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高校2年生 (8)
汗やら何やら拭いて下の階に降りると、母親二人がニヤニヤしながらお酒を飲み交わしていた。そこで青花は母さん達にバレたのだと気付き、照れて大慌てだった。
気付けば誠 さん――青花のお父さん――も帰ってきており、俺は挨拶ついでに青花とのことを話すことにした。
大事な話だ、というと母さんも察したのか、父さんもこっちに向かっているからそれからにしたら?と提案された。
父さんが到着してそれぞれの親達が挨拶し終わったところで席についてもらい、全員が見える位置に立った。
「まず、菫さん、誠さん、青花の誕生日のお祝いに招待して下さってありがとうございました。家族水入らずのところお邪魔してしまいすみません。今日は僕から大事な話があります。僕は男ですが、青花くんとお付き合いさせていただいています。時間が許す限り、青花くんと一緒にこの先も生きていきたいと思っています。絶対に幸せにすると誓います。どうか息子さんを僕にください」
頭を下げると、青花がスっと俺の横に立ち、一緒に頭を下げた。
「僕からもお願いします。僕は余命があと数年と宣告されています。それでも颯太くんは支えると言ってくれました。颯太くんがいたから俺は諦めずに『生きたい』と思えました。父さん、母さん、それから玲子さん、慎也 さん、どうかこの先颯太と生きていくことを許してください。お願いします」
しばらく沈黙が続き、どうしたものか困って頭を下げたまま目線を青花と合わせたところで慎也さんが一言発した。
「青花は大事な俺たちの一人息子だ」
冷たく、静かな口調。心臓が大きく跳ね、自然と瞼に熱が籠る。
ダメかもしれないと思ったその時、肩にポンと手を置かれた。
「幸せにしてくれなきゃ困る」
顔を上げた先にいた慎也さんは眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうに笑っていた。
瞼の熱が一気に上昇し、大粒の涙になってボロボロ零れ出し、手の甲で拭っても次から次に溢れて止まらなかった。
背中を撫でてくれる慎也さんの手は大きくて温かくて、優しさのあまり大事な息子を「男」が貰ってしまうことに対する罪悪感すら感じた。
「ほら、あなたも何か言いなさいよ」
「俺は――」
父さんがモゴモゴと何かを言ったが、結局ボソッと呟いて顔を背けてしまった。
そのつぶやきが聞こえていた母さんがため息をつきつつ代弁をしてくれた。
「本人たちが幸せならいい、だって。そしたら私から一言ね。青花くん、ちょっと耳貸して」
青花が母さんに従い何やら聞くうち目を潤ませて「ごめんなさい、ごめんなさい」と言い始めた。何の話しをしているかは聞こえてこないが母さんは慌てている。少し悩む素振りを見せ、青花の肩に手を置いた。再びポソポソッと何かを伝えると、青花の目からは涙が流れた。しかし今回青花の口から出てきたのは「ありがとうございます」だった。
内容は後でこっそり聞くとしよう。
それから三日経ち、青花は荷物をまとめて車に乗り込んだ。
「行ってくるね」
「おう」
青花は検査と今後の計画を立てるため東京都心にある大きな病院に入院となった。振った左手の薬指には、あのリングが輝いていた。
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