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高校2年生 (3)
いつものように青花の病室を訪ねると、青花は部屋にいなかった。しばらく待てば来るだろうと思い椅子に腰掛けると、目当ての人物は思ってたより早く部屋に戻ってきた。
「颯太、来てたんだ」
「おう。体調どう?」
「今日はまあまあ」
そのまま青花はベッドに腰掛け、大きく深呼吸をした。
「俺ね、颯太に言わなきゃいけないことかあるんだ」
俺は嫌な予感がしてならなかった。ここ最近の青花を見てるとそれこそ明らかで。
きっと話される内容として考えられるのは病気に関すること、そしてもうひとつは別れ話。いつかは来るだろうと思っていたことだ。
「……まず一個目。黙ってたんだけど俺、高一の夏休みに颯太の家に遊びに行けなかった日、先生から余命はおおよそ三年って言われてたんだ」
冷水を頭からかけられたような感覚になり、言葉が出てこない。病気のことであることは予想していた。しかし、余命があまりに短すぎる。昨年の時点での三年ということは大学一年生の年であり、下手したら高校卒業を迎えた時点で青花の命も尽きる可能性があること。
それじゃあ青花が言ってたルームシェア出来ないじゃんか。青花のことだ。迷惑をかけるくらいなら別れよう、と言い出すかもしれない。それは絶対に嫌だ。
「それともう一つが――」
「やめろ!俺は青花と絶対別れないからな!」
食い気味に青花の話を遮るように言ってしまった自分の声に驚いたが、もっと驚いていたのは青花で、目をまん丸くしていた。
「わっ……別れないよ!?何の話!?颯太と別れるなら俺寿命待たずに今死ぬからね!?」
「そこは別れても生きろよ!」
プッと2人同時に吹き出し、声を上げて笑った。
「俺ね、どんな手を使っても生きたいんだ、颯太と。でね、いっぱい調べて、いいんじゃないかなって方法が見つかったんだ。もちろんリスクは無いわけじゃないというかリスクしかないんだけど……」
膝の上で固く握られた拳にそっと手を乗せると、ゆっくり手を弛めて静かに話し始めた。
「俺、薬ができるまで、この体を冷凍保存しようと思うんだ。海外では研究が進んでるらしいんだ。俺のこの病気の薬ができるまで俺は自分の体を冷凍保存しておく。そうすれば俺の中の病気は進行しないまま長時間保持しておくことが出来る」
突飛な話だが、青花は至って真剣に語っていて、既に親や主治医にも相談しているという。もしこれが成功するなら、青花とこの先何年もずっと一緒に生きられるということだ。
「ただ、問題なのはリスクの方なんだ」
ずっと顔を見合わせていた青花はその瞳に影を落とした。
「今人体を冷凍する技術はかなり上がってきてて、そこは心配ないらしい。ただ問題は解凍で、今のところ生還した人間は居ないらしい」
「……じゃあもし冷凍したとして、薬が出来て実用されたとしても生きれる確証はないってことか?」
「そういうことになる。だから、颯太に決めて欲しいんだ」
「なん……で俺が……そんなの――」
どっちを選んでも死ぬってことじゃんか。放置すれば青花はこのまま病気が悪化して長くは生きられない。けど冷凍したって生還者の前例がないんじゃ死も同然だ。……だから青花は俺に答えを委ねたのか。どうせ死ぬなら、と。
「俺は、颯太がどっちを選んでも恨まないし、どっちでも従うよ」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「颯太が好きだからだよ。颯太が好きだから、颯太が死ねって言ったら迷わず死ねる。……まあ言われなくても死ぬんだけどさ」
笑って見せた青花は清々しい顔をしている。きっと青花自身相当悩んだはずだ。
だからこそ、安直な考えで答えていいものじゃない。
「……明日まで時間をくれるか?」
青花は笑って頷いた。
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