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『嘔吐』第5話
三十分くらい経ったと思う。実際の所はわかんねーけど、たった五分しか経ってないかもしんないけど。少なくとも俺には三十分くらいに感じられた。
相変わらず密着してるおかげで、熱は逃げるどころかどんどん上昇している。熱い。でも、逃がさないと言わんばかりの腕は解放してくれない。これはこれでとても幸せな状況に違いないけど、「ごめん、やり直そう」って言葉が交わせればもっと幸せだった。逆に、明日には「出ていけ」って言われるんだとしても一回位セックス出来たら、そのたった一回が一生の記念になったのに。
「寝ちゃったんすか」
「……セオさんはずりーです、本当に。俺は寝れねーすもん。まあ、起こすつもりでこうして喋り掛けてるんすけど」
「何なんすかね、どうしてくれるんすか。ヤりたくて仕方ねーのどうしたらいいんすか。せめてそれくらい教えて下さいって」
「心臓痛いです。苦しいです。好きすぎてやばいです。ねえセオさん、好きです、大好きです、いちばん好きです」
セオさんの胸に顔埋めて、くぐもった声で一通り独り言を呟いている内に語尾が涙声になった。鼻がつん、とした。
いつもセオさんの寝息は小さくて、寝てるのか起きてるのか判別つかなくって。耳を必死に澄ましてやっと分かるくらいで。今日も例に洩れずとても静かだから、元から起きてたのか、俺の独り言で起きたのか、それともぐーすか呑気に寝てるのかわからない。宙ぶらりんだ、俺。
はぁ、と盛大な溜息が極めて耳に近い場所から聞こえた。吃驚して全身が跳ねて、心臓やばい。呆れられたかもしれない。
そんな俺の予想は大きく裏切られて、きつく力が込められていた腕が少しだけ緩んで、するりと背中を通って俺の頭に滑って柔らかく撫でた。全身に力が入って息が詰まって、耐え切れずに目をきつく閉じてもよくわからない苦しさは遠退いていかない。
そのまま後ろ髪引っ張られて、不可抗力で少し顔を上げたところにセオさんからのキスが降ってきた。さっきよりもずっと熱くて柔らかく感じた。理由はわからないけど。
ねっとりなんてのを通り越して、物凄く丁寧に味わい合うかの様にお互いの舌を絡めて、時々唇を柔らかく吸い上げて。優しい愛の味がする接吻をする内に力が抜けてふにゃふにゃになる。とても静かで必死なのに気持ち良すぎるキスだった。
「えっちは今日はしません、」
いつもより低くて掠れた声がまた、あっさりと俺の欲望を否定してきて、なんでと口答えする前に再び口を塞がれた。じゃあなんでこんな優しいキスすんの、って。何もないならそれはそれで不貞腐れる癖に、何か仕掛けられても文句を零しそうになる自分が嫌だ。でもそれ位ヤりたい。セオさんとセックスして、ぐちゃぐちゃになって馬鍬って疲れ果てて死んだみたいにぐっすり寝たい。
ヤらねーならそれでもいいからせめてヌきたい。情けなくていいみっともなくても構わない、トイレで一人で扱いて出す事さえ出来たらそれでいい。ぐっと胸を押して一刻も早く逃げ出そうとした。
それさえ全部分かったみたいなセオさんの束縛が恨めしかった。
腕枕して貰ってた腕が胸元に顔を押し付けるみたいに抱き締めてきて、背中を滑った方の手がわき腹を辿ってジーンズ越しに骨盤の出っ張った部分をなぞった。器用に外されたボタンと下げられたチャック。出来た隙間から強引に滑り込んで来た手が躊躇なくパンツごと勃起した所を掴んだのは直ぐその後だった。
「っ、うぁ」
ゆっくりと程好い力加減で上下に擦られて、今晩だけでも相当なお預けを食らった下腹部がぞくぞくと快感を訴える。ボクサーパンツの中は既に濡れていて、恥ずかしいのと気持ち良いので目の前に火花が散った。ゴムという最後のなけなしの防御壁を破って侵入してきたセオさんが掌を先端に宛てて優しく撫でる、ただそれだけなのに今すぐにでもイってしまいそうだった。
「そ、こ…あ、や、ばっ……ぁ、は、」
「うん、びくびくしてる」
「ッ、あぁ……は、ぁ、はンっ」
かわいい、と声を交えた吐息が耳を掠めていくのが心地よ過ぎてぶっ飛びそうになるのを必死に堪えるのに、そんな理性ぶっ飛ばす勢いで玉を揉まれて先端までゆっくりと扱き上げられて。少しずつ絞り上げるみたいに根元から先端までゆっくりと指を絡めながら上下されたら、もうしがみつくしかなくて。
「や、だッ……も、あ、はッ、ッ」
「早いよ。でも、まだダメ」
「ッ、」
愛撫を止めてするっと離れていくセオさんにまた寸止めかと絶望が襲って来た。
でもやっぱりセオさんは優しくなくて、優しい人で。
仰向けにされて、ボクサーパンツごとジーンズを剥ぎ取られた。覆い被さってきたセオさんもズボンを脱ぎ捨てて、二人分のズボンが床に投げられる音を聞いた。男同士の行為が初めてな俺は、挿入られるのかって期待と不安と、痛いって噂のそれに恐怖を覚えたけど、最早そんなのどうでも良くて。目の前にあるセオさんの首に腕を絡めて、快楽の続きを待ち侘びる。
「握って。一緒に」
「ン、はッぁ、あ……ンン、っ」
「うん、気持ちいー、っ」
状況と不釣り合いなゆったりとしたいつもの口調のセオさんの眉間は少し皴が寄っていて、眉尻は下がっていた。
俺のとセオさんのと二本を一緒に握るには少し長さが足りなくて、補う様にセオさんが手を重ねてきて。自慰さながらのそれなのに、目の前にセオさんがいて、セオさんのも一緒に握り込んでて、二人で二人のを一緒に上下に扱いてるって現実が自慰とは全然違う興奮と快感を次々に呼んで来る。
セオさん、完勃ちだった。俺の見て興奮してくれた、とか。やばい、だめだ。イく、
「ぜんじろーくん、ッ」
「…は、ァっ、な、んっすか、あッふ、ぅ」
イっていい?
耳元で確かにそう聞こえた呻き声にこくこくと頷くしかなかった。
自然と腰を振って擦り付けながら、必死に手を動かして昇り詰めた。
早漏とか遅漏とか、我慢とか。そんな事を考える余裕なんてとっくの昔になくなっていた。
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