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高校2年生 (10)

「俺が戻らなかったら他の人と恋をして、子供を作って、玲子さん達に子供を……孫を見せてあげて欲しいんだ。俺は言われてないけど多分母さんたちも赤ちゃん見たいと思うから、産まれたら俺の家にも見せに行ってくれないかな」 「……お前それ、本気で言ってる?」 「本気だよ」 颯太の顔はかなり険しい。怒っているけど、泣きそうな顔。近い将来起こる可能性が高いことだから、目を背ける訳にも行かないのは俺も颯太もわかってる。 「提案っていうのはここからね。……もし俺がちゃんと戻ってこれたら、をとって俺たちの子供として育てるってのはどうだろう」 指先の冷えた手を握ると、颯太は目をまん丸く開いていた。 「そ……れはいいな。そうしよう」 颯太の冷えた指が段々と温度を取り戻していく。 「俺は帰ってくるよ。颯太と、未来の俺たちの子供のために」 それから俺たちは、俺が起きたあと何をしたいか出し合って旅行の前のような楽しい時間を過ごした。 颯太が帰ってからはまた一人の時間に戻る。この病院に来てから自由に過ごしているが、ナースステーションから一番遠い部屋だからか日が落ちた後は時間から切り出されたように静かで、既に俺は死んだのではないかと錯覚する。 「子供……」 枕元にあるクマのぬいぐるみを手のひらに乗せて胸元のロケットペンダントを開くと、大好きな人と目が合って思わずつられて笑顔になる。 「子供の名前、何にしようかな」 ベッドに寝転びあれこれ考えているうちに意識は夢の中へ落ちていった。 七月十九日昼頃、俺の家族と颯太の家族が俺の病室に集まっていた。 俺が起きていられる時間はもう二十四時間を切ってしまっている。 「青花、何か欲しいものは無い?買って来ようか?」 「大丈夫だよ母さん。もう散々貰ってるよ」 「遠慮はしなくていいんだぞ?」 「父さん大丈夫だって。母さん達にそんなに慌てられちゃうと俺も焦るよ。落ち着いて」 目の前でオロオロしている両親。ずっと悲しげな、泣きそうな顔をしている。 そんな、まさか人が死ぬ直前みたいな対応しなくても…………あ、そっか、これで俺死ぬかもしれないのか。 颯太と起きたあとのこと話していたから、起きられない可能性が高いのをすっかり忘れてた。 可能性が高いどころか、そもそも生還した前例は無いのに。 楽しい夢の時間はもう終わった。胸の当たりがざわついてくる。息が吸いづらくなって、吸っても吸ってもまだ足りない。もっと吸わないと……途端目の前が真っ暗になり息が苦しくなった。 「青花!?おい青花!!」 遠くで颯太の声が聞こえる。聞こえるけど、苦しい。苦しい苦しい苦しい。自分が今どこにいるかすら分からなくなる。苦しい、寒い、痛い。楽になりたい楽になりたい楽になりたい楽になりたい楽に…… ――このまま意識を手放したら楽になれる? 「青花!!」 呼ばれてハッとする。今俺は何てことを…… 「青花、落ち着け。ただの過呼吸だから、まずゆっくり吐いて」 吐く?吸わないと死んでしまうよ?颯太は何を言ってるの? 手は震え、鼻頭から額の方までひんやりとして痺れてきた。 ああ、死ぬのかな、俺。 そう思っていると、何かに口を塞がれた。 少しして一旦離れるとまた塞がれる。 何回か繰り返すうちにそれが唇である事が認識できた。 定まらない焦点をどうにか合わせると颯太の顔が見える。どうやら俺の呼吸を制御してくれているようだ。 震える手を持ち上げると、気付いた颯太が握ってくれる。……温かいなぁ。 しばらくその時間が続き、少し落ち着いてきたところで颯太が離れていく。気付いていなかったが涙が流れていたようで、颯太が指で優しく拭ってくれた。 まだ鼻や額、手足の痺れは残っているものの、落ち着いて周りが見えるようになった。 「青花大丈夫か?」 頷くと室内の緊張が一気に解けたのが分かった。 颯太が俺の髪を撫で、ため息をつく。 「ご……めん」 「いや、青花は悪くないよ。辛かったな。そりゃ青花だって怖いよな」 颯太に抱きしめられ、触れているところから颯太の熱が伝わってくる。寒気すら感じていたのが嘘みたいに温かくなっていく。 その後親たちを外に連れ出した颯太が説教してたらしいことは何となく察した。

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