性感帯である耳に、雄吾は艶っぽい声を吐息と一緒に流し込んだ。耳を食まれ、舌をねじこまれ、冬馬は思わず身体をくねらせた。 「んっ、ああっ……」 快感に喘いだ彼の初々しい蕾は緩み、雄吾の指を受け入れた。

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