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第3話
「わかる。俺何回も禁煙してるけど無理なんだよ。……電子タバコってどうなの? 吸ってみたい」
「いいよ……じゃあ、吸うとこ交換するから待って」
禅一は自分の電子タバコの吸い口を取り外そうとしたが、庚に止められる。
「そのままでいいよ。味見するだけだから」
「衛生的にどうかと思うよ」
「いいからぁ、貸して」
庚は電子タバコを禅一から強奪すると、不慣れな感じで吸っている。
「……なにこれ。うーん」
「いろんなフレーバーがあるんだよ。面白いでしょ」
「俺は普通のタバコが好きだわ。……はい、間接キスごちそうさま」
にやりと不敵な笑みを浮かべて、庚がそれを返した。
「間接キスってなんか面白い?」
「……いや大して。リアクション見たかっただけだけど、予想以上の無反応だな。なあ、禅一さんの立ち位置がよくわからんのだけど、ゲイに偏見ない感じでそれはいいんだけどさ、禅一さん自身はノンケなの?」
覗き込むような上目遣いで質問を投げた庚は、言ってからちょっと気まずくなったのかすぐに目を逸らした。
「ノンケ?」
「それともゲイなの?」
「あまり考えたことはないけど、恋愛対象は出来れば年上の女性が良いね」
庚が酔っ払った際の言動で、ゲイであることは禅一にバレている。しかし特に過剰反応を示すこともなく、揶揄も拒否もされず好奇の目で見られることもなく、普通に今に至っている。
「ふーん。付き合ってる女いるの?」
「いや……今はそういう存在はいらない気分」
「禅一さん28歳の男だよな?」
「うん、庚くんと一緒だね」
「ムラムラした時どうしてんの」
「……さっきから庚くんは僕に何を言わせたいの? 寂しいのかな?」
「うん、そお……いかにも淡白な禅一さんに、めちゃくちゃにされたいなーっていう願望がね、俺の中にあって」
ここまで明け透けに言ったところで、ようやく反応らしきものがあった。しかしそれは照れ或いは嫌悪とか言った類いのものではなく、困惑混じりの窘めだった。
「うーん、だからね。僕は役に立たないよそういうのは。さっき断ったでしょう」
「EDかなんか?」
「庚くんてほんと失礼だよねえ」
禅一は呆れたように呟いて、コーヒーに口をつけた。
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