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高校1年生 (9)
颯太の家に行くはずの朝、息子が起きてこないのを心配した母が部屋を覗くと彼はベッドの上で胸を抑え、荒い呼吸を繰り返していた。
病院に運ばれいつものように薬を投与される。症状は突発的だが、こうして薬を投与して少しすれば良くなるものばかり。症状が出ない限り普段は何の症状もなく普通に生活ができる。だから……
「……行きたかったのにな……颯太の家……」
薬を投与されている間スマホを持ってきていないことに気づき、手持ち無沙汰で眠ってしまっていた。
目が覚めた時にはもう既に陽が落ちており、月が当たりを優しく照らしていた。
念の為今日は病院に泊まりなさい、と医者に言われ一日だけ入院することになり、面会時間も過ぎた20時頃、母がスマホを家から取ってきて青花に手渡し、帰っていった。
慌ててチャットアプリを開くと通知が何十件と入っていた。全て颯太のもので、心配するものばかりだった。
今すぐにでも謝りたかったが、病気のことを隠している手前下手なことを言えない、と考えに考え、一時間ほど経ってからようやく送信することが出来た。
「退院は10時か。真っ先に颯太の家に行こう。荷物は後でもいいや」
退院手続きを終え、書類等諸々を迎えに来ていた母に預け、とにかく急いで駅に向かった。
颯太の家の最寄り駅までは二駅、自分の家の最寄りを過ぎ、次の駅。
――住所を聞いておいて良かった。これなら駅からでも道がわかる。
とにかく早く会いたい一心で全力で走った。
インターホンを押す前に大きく吸い込み息を整えて、軽く汗を手で拭い、インターホンに触れた。
音が鳴り始めるのとほぼ同時、「はい!」と返答が返ってくる。
――颯太の声……。
颯太の家に来れた喜びと、近いうちにこの声も聞けなくなってしまうかもしれない、と胸の糸は酷く絡まったようにギチギチと悲鳴をあげた。
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