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高校1年生 (2)

青花の家に泊まりに行く日、珍しく仕事が休みだった母が菓子折りやら野菜やら色々用意していて、全て持たせたせいで1週間程宿泊するのではないかという荷物量になってしまい、出迎えてくれた青花を驚かせてしまった。 着いたのは昼前で、昼食を作るところから始まった。せっかく持たせてくれたのだから、と菫さん――青花のお母さん――が色々作るのを手伝ってくれてかなりの量になってしまったため、多く残ったそれをそのまま夕飯にすることにした。 片付けが終わり青花が自室へ向かったため、声をかけられた訳ではないが何となくそれについて行った。青花も俺が着いてきているのを確認してそのまま階段を昇った。 「……面白いものはないからね?」 と少し照れくさそうにしながらドアを開ける。 部屋の中には本が並ぶ棚の一部に、フィギュアがずらりと並んだエリアがあった。有名なゲームのキャラクターのフィギュアたちが綺麗に並べられている。 「わ!すげぇ……!」 「だろ?集めるの必死だったわ」 中学からの知り合いだが初めて知る友人の内面。この空間には青花が詰まっている。 「想像もできないや。…もしかしてこの中に青花のタイプのがあったりして!な、な、どの子がお前のタイプなんだ?」 「タイプか。特に考えたこと無かったけど……」 悩んだ末に青花が指さしたのは黒髪のクール系のサブキャラだった。 「ほう……青花はこういうのが好みなのか……。つかこれ男だよな?こういう感じの女子が好きなのか?」 「あ、いや、そうじゃないんだけど……」 「じゃあ……男が好き……とか?」 「へっ!?い、いやいや!いやいやいやいや!ないない。そんなわけないよ。それは普通にキャラとして好きなだけ」 「……ふーん?」 「なんだよ……」 これは踏み込んでいいものなのか、かなり悩んでしまった。友達の部屋に来て、男女比率は男多めなフィギュアの列。タイプを聞いて答えたのはまさかの男キャラ。 ……てっきり巨乳の露出多めなお姉さんタイプか小柄な可愛らしい女の子かの2択だと思っていたため、男を指された場合の回答を用意していなかった。 ふと、青花の恋愛話を1度も聞いたことがないことに気付いた。付き合っている人の話どころか、片思いに関する話まで。修学旅行の夜に起こりがちな「あの子可愛いよな!」みたいな話も記憶の中に存在しない。確か高校1年生の林間学校では「恋愛対象は――」と言っていた気がする。 目線を上げると青花が目を見開いていた。 考えてるうち、口をついてでてしまったようだ。 「悪……」 「覚えてたんだ」 青花のいつもより重い低めの声がやけに耳についた。どうしようかと悩んでいたら青花は急にニコッと笑った。 「よく覚えてたね。あんなその場のノリみたいな会話てっきり忘れてると思ってたけど、案外颯太って記憶力いいんだね」 不思議と青花の顔は笑っていたが、目は笑っていないように見えた。 「そうだよ。俺は人形にしか欲情しない」 「それってどういう……」 「そのままの意味だよ。だから俺は女の子と付き合ったことは無いし、まして男と付き合ったことも無い。過去告白された時も、気持ちに応えられないからって振ってきてる。そういう奴だよ、俺は」 どう反応していいか答えあぐねていると、青花はおもむろにゲーム機を取り出し、「そんなのいいから、遊ぼうぜ!」と声をかけてきた。俺はそれ以上の詮索をやめ、その後は楽しい時間を過ごした。

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