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『嘔吐 -Another-』第4話

物言いたげな彼が顔を上げたのを見計らって食らい付く。 不意打ちにも関わらず何の抵抗も見せない唇を舌で割るのなど容易い事で、柔らかな口内を貪る。 唯一たどたどしい動きを見せる舌を吸い上げて、歯列をなぞり、上顎の裏を擽ると腕の中で肩が跳ねた。その後で肘元を弱々しく握るのは凡そ呼吸も儘ならない程にでれんでれんな彼の細やかなサインだろう。 ただ一息の呼吸を許した後で、透かさず唇を塞ぐ。それだけの事なのに、たかがディープキス如きでとろとろに蕩けて体重を預けてくるのを抱き留める。 濡れた薄い唇を口唇で啄み、今度は自らの意思で絡めて来ようとする自我のある舌を擽り、裏筋をそっと撫で上げてから最後にもう一度尖った舌先を吸い上げた。 名残を惜しんでしまえば、なけなしの理性を繋ぎ止めていられる自信がない。 「……寝ます」 すっかり蕩けた彼を引き摺ってベッドに放ると濡れた瞳で、なんで、と問う彼がちょっぴり憎い。 君が、そんなだからですよ、ぜんじろーくん。 まぁ、そんな風にしたのは僕ですけどね。 意地悪な言葉を喉元までで抑え込み、誤魔化すように肩を竦める。 それを見て諦めたのか誘っているのか、壁際に身体を寄せ、僕の分であろうスペースを開けてくれた彼の隣へ寝転んだ。首の下に腕を差し込んで細い体を抱き寄せて胸の中に収めたら、何か言いたげでありながらも、彼はやっぱり無抵抗で。痛んだ髪に頬を寄せる。 「えっちはぜんじろーくんの顔色が戻ってからね」 ぎゅうぎゅうに抱き込んで密着しても寝具の上に残された猶予は少なく、大きな寝返りなんて打とうものなら僕は床に転がり落ちてしまうし、彼は壁にへばりつく事になる。やっぱり狭いなぁ、と思うけれど今はこの狭さのおかげで密着出来ている。それなら少しくらいこのシングルベッドに感謝しても良いかもしれない。 待ってこれじゃまた眠れないと苦し気な声に、お仕置きなんだと返事を返してきつく目を閉じる。 アルコールの所為で勃起なんて到底無理だろうと思っていた彼のモノが少し頭を擡げているのは知っている。でもこんな日は、こんな夜は。こんな事になるまで問題提起さえ出来ずに有耶無耶にしていた僕らには。少しお仕置きした方がいい。 その方が痛くて辛くて、物分かりの悪い君も、ヘタレな僕もきちんと反省できる。 それでも、隙あらば自慰でも何でもおっ始めてやる。そんな気勢を見せて身じろぐ彼をしっかりと改めて抱き込む。 「だめ、だって」 「なんでっ」 「優しく出来ない」 「いいのに、っ」 彼は男同士のセックスがどんなものかさえ知らない。下準備には割と時間が掛かるし、今日明日でどうこうなるものでもないんですよ、と説得した所で今は聞く耳さえ持たないだろう。 情欲に身を震わせる彼の背中を一撫でして、昔々のお昼寝の時に誰かがそうしてくれたみたいにとんとんとリズムを刻むと、漸く諦めがついたようだった。

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