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第10話
「青桜…『crawl』。」
青桜はこれ以上不評を買わないようにと素直に四つん這いで床に這う命令に従う。
「…『roll』して。」
僕はジッとそれを見下ろす。
青桜は大人しく仰向けになりその両手を胸の前でワンコのように揃える。
何も話さない僕に青桜はまた不安そうな表情をみせる…何を考えているか分からない為か不安その瞳はまた潤い滲みだす。
青桜は出会った頃こそ小さく仔犬の様に可愛い少年だった。
元気なサッカー少年で、仲間内でも背が低いので人一倍動いてその存在をアピールするような快活な少年だった。
同級生にもモテていたようだ。
その彼が何故自分に告白して来たかは分からない。
傷を負わせた責任か?
それにしたって告白されたのは出会った半年近く経った後だったし、その頃には僕の女汚さも分かっていただろう…。
とても男の自分と付き合おうなんて言うようなタイプでは無かった。
男とも経験があった僕にしてみれば体の関係を持つ事はなんて事はなかった。
ただ、なんとなく…彼とはこのままの関係で居たいと思った。
だから聞いたのだ。
「僕に抱かれたいの?それとも抱きたいの?」
その単刀直入な言葉に青桜は顔を蒼白にして唇を噛みしめ俯いたっけ…
僕は当時の事を思い出していた。
あの頃、僕は付き合う=セックスだと思っていたから…。
俯向く青桜の顔が見たくて覗き込んだら大きな目を見開き大粒の涙が湧き出して来たから驚いたっけ…。
そして、青桜からあらぬ限りの罵倒を受けた。
「それでも!ずっと側に居たいんですっ」
青桜の告白。
だったら友達でいいじゃないか…
そう言った僕に青桜は小さく首を振り、罵詈雑言の限りを吐いたその口で「大好きなんです…」と小さく呟いた。
青桜は『お付き合い』の定義を根気よく僕に語ったっけ。
僕は欲求さえ捌ければそれで良いと言ったら
スゴく寂しそうな顔をしてたっけ…あの当時に戻れるなら僕は当時の僕を刺し殺しただろうね。
体の関係を持つまでそう時間も掛からなかった。
僕の体が限界だったから。お付き合いの定義を叩き込まれた僕は、ちゃんと学校の生徒との関係は絶った。
だから、Liveを聴きに来てくれたファンの子にファンサした。
これも泣かれたね…うん、僕も当時の僕を撲殺したいよ。
まぁ、そんな僕だから誰でも抱けたし、抱かれる事も出来たけど正直青桜にはどう接していいのか分からなかった。
初めての男なんて女より面倒だと思ったから…
…もう…自分でも分かってるから…何も言わないで。
それに僕だって頑張ったんだ。
高2の冬、ラブラブな両親がクリスマスの繰り越しで週末旅行に行くと言うから暇だと話したら泊まりに来たいと言ったのが切欠だった。
初めての青桜は本当にガチガチでキスもした事がないと言った。
ちなみにキスで辞めるなんて感覚がない僕は、やらないならする必要もないと、彼にキスもしてなかったっけ…。
初めてのキス…青桜は歯を食いしばっていた。
あれには僕も吹き出して笑ったっけ。
ふと思い出し、僕は目の前の青桜の腹を柔らかく撫でる。
彼の体がビクッと震える。
それが面白く、続ける。
触れるか触れないかのフェザータッチ
心地いい…可愛い、ね
その時の青桜はどれだけ彼の歯を舌で突いても口を開けてくれなかった。
だから鼻を摘んでやったっけ…クスッ…懐かしいな
今では僕好みのキスをちゃんと覚えたよね。
可愛らしい舌先を吸って…と、ちゃんと差し出せるようになった。
今みたいにお口を開けて僕の唾液を強請る姿も可愛い…
まぁ、当時はキスしてその調子だったから彼は必然的に僕に抱かれる側になった。
繋がるまでには時間も掛かったけど…
泣いて無理やりで良いから入れてと強請られた事もあったけど、そうはしなかった。
僕は彼をグズグスに溶かす楽しみを見つけていたからね。
当時の僕は彼を自分好みに育てる楽しみを得ていた。
そのうち青桜は背が伸び、筋肉もつき始めたんだけどその関係性は変わらなかった。
くりくりした仔犬のような可愛らしさが抜けはじめ、少しずつ精悍にもなっていき、そこに僕によって育てられた色香も加わってかなり目を惹く存在になっていた。
光源氏計画?そんな良いもんではなかったね…あえて言うなら…まぁ、豆柴から豆柴成犬くらいには…って言い過ぎかな?(笑)
今と昔なら豆柴からシェパードくらいは容姿は変わったけどね。
その頃になると同級生だけではなく上級生にも告白されるようになった。
2年に上がるとグラウンドでサッカーしている青桜は時々ボール拾いを装って軽音楽部の部室の窓から僕に声をかけて来た。
そんな時は必ず部員の後輩は勿論、3年の僕の同級生も「カッコいい〜!」とキャッキャしてたっけ。
ちなみに、軽音楽部は当時アニメの影響か出来たばかりで部員も少なく男子部員は僕しか居なかったけど彼女達はオタク?でどちらかと言うと自分たちでと言うより、僕と青桜が絡むのが良いって騒いでたね…まぁ、僕はギターが弾けるところが在ればそれで良かったから気にはしてなかった。
僕の背と変わらないくらいまで成長した彼は僕の前で服を脱ぎたがらなくなっていた。
普段グラウンドで上半身晒し、水飲み場ではそのまま水浴びをして部員らと大騒ぎして教師に怒られているくらいだったのにね。
女子らの中にはそれを楽しみにする子も少なくは無かったね。
その頃には青桜は僕に抱かれる喜びをしっかり覚えていたから僕は彼を抱く時、彼をグズグスするまで可愛がりグチュグチュにして全てを剥ぎ取って抱いた。
自分の服は脱がずに…。
羞恥心に震える彼は可愛くて、目の前で頬を染めて彼の話して盛り上がる雌猫たちに、アレは僕のものでお前らには見向きもしないと言ってやりたかった。
そもそも反応すらしないんだよっと言ってやりたかった。
今思えば執着心が芽生えはじめていた。
そして、当時の自分も自分の独占欲に気付いた…。
それも良いと思った。
どうせ僕が卒業したら終わる付き合いだから。
ただ、彼が雄として生きていけるが心配ではあったけど。
3年の夏が終わる頃、僕は音楽の道に進む事にしたと青桜に伝えた。
親は放任で自分の人生好きにしろといった。
家にいるうちは家賃もいらないし食事はさせるけど、外に出たら援助もしないと言われた。
それで、十分だった。
ライブハウスでも声はかけられたけど、僕の曲でと言うより僕の容姿を売る戦略にうんざりして自分で事務所に音源を送ったり、よく貰っていた名刺の伝を頼って動き始めていた。
青桜とはその頃になると中々会えなくなっていた。
休みはLiveとモデルのバイトでスケジュールが空かなくなったから。
ライブハウスに青桜が来ても打ち合わせで中々ゆっくり話すことも出来なかった。
青桜は学校以外で中々会えなくなっていた僕に自分もモデルのバイトしたいと言い出した。
彼もよく声を掛けられていたから自分の伝があるはずなのに…と不思議に思って聞いたら、僕と少しでも一緒に居たいから、同じ事務所のバイトなら一緒になれるかと思って…とか可愛い事を言ってくれた。
僕もかなり無理を言ってショットで入らせて貰ったモデル事務所だったから絶対とは言えなかったけど、そこの社長に僕は気に入られていたから紹介する事にしてみた。
そこから僕と青桜の2ショットの絵面が良いからと盛り上がり、バイトが増えた。
学校でもかなり有名になり、もう火遊びはしなかったけど、当時の僕を知る同級生の男が青桜とのゲスい噂を校内に垂れ流した。
僕は気にしなかったので無視したんだけど、青の耳にも入ったらしく、そいつを袋叩きにした。
僕は卒業出来ればそれで良かったけど、青桜にはまだ高3一年間の学生生活があったし、内申書にも響くから波風を立てない様にその事には触れない様にしていた矢先に事件は起きてしまった。
校内て流れた噂は僕が「ホモで誰のちんこも咥える変態で、後輩の青桜も僕に突っ込んで毎日猿の様にサカってる」と言う…
なんともまぁ、呆れるほど中途半端なものだった。
僕はホモじゃない。来るものは拒まずだったけどね。
それに青桜だって僕に突っ込んでさかってる訳じゃない。
僕に突っ込まれてよがってるんだから。
まぁ、事が起こった時、僕は側には居なかった。
事実無根の噂話に気を留めることはないって思っていたのに…廊下でそのバカが青桜を煽ったのだ…
「あんな奴にベッタリなんて気が知れないな!
お前の専用な訳じゃないんだろ?あのビッチ
オレにも貸せよっ!」
学校で吐くセリフじゃないよね…どんなAVがおかずか分かってしまうくらい低脳でゲスかった。
しかも、自分はホモですって言ってる様なものだし…
この時、廊下からキャーッとかダンッとかドンッとか悲鳴とともに聞こえる音に流石の僕も何事かと思ったけど見に行く気にはなる無くてイヤホンで音楽を聞こうとしたら同じ軽音楽部のクラスメイトが僕を呼びにきた。
「水守くん大変!青桜くんを止めて!!」と。
ビックリして廊下に出たら同級生の男が廊下に丸まり呻き声をあげるのを鬼の形相の青桜が蹴りつけていた。初めて見る顔だった。
拳には血がついていた。
僕は大声で青桜の名前を呼んだ。
学校でそんなに叫んだ事はなかった自分でもビックリするくらい叫んだ。
でも、怒り狂った青桜の耳には届かなかった。
周りの悲鳴の方が凄かったしね…。
だから僕は青桜が大きく蹴り上げた足元に飛び込んだんだ。
ガツッ…
凄い衝撃だった。
同級生に覆い被さる状態で飛び込んだ僕の脇腹に青桜の蹴りが入った。
「な…んで?」
飛び込んだのが僕だと分かった青桜の第一声。
こんな奴蹴るための脚じゃないだろ…
そう言ってやる事はその時の僕には出来なかった。
気絶しちゃったからね。
その後騒ぎを聞きつけた青桜の担任とサッカー部の顧問が来たらしいけど遅すぎるよね、まったく。
騒ぎは大きすぎて相手は歯は折ってるし、全身打撲だし停学処分になっても仕方なかったけど、原因を作った生徒が運ばれる担任の車の中で自分の所為だと病院に着くまでに自分の担任と顧問に何度も繰り返したそうだ。
あいつ僕を抱いた事あったんだよね…相手にしなくなったからあんな所業を起こしたんだろうけど、どうやら最後僕が奴を庇ったと思って感動していたらしい。
僕はと言うと覚えてないけど、大事にしないで、救急車も辞めてと頼んだらしい。
いや、僕が護りたかったのは青桜の方なんだけどね。
後に懲りもせず告白しに来た奴に、キッパリ言ってやったよ。
青桜は暫くは試合に出れずにベンチを温める事になった。
流石に顧問としては見逃す訳にはいかなかったらしい。
ただ、当事者と巻き添えを喰らった被害者が不問にして欲しいと言っている事と、救急車を呼んだわけでもなかったので公式には残さず、内申への影響も免れた。
普段人当たりが良く、面倒見もいい彼の暴挙にその後殴られた上級生である三年生と青桜の担任たちと顧問も同席の上で三年の男子生徒と青桜を呼び出し話を聞いたそうだ。
青桜はオレは悪くないの一点張り。男子生徒は渋々自分が何をしたかを語ったそうだ。
その時僕は別室でただ転んでたまたまそこに転がったと言い切った。
担任たちはそれぞれに頭を抱えていたと言う。
同級生と共に病院に運ばれた僕が目覚めるまで青桜は頑として僕の側から離れようとしなかったらしい。
目が覚めた時青桜はそのガタイに似合わないくらい弱々しく縮こまり「ごめんなさい 。ごめんなさい。」と僕の枕元で泣いていた。
僕は痛む脇腹に極力力を入れない様に、青桜にあの場で言えなかった事を伝えた。
青桜は驚いた顔をした後、くちゃりと顔を歪め更に泣き崩れた。
僕はそんな青桜を抱きしめてやりたかったけど脇腹が痛すぎて頭を撫でてあげる事すら叶わなかったから青桜が泣き止むまで握られた手を握り返してあげていた。
色んな事があって自由登校になり更に会うタイミングが無くなった青桜に放課後会う為に僕は部室でギターを弾いていた。
青桜はギターの音を聞きつけてはやって来た。
「こら、サボり。待ってやってるんだから
授業受けておいで」
「嫌だ。」
「……僕に逆らうなんて珍しいね」
「ゆぅ先輩…卒業しちゃイヤだ…」
青桜が僕をギュッと抱きしめてきた。
「なに?僕に自主退学しろってこと?」
「ちがっ、なんでそうなるんだよっ?!」
「だって卒業されたくないんだろ?
あ、留年して欲しかったのか?悪いね、
単位は取れちゃってるんだ」
「先輩、ワザと言ってるでしょ?…うん、
知ってる。
それが素だって事は…分かってるよ…うん」
僕を抱きしめる腕にチカラが入る。
僕の肩口にスリスリと額を擦り付けるのは青桜が僕に甘える時の仕草。
僕はそんな青桜の頭を撫でるのが好きだ。
「優先輩。卒業しても一緒にいてくれます
よね?オレ、別れる気なんかないから。
1年だけ待ってて。そしたら一緒に東京に
行こうよ」
青桜は人生設計をちゃんとする子だった。
卒業して会う頻度こそ減ったけど、青桜のマメな性格のおかげで僕らの付き合いは続いた。
青桜は東京の体育大学の推薦をもぎ取り、東京のモデル事務所とも契約したと言う報告は事後報告で聞いた。
青桜は体育の先生になるもんだと思っていた僕はその話に驚いた。
モデルの仕事は親御さんに反対されたらしいけど、大学をちゃんと卒業して教員免許をちゃんととるのとモデルも在学中に目が出ない様なら就職も視野に入れるのが条件でOKをもぎ取ったとの事。
「視野に入れるだけならいくらでも考えるよねー」と青桜はドヤ顔で話してくれたけどお前がそんなモデルの仕事好きだとは思わなかったよ。
そんな話をしたら役者になりたいと言い出した。
そんな簡単なものじゃないから教師になれと話したけど、僕と同じ業界に居たいのだと言う。
どこまでも、まっすぐな想いをくれる青桜に僕は少し甘えたくなり今に至る。
「ゅ…ぅ 先輩…」
青桜の声で引き戻される。
指の下でわななく四肢
青のソコはピクピクと震えている。
「クスッ…なんて堪え性のない。
いつからそんな淫乱になったの?
まだ『stay』だよ。
主導権はいつも僕にある。お前は僕の手で
可愛く啼いていろ」
僕は青桜の為に…いや自分の為にこの時間を楽しむ事にした。
僕が人々を魅了すると言う最高に冷たく甘い微笑 をお前に魅せてあげるよ。
そして今からいつでもお前を蕩けさせるのは僕だけと教え込んであげる…
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