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第5話

 恋愛相談を受けることが、何故か多い。それはカフェを開く前からそうだったが、自分に相談されても解決しないのに、と禅一は常々思っている。それでも聞いてあげるのは、それは実は相談ではなく、当人の心中の整理作業だからだ。 「ご連絡されたら良いのでは。連絡先が変わったのでしょうか」 「いや……変わってはないと思います。ただ気が重くて出来ないだけで」 「ずっと気が重いままお過ごしになるのを良しとしますか?」 「そんなわけないでしょう」 「ですよね。じゃあ一択では? 勇気を出して、七尾さんから電話なりメールなりしてみたら良いと思います」  むきになった七尾に対し、禅一は穏やかに笑んだ。  少しの沈黙が落ちる。  店内に流れる音楽を聴きながら、禅一は相手の言葉を待つ。こういうのは急かしても良くないし、自分はただ聞いてあげる立場だ。 「……実はその仲違いの原因というのが、浅見さんでして」 「え……はい? 僕ですか?」  のんびり構えていた禅一は、思っていなかった方向からボールが飛んできたので、何度かまばたきした。 「誰とは言いませんが、俺の付き合ってる人は浅見さんと面識がありまして。浅見さんをやけに褒めるんです。あんな可愛い顔の男はなかなかいない、華奢で細くて、同い年の男とは思えない……とかなんとか。一体どんな男だと思って偵察に来た次第です。確かに浅見さんの顔面偏差値ヤバいです。あいつの好みだなって……すみません」  七尾は気まずそうにゴニョゴニョと呟いている。しかし言いたいことは大体禅一に伝わって、思わず苦笑いが出る。 「あ……えー……わかりました。僕は当て馬ですね。大丈夫ですよ」 「当て馬?」 「七尾さん、もっと強気に出ても良いのでは? 僕はそのお相手ではないのでわかりませんが、第三者を褒めた上で、例えばですが、『俺だけを見てろ』的なことをね、言って欲しかったとか。そういう可能性なくないですかね」 「……ど、うでしょう。なんとも」 「一応お伝えしておきますと、僕は今誰ともお付き合いする気はないので、その辺も大丈夫ですよ」 「……そうなんですか」 「まだ僕に確認したいことありますか?」  七尾は自分の腕時計を見て、既に持ち時間を過ぎていることに気づいたようだった。 「いえ、ありがとうございます。少しすっきりしました」 「またどうぞ」  何か考え始めてしまった七尾にお辞儀をして、その場から離れた。  禅一にしたら本当に苦笑いしか出ない。七尾の名前は以前耳にしたことがあった。

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