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◆3 ep.1 馴れ初め
とろりとした瞳でいつも笑っているオメガは人の物で、幾ら傍に寄られようと、家族とも、反対に他人とも思えず、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「ねぇ、いつまで怒ってるの?」
「怒ってはない。」
ただ、どう扱ったら良いのか困ってはいる。親父の番だったオメガがやたらと俺について回るので。
先日、穏やかに逝ったが闘病の末亡くなった父の遺言を兄弟で確認したら、コイツの処遇については嫡男、つまり俺に譲るとなっていた。アンリと云う、俺と同年代の親父の番はもう5,6年はうちに居るが、あまり話した事も無いのに。
加えて、親父と交わってる所を見た事がある。親父に縋って喘ぎながら此方に気付いて微笑んでみせる、性質の悪い奴だった。
「・・・お前は物みたいに扱われて良いのか、」
「うん。オメガに選ぶ権利は無いしね。」
いや、そんな事は無い。親父も、双子の弟達すらアンリの事を甘やかしていた。デザートなんかが顕著で、買ってきた土産物はいつもアンリが先に選ぶのを揃って楽しそうに眺めたりして、まぁ普段は朗らかで人当たりの良いコイツに冷たかったのは俺だけだ。
だからアンリの扱いも解せない。後妻で実子が居る訳でなし、まだ若いんだから、うちみたいにオメガを人として扱う家に送るなり、まともな職を紹介するのかと思っていた。でもアンリも親父の遺言に従う気で居たし、遺言書の内容に弟達も反発せず、「兄さん、これを機にアンリを大事にした方がいいよ」「その方が上手くいく」と揃って頷いた。
だからやたらとコイツも家の中だろうと俺の後をついて回るのだろう。お陰で落ち着かない日々が続いている。まぁ二,三言たまに喋るくらいで基本的に大人しくはしているが、今日は、くっと俺の服の裾を引っ張った。
「もう喪が明ける時期だよね。どうしよう?」
直球な言葉にも添えられた表情にも、厭らしさは含んでなかったが、思わず振り向いてしまった人の手を握り、まっすぐ俺を見る。不意を突かれた俺が固まってる隙に、ヒトにしても小柄な身体に抱きつかれたらもう駄目だった。緩く編まれた胸元までの髪からか、谷間の百合のような香りがする。
俺に向かってふわりと笑って、柔らかい瞳に睫毛のこまかい影が落ちる。
「いつかこうなる気がしてたんだけど。」
「・・・少し黙っててくれ。」
「まさかディル、童貞だったりする?」
本当、コイツはやっぱり癖がある。また口を開かれる前に、アンリを小脇に抱えて運び、ベッドの上に放り投げ、力任せに押し倒して掌で口を塞ぐと目だけで笑う。
手を離すと起き上がって、自分から下着まで脱ぎ、俺の前を寛げ、指で愛撫を施して。そして俺の膝に乗り上げ、はぁ、と湿った息を吐いた。
「あんまり柔らかくなくていいなら、先っぽくらいはすぐ入ると思うけど・・・。」
最近使ってないのだろう、伺うような目を無視して抱き寄せ、指で中を弄るとすぐ身体を震わせて甘い吐息が漏れ始める。思ったよりは柔らかいので、複数本の指で出来るだけ奥までねちねちと刺激すると、小さく喘ぎながら、ぴゅ、ぴゅと潮を吹いた。
「ふっ、んっ、ん・・・、」
「あんまりイくなよ。楽しみが減る。」
「ねっ、もう挿れていいよ、」
云われなくてもそのつもりだ。腰を上げさせ、アンリの陰部に押し当てると殆ど抵抗なく俺のものを呑み込んでいく。俺に掴まって、アンリは自分から腰を動かした。
「此処がおれの好きなとこ、っ、覚えてね。」
「知るか。」
「んっ、あ、あっ・・・!」
腰を掴んで、自分が気持ち良いように突き上げても甘い声を出し、突き上げる度ぴゅっ、ぴゅっとアンリも射精する。結局どこを突かれても悦いらしい。本当に雄を喜ばせるように出来ている身体だ。潤んだ瞳で喘ぎながら、ねだる言葉を口にする。
「ね、奥、びゅーって出して、」
する、と細い腕が俺の首に回り、密着すると、やっぱり花のような、甘い香りがした。これは昔からした匂いだ。番を亡くした今はともかく、番持ちのオメガなんてそんなに匂わない筈なのに、コイツは昔から良い香りがして苦手だった。透き通った蜂蜜みたいな色した瞳も、いつもまっすぐ他人を見るから、全部見透かしているようで。
やっぱりコイツに近寄ると自分のペースが保てなくなる。性行為中なら余計にだ。俺はアンリからなるべく離れ、アンリを乗っからせたまま、一人ベッドに寝転んだ。
「欲しいなら自分で絞り取れ。お前は得意そうだしな。」
「ディルも騎乗位好きとか、お父さん似だね。」
それ以上余計な事は云わず、アンリは俺の上で腰を使い始めた。喘ぎながら快楽を求めて、俺のものをなるべく奥にと打ち付けるアンリを見ているのは気分がいい。俺の質量が増していくのに比例して息を切らせて、動きが鈍り、涙目で俺を見る。
俺はアンリの両手首を掴んで腰を動かし、欲しがった精液を子宮めがけて掛けてやった。
「あ、あぁん、っ、ん・・・!」
アンリの中に出し切るため手首を掴んだまま突き上げると、中が収縮してアンリがまた達した。俺は息を切らしているアンリを寝転がせ、自分の良いように突き上げた。まだ中は欲しがっている動きをして、アンリは気持ち良さそうな表情で喘ぎ続ける。俺に縋り、脚を絡ませて。
「ね、そこ好き、っ、気持ちいっ、」
「お前はどこでも善いんだろ、」
力任せに犯してもすぐイくし、嬌声も跳ねている。こんな行為の最中でもふわりと笑い、俺を見て射精を促す。
「でも、っ、奥が一番好き。もっと欲しい、」
本当コイツ、具合は良いけど性質が悪い。抱きつきながらそんなこと云って、乱暴に突き上げても中に出してやると嬉しそうに、気持ち良さそうな表情をする。
腹を突き上げながら出し切り、まだ萎え切っていないものを抜いて精液が零れても、乱れた呼吸のまま、やっぱりアンリは緩く笑った。
「どうだった?良かった?」
「・・・・・・。」
俺も久しぶりだったが、あんな連続で出させておいて悪かったも何も無い。でも予想通りの返事をするのも癪で、アンリの解けかけた髪に難癖を付ける事にした。
「・・・髪が邪魔だと思った。」
「ふふ、じゃあ切っちゃお。」
「そんな簡単に良いのか?」
「うん。バルドの好みだったから。ディルはどのくらいの長さが良いと思う?」
親父のために伸ばしてた髪の先を持ち上げて、少女のように笑う姿に嫌悪感は無かった。ただずっと、俺を試すように喋られてる気がする。俺をからかったり、その逆で、まるで機嫌を取るように。
「好きにしろ。自分の事だろ。」
「うーん・・・。でもディルの喜ぶ事がしたいな。ディルはどうしたら喜んでくれる?」
「・・・なんで俺を気にするんだ?」
「んー、旦那さんて事はおれのこと好きにしていい訳じゃん?でもまだディルのこと、よく分かんないや。実は我侭なくらいの方が好みとか?」
「実はって何だ。何も知らないだろ、お前は。」
喧しいよりは静かな方が良いが、暗いよりは明るい方が良いくらいの好みは俺にだってある。でもアンリの性格はよく分からない。喧しくは無いが、うるさいと感じる時はあるし、落ち着き払ってるなと思う時もある。決して暗くは無いが、よく笑う割にそこまで明るいイメージも無い。
ただ、コイツと居るとなんか落ち着かないから、あまり近寄りたくなかったし、まだいきなり詰められた距離に慣れないでいる。
今だって、ベッドの上をもぞもぞ動いて、すぐ横へとやってきたアンリはじっと俺を見た。
「だってディルの好みはおれでしょう?おれ、ちゃんと本気で云われた事は聞けるから、従順な方だとは思うんだけど・・・。」
何を云ってるんだ、コイツは。混乱してきた俺とは対照的に、アンリは何でもないような顔で、思わず離れようとした俺の腕を掴んで更に距離を詰めた。
「ほんとはおれもバルドも、ディルの相手にはかわいいオメガを貰おうって思ってたんだよ?でもおれのこと、全然変わらない目で見るから、バルドがおれも遺産に含ませてやろうって。おれも承諾しちゃったし、ディルの迷惑だったら困るんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ダルとデルも良い提案だって云ってくれたんだけど、間違ってた?」
道理で弟達もアンリの味方をせず、アンリのことを大事にした方が良い、元々家族の一員なんだからとしか云わなかった訳だ。俺の顔色を伺うアンリの表情は俺を嘲笑うようなものでは無く、珍しく不安げなものだったので、俺は嘘を吐き損ねた。
「・・・。間違ってない。」
「良かった!」
本当、何なんだコイツは。俺の返事で嬉しそうに、笑顔になったアンリに向かって、俺は溜息を吐いた。
「いや、そんなに良くはないだろ。結局お前の意思が無い。」
「え?おれはディルもバルドの事も好きだし、この家から出ていけって云われる方が困るんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・。」
アンリの好意が自分とは意味も、何なら重みも違うのはよく分かってる。もう5年は一緒に暮らしているのだ。俺が認める羽目になってしまったコイツへの感情を、ただの家族愛と一緒にされては困る。大らかな親父相手ならその調子でも問題無かっただろうが、俺は嫌だ。弟達と同じように思われていても嬉しくない。
でも俺の物になる気があるなら、後は心を手に入れられれば良いだけだ。
「・・・ヒートが来たら首は噛むからな。」
「うん。」
「覚悟しろよ。」
ったく、体よく自分がコイツの新たな寄生先になってしまったとか意地の悪い事を思わなくも無いが、親父が暫く独り身だったのちアンリを貰って毎日楽しそうだった事、病気を患って調子が悪くなり、家に篭りがちになっても傍らにはいつもアンリが居て穏やかに過ごしていた事を思い出してしまった。コイツが親父の事も特別好いていたのかは分からないが、葬儀後に隠れて泣いていた事も。
俺にも大概アンリが何を考えているのか分からないし、傍に居られるとまだ落ち着かないが、コイツが笑っていると昔から大体の事がどうでも良くなるから不思議だ。あと、コイツ以外にこんな良い匂いがするオメガなんて知らない事も。
そんな事気付いてないだろうに、俺と目が合うと、にこ、とアンリはいつものように笑った。
「楽しみにしてる。」
そう云って俺の膝に乗っかってくるので、もう一度挿入すると、気持ち良さそうに腰を揺らし、俺にくっ付いてきた。こうやって親父を手玉に取って可愛がられてたんだなとよく判る。元々積極的で、性行為が好きらしい。
「ふっ、ぁん、ん、」
「・・・アンリ、俺以外と寝るんじゃないぞ。」
「んっ、やっ、あ・・・、」
俺は動いてないからあまり刺激は無い筈なのに、アンリはすぐ達した。手の力が弱まり、落ちそうになるから思わず抱き寄せると、また身体を震わせる。俯いてる顔を上げさせるといつも以上に瞳がとろりとしていて、頬もバラ色に染まっていた。
「名前、久しぶりに呼ばれた・・・。」
「それでイったのか?」
「うん・・・。だめ、もう何しても気持ちいい。」
ぐりぐりと俺に頭を寄せ、アンリは甘える仕草を取る。思ったよりは俺はアンリに意識されてるらしい。堪らなくなって、アンリの好きな所を何も出なくなるまで突いてもただ喘ぎ、何度も身体を震わせる。抵抗せず、快感が強い所為ですすり泣いてるアンリの中をガツガツと貪り続け、中に出してやると、痙攣で応えられた。
「あっ、ん、ん、あ・・・。」
密着した腹に温いものが掛かる感触がするから、どうやら失禁したらしい。
意識もあまり無いようだし、これだけ覚えさせておけば今日は良いだろう。一生クマしか知らない身体にさせたい。
俺がちゃんと見えてるのか分からないが、やっぱりアンリは俺の腕の中で微笑んでいるので、俺はアンリを抱き直しながら白い項を露出させ、親父の付けた跡の上に噛み付いた。
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