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◆3 ep.3 あまあま発情期
「アンリ、これでまだヒートじゃないのか?」
うんうん頷く仕草をとるアンリの表情は熱っぽいし、いつもするような甘い匂いも緩やかに増してきている。
休日、ヒートが近くて落ち着かないと云うアンリがずっと俺の足の間に納まっているが、朝は背を向け読書出来るくらいだったのに、昼過ぎの今は俺に抱きつき胸元に顔を押し当てたままで、まともな会話にならない。
アンリの体力の温存のため、傍に居てもずっと手が出せやしない状況だったが、さすがに俺も落ち着かなくなってきた。本当に熱が無いのか確かめがてら顔に手を伸ばすと、思ったよりは熱くないが、触るだけで気持ち良さそうではあるし。
「抑制剤は飲んだのか?」
「ううん、飲んでない。」
「・・・薬を取ってくる。」
「要らない。」
立ち上がろうとしても、アンリに抵抗されると邪魔で動き辛い。この間薬を飲んだ方が良いかと訊かれた気がするが、あれが避妊薬についてだけだとは思わなかった。オメガのヒートに付き合った事は無いが、今からこんなぐずぐずでこの後は大丈夫なのかと思う。
とりあえず抱え直すと臀部の辺りが濡れてる感触がして、小さく甘い声もした。
「お前、もう興奮してるだろ。」
「まだトんでないんだけど、これ、抱いてもらった方が楽かも・・・。」
「そういう事は早く云え。」
ベッドへ運び、下着を脱がすと、どろ、と愛液が零れる。量が多いので拭うとそれだけで身体を震わせ、前も緩く勃ち上がっているし、指で弄るのは今のアンリにじゃ刺激が強そうだ。しかももう雄を興奮させる状態に仕上がっている。まだ何もしてない俺までさっきまでとは段違いの匂いと状態に興奮してきた。
「っ、ひ、ぁ・・!」
脚を拡げさせ、ずぷずぷと挿入するだけでアンリはイった。中も温かくて、でも分泌量が多い所為か奥まで挿れ辛い。
抱き寄せ、膝に座らせると大方を呑み込み、ぷしゃぷしゃと潮を吹く。そのまま、ゆさゆさ揺さぶると、俺にしがみついていつもより甘い声で鳴く。
「んっ、あっ、ぁん・・、」
俺だけでも抑制剤を飲んでいて本当に良かった。コイツ、密着するだけで中がひどく締まるし、ずっとイってる感じがする。そして雄を求める動きにつられて、アンリの中で自分が脈打っているのがよく分かる。これはあまり持ちそうに無い。
でも離れるのを嫌がるアンリを横にすると、ぎゅうと俺の服を掴む。
「あっ、や、やだ、」
「挿れ直すだけだ。ちゃんと息してろ。」
抜いて四つん這いにさせ、また挿入する。さっきと同じ所までは簡単に呑み込むが、腰を掴んでその奥を探す。子宮口に押し当て、射精の準備をする。
「ふっ、っ、あ・・・。」
「アンリ、全部飲めよ。」
相変わらず呼吸の浅いアンリがそれでも頷いたので、柔らかくなってる子宮口に先端を押し込み、覆い被さって露出している項を噛んだ。いつもより強く、少し血が滲むくらい。
すぐ反応して、アンリが身体を震わせて中を締めたので、そのまま射精が始まる。身動ぎするアンリを押さえ込んで、出来るだけ奥へ、奥へと中に出す。アンリも気持ちが良いらしく、よく締まるし、前を触ると珍しく精液も出ている。それから押さえ付けた手がもぞもぞと動き、弱い力で握られた。
「おなか、熱い、」
「暫く我慢してくれ。」
「うん・・・。」
アンリの発情期に当てられて、こちらも孕ます為の射精になってるからもう何十分も抜けなくなる。それにアンリが俺の手を握りながら、何度も中や前や後ろでイくから、精神的にも治まらない。ふぅふぅ息をしながら、丸まったまま声が漏れる。
「っ、ん、ふぁ・・・、」
「苦しいか?」
「ううん。気持ちいい。あったかい。」
舌足らずな声でそう云い、鼻を啜る音もするが、嘘では無さそうなものの、過ぎる快楽は暴力のようなものなのだろう。抱きこまれた指がぼろぼろと落ちる涙で湿って濡れて、どうにもならなくなった頃、やっと抜いてやれる状態になった。
「やっ、やだぁ・・・。」
それなのに俺が身体を起こそうとすると、あまり力が入らない指で手を引っ張ろうとする。もう今日は、自分が薬を飲んでなかった所為もあるが大変そうだったんだから俺からさっさと離れたいだろうと思ったのに、まだ離れるのは嫌らしい。
アンリを抱き寄せ、腹を圧迫しないよう浅めの挿入にし、楽な姿勢にと寝転ばせる。するとすぐに俺の胸元に顔を埋める。
ああそうか、番になったし、密着してる方が落ち着くのかも知れない。まだ匂いが治まってないし、元々くっ付いて過ごすのが好きなようだったし。
「っん、あ・・・。」
「上手く飲めたな。」
中は濡れたままだが、それは多分殆どアンリの分泌したもので、出した量が量なのに精液は全然漏れてる感触が無い。本当に孕むための身体になってるんだなと思いながら、視界の端の柔らかい髪を撫でたら、もぞ、とアンリが動いて、とろりと溶けたような瞳が此方を伺う。
「ディルも気持ち良かった?」
「・・・ああ。」
赤くなった目元を隠すように、嬉しそうに笑って、アンリは甘く、どうしようもない言葉を吐いた。
「ね、まだ足りない。」
もうトんでるのか匂いは濃いままだし、柔らかい手や唇も当たる。それでもアンリはちゃんと俺を認識しているし、自分のものにもなった。好きに扱ってもコイツの事だ、文句なんて云わないだろうが、こういう時だって笑うアンリに乱暴な真似はしたくなく、そっと手を押さえ付けた。
「あ、んっ、ふっ、ん・・・、」
日が落ちてくる頃にはさすがにアンリの喘ぎ声が弱くなってきて、いつもは全ては納めてない俺のをもう一度全部呑み込ませた所為か、トントン軽く突くだけできゅうきゅう締まる。
半分意識が落ちていて、されるがままのアンリがうっすら瞳を開け、覆い被さっていた俺の指を握った。
「ディル、トイレ行きたい、」
「ついでに中のも出してくるか。」
「やだ・・・。」
子供のように愚図り、俺のを抜くのも嫌がるので結局挿入したまま用を足させる。中は一回掻き出したものの、出した量と分泌してる分でドロドロに柔らかくなっている。体力的にも限界が近いだろうに、我儘を云うように離れるのを嫌がる。コイツに煽られ引きずられ、幾ら抱いても匂いがあまり治まってきている感じがしない。
「アンリ、休憩だ。水を取ってくる。」
「やだ、ディルの飲む・・・。」
それならついでに抜けるから丁度いいし、まぁ一回くらいいいかと思い、咥えさせると懸命に吸うので遠慮なく口で扱く。まだ発情している顔で、気持ち良さそうに喉を鳴らして、俺が出したものを嚥下して。
俺の射精量はさすがに落ち着いた気がする。残りも吸い出し、アンリは満足そうに口を離したが、ごほ、と絡んだ音の咳をした。
「ほら、すぐ戻るから大人しく待ってろ。」
アンリは惚けた顔のまま大人しく頷いたので、俺は少しだけ窓を開け、甘い香りが充満している部屋を出た。
服を引っ掛け、向かった台所の通り道の居間には弟達だけが居た。アンリは2,3日前から自分の部屋にほぼ籠城していたから、いざヒートが来ても弟達は大して被害を受けず、弟間で共有してるオメガに相手をさせるくらいで済んだらしい。
「アンリの匂い、治まったね。」
「すぐ噛んだからな。」
「兄さん、アンリは炭酸水が好きだよ。クライン製のじゃなくてベッリーニの。」
あんな桃の香りがするのを誰が飲むのかと思っていたが、アンリ用だったか。弟達は昔からちゃんとアンリとコミュニケーションを取っていたので、アンリの好みについて詳しい。互いに家族としか思っていないのは重々承知しているが。
「・・・なぁ、アンリは匂う方じゃないか?」
自分たちも喉が渇いたらしく、飲み物を取りに来たアーデルベルトに弟達が好きな方の炭酸水を渡しがてら訊くと、下の弟は首を傾げた。
「まあ今日は凄かったね。でも番なしだったんだし、普通じゃない?普段はたまに良い匂いがするなってくらいだけど。」
「俺達はアンリに惚れてないから。多分兄さんが感じてるのとは全然違うよ。」
上の弟、アーダルベルトもやってきて口を出す。それからアンリを擁護するように交代で喋り続けた。
「アンリは良い子だよ。優しいし、料理も上手い。兄さんと同じで浮気するって概念も無いし。」
「父さんの墓参りも殆ど毎日欠かさないしね。でもアンリは兄さんの好きなスズラン摘んできて飾ったり、ほんとに子供はまだ要らないのかなって俺達に訊くんだ。かわいいよね。」
「・・・・・・・・・。」
「兄さんはもっと、アンリと話した方がいいよ。」
分かったという返事代わりに俺は弟達を手であしらった。二人も俺の事もよく分かっていて、すぐソファーへと戻っていく。
なんか、休憩に来た筈が全然気が休まらなかった。アンリも俺と同じで、あまり直接俺には質問をしない。でも弟や他の同居人とはよく喋っているし、俺にもそこそこ話し掛けてくるようになったので、俺の所為なのは間違いない。アンリを手に入れても俺はまだ、アンリとどう向かい合ったらいいのか分からないでいる。
とりあえず寝室へ戻り、放置か換気したのが良かったのかアンリの表情は熱っぽいで済むくらいで、大分落ち着いていた。水と炭酸水を差し出すと、炭酸水を選んだものの、指に力が入らないようで、代わりに瓶を開ける。
身体も動かし辛いだろうに人の足の間までやって来て収まって、俺に寄り掛かりながら少しずつ水分を摂るアンリと、俺は会話をする努力をしてみた。
「・・・お前は子供が欲しいのか?」
「え?跡継ぎは居た方が良くない?でも、まだ別に、急ぐ年でもないのかなぁ。」
「そうだな。・・・あと、うちは双子が産まれやすいんだが。」
「それ、聞いたことあるけど、っ、ん、」
撫でた下腹部はこの体勢じゃ見えないものの、ちょっと膨れたままな気がする。炭酸水を差し出されたので受け取り、濡れていて柔らかい場所を拡げてもあまり精液は溜まってないようだが、やっぱりどこも造りが小さい気がして、こういう話をしていると不安が増してきた。
アンリはただ、甘い息を吐いて、俺に腕を回してきたが。
「もう一回奥までする?」
そう囁くアンリを寝転がせ挿入すると、ちゅっ、ちゅと奥で子宮口が吸い付いてくる感触がする。精液は子宮には溜まっていて、ゆっくりと一番奥まで押し入れると、ちゅぷちゅぷと粘った水音が増した。
アンリは気持ち良さそうに、ふぅふぅ息を吐く。ぐずぐずな表情で、挿れたまま動かないでいる俺を見上げながら。
「ねぇ、おれの心配してる?」
「・・・まぁ、それは勿論ある。」
流石にこの話題じゃ自分の意見を伝えないと不味いかと思い、俺は頷いた。
「双子は難産になりやすい。ただでさえお前は小柄だから・・・。」
「でもちゃんと、ディルの呑み込めたんだけど。」
「もう腹が膨れてるだろ。」
発情期分とは云え、およそ一回分しか溜まってないのにもう一度、確かめるように触るとやっぱり大分張っている。最初に出した分は流れ出てこないままだし、これ以上は不味そうなので手前で出すしか無い。
この小さく薄い腹で、もしかしたら一度に二人もちゃんと育てられるか、育てられたとしても出産時にアンリの命を削る可能性は高いと思う。
「・・・後は、もうちょっと対話が必要だと思った。」
「じゃあ毎日話をしようよ。あんまり事務的な会話じゃなくて・・・。おれにこうして欲しいとかでもいいし、仕事の愚痴でもいいよ。なんか、他愛ない話。」
「ああ。分かった。」
「ね、まだゆっくりしたい、」
「ああ。」
「ひっ、あっ・・・、」
腰を動かさなくてもずっと気持ち良さそうなのに、自分でも腹をさすり、もっととねだる。すぐにぎゅうぎゅう抱きついてきたアンリの手を緩めさせ、手前の方で射精しても、つられてアンリもイった。
「ディル、挿れたまんまがいい・・・。」
もう匂いも落ち着いてるくせに、うとうとした目で俺を手探りで抱き寄せ、ぎゅう、と頭を抱え込まれた。そのまま俺の短い毛を撫でる手が案外心地いい。
「おれね、そのうち子供欲しいな。ちゃんと出産のこと、勉強するから・・・。」
「・・・そうしてくれ。」
アンリは周りに愛嬌を振り撒きながらも、昔から当主の番としての自覚はある奴だったから、そう云うと思ってた。でも、子グマかわいいよねなんて、独り言のように甘い声で云ってのけるから、救われた気持ちになる。俺もアンリ以上に出産について調べ、コイツの負担を減らせるよう努めなければならない。
まぁ子供なんて生まれたらコイツは人任せになんてしないだろうから、かかりきりになるだろうし、アンリも云った通り、当分先で良いんだが。
とりあえず今は、快楽に弱くて柔らかくて甘ったるい、ふわふわと眠そうな番を、ぎゅうと抱きしめた。
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