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高校2年生 (5)
準備も終わり、座っているのも落ち着かずに部屋の中をうろうろ待っていると、階段を登ってくる足音が聞こえてきた。
――きた!
緊張はピークに達し、部屋のど真ん中でドアを見つめて直立してしまった。
ガチャっとドアが開き、開けた主に名前を呼ばれる。
「颯太」
「なんだよ母さんかよ!」
一気に全身の緊張が解けて、ピンと伸びていた背筋が緩む。
母さんは部屋の装飾と俺の緊張具合から口角を吊り上げ、口元に手を当てた。
「あら?あらあら?颯太くん……あらぁ!」
そのにやけ顔がウザったくて部屋から押し出すと、ちょうど出てきた青花とバッチリ目が合った。
「あら青花くんおかえり!」
「あぁ……おかえり」
「ただいま……って、これどういう状況?」
「あらー!邪魔者はここで退散するわね!菫ちゃーん!」
俺がため息をつくと、青花はこてん、と首を傾げた。
今このまま部屋に入られるのはどうにもムードってものがない。俺は三十秒待ったら部屋に入ってこい、と青花に伝えて部屋の中に入った。
ここ俺の部屋なんだけど、と外でボヤく青花を横目にドアを閉めて深呼吸をする。さっき母さんが入ってきたことで少し緊張はほぐれた気がする。
三十秒経ち、外から「入っていい?」と聞かれる。
もう一度大きく深呼吸をして、許可を出す。
「失礼しまーす……え、うわぁ!」
俺は初めと同じ、部屋の真ん中で青花を迎える。
「青花、誕生日おめでとう」
部屋のドアを開けた途端青花は部屋中をキョロキョロ見渡しながらゆっくり部屋に入ってきた。
「この短時間に颯太がやったの!?凄い……!」
部屋には花びらを散らばせ、ベッドの上には「1」と「7」のバルーンを並べて置いて、その周りをバラの造花でハート型に囲った。
「これ本物?本物だぁ。いい匂い」
机の上に置いたアロマキャンドルを覗き込んだ青花がうっとりとした表情を浮かべる。
「青花」
「ん?なあに?」
「俺、色々考えたんだ。色々考えたんだけど、やっぱりこれしか浮かばなくて」
俺はポケットから小さい箱を取り出し、片膝をついて顔の前で開けて見せる。
「青花、青花のこの先の人生全てを俺にください」
「うそ……信じられない!颯太っ!!」
ボロボロと涙を流す青花は目元の雫を手の甲で拭いながら強く何度も何度も頷いた。
「うん、うん。こちらこそ!嬉しい……こんな……最高すぎるよ」
「良かった。ねえ青花、これ俺につけさせてくれないかな?」
立ち上がって手を出すと青花は震えた左手を差し出す。
サイズはピッタリで、第二関節での若干の反発を押し進めると最奥まで辿り着いた。
「ピッタリだ」
青花ははめられた指輪を仰ぐようにして眺めた。
「綺麗な石……」
デザインはシンプルだが、一つだけ石が埋め込まれている。
「それ、ムーンストーンっていうんだ」
「ムーンストーン?」
「青と白の光が入る石で、青花の誕生日の守護石の一つなんだ。そんで、色が青と白だろ?青花の名前には『青』が入ってるから、その石を見た時青花が浮かんだんだ」
「へえ……」
「それだけじゃない。この石の名前、ムーンストーンだろ?日本語に訳すと月の石。俺の苗字は?」
「望月……月だ!」
「そう。だから、何となく運命を感じたんだ。この石は俺たちの石だって思った」
青花は頬を赤らめ、そっと指輪にキスを落とした。
「ありがとう颯太。最高の誕生日だ。一生忘れない」
青花の笑顔を見たその時だった。ふっと力が抜けて再び膝をついてしまった。
「颯太!?どうしたの!?」
「あー、安心したら力抜けた」
「ねえ、指輪、颯太のもあるの?」
そんなのもちろん用意してるに決まってる。ある、と答えてポケットから同じデザインの指輪を取り出した。
「それ、俺にはめさせてくれない?」
指輪と左手を差し出すと、ゆっくり慎重に指にはめてくれた。
日常生活で付けていても邪魔にならないようにさほど重くないものを選んだつもりだが、その手にはしっかりと重みを感じた。
「なんか、結婚式みたいだね」
微笑んだ青花を抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。
「好きだよ青花。ずっと、ずっと一緒にいたい」
「俺もだよ颯太。颯太とずっと生きていたい」
今この瞬間の幸せを噛み締めるように青花の髪をそっと撫でる。
腰に回った青花の手が震えていることは見て見ぬふりをして抱きしめる腕に力を込めた。
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