8 / 52
高校1年生 (7)
この日は青花の案内で青花の家の周辺を歩いた。よく行く店や近くの公園を抜け、青花の通っていた幼稚園、小学校と回り、最後に中学校に来た。俺達が出会った場所、お互いがお互いに片思いをした場所。グラウンドでは野球少年たちが炎天下練習をしていた。
「ねえ颯太、俺と一緒にいるようになってから野球やらなくなったよね。なんで辞めたの?」
グラウンドを眺めたまま、表情は変わらない。
「ちょっと怪我を、ね。肩だったんだ。今はもう普通に生活するだけなら問題ないけど、ボール投げるのはちょっと難しい。当時は続けたい気持ちが強くて毎日リハビリしたよ。けどどうも前みたいに動かせなくて、無理なんだなって自覚した時にはもう卒業だった。高校入ってからも考えたけど、ブランクがあるし、体力も落ちてた。諦めが付いたんだ」
「怪我、俺知らなかった」
「言ってなかったからな」
「なんで!」
心配かけたくなかったから、と言って手を握ると青花はかなり驚き周りを見渡したが、人通りがほぼないことを確認し、そっと握り返してきた。
「外で手は……」
頬を染めてムスッとした顔が可愛くてそのまま無理やりにでもキスしたかったが、堪えた自分を褒めて欲しい。ただでさえ男同士だ、世間の風当たりは強い。あまり青花が生きづらくなるようなことはしたくない。
そっと離そうと握った手をゆるめると、さらに強い力で握られた。
「……今日はいい」
「そっか」
俺はまた繋がれた手を握り返し、気持ち青花に寄り添うように一方横に足を出した。
「それじゃあ、今度は俺が颯太のうちに行くから」
「おう。待ってる」
俺が青花の家に泊まって2日経ち、青花がうちに来る日、青花はうちに来なかった。
12時に来る予定だったのだが、12時過ぎても、13時になっても、15時になっても青花は来なくて、送ったチャットも既読がつかなかった。結局青花から連絡が来たのは夕飯も終わった21時。体調を崩して寝込んでいたそうだ。
大丈夫か聞くと、
「大丈夫。連絡もしなくてごめんね。明日行っても大丈夫?」
と返ってきた。
気を付けて来いよ。とだけ送り、チャット画面を閉じた。
相変わらず親は仕事で2人とも家に居ない。寂しいと感じたのは初めてだった。
ともだちにシェアしよう!