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高校2年生 (12)
「恋人だったりするの?」
「え……?」
彼の表情は変わらず笑顔だった。きっとそうやって聞くってことは、否定的な意識は無いのだろう。そうでなくても、青花の様子を見に来る以外もうこの人に会うことは無い。
恐る恐るだが俺と青花が恋人同士であると伝えると、彼の取ってつけたような笑顔が輝きを放つような笑顔に変わった。
「そうだよね!いやぁ、実は橘くんが入院してきてからずっと見てたんだよねぇ」
「え」
「あ、いやいや!狙ってるとかそういう事じゃなくて!人体の冷凍保存なんて、どこかの学者の論文で発表されたってのは聞いたことあったけど、生還者が居ないから不完全だって言われてて。挑戦する人は何人かいたけど、解凍に失敗して細胞が壊れちゃったり、怖がって解凍しなかったり……まあ実際は百年くらいは冷凍しておけるらしいからすぐに解凍する必要は無いんだけど」
淡々と語っているからか、内容としてはかなり恐ろしいことを言っているが、不思議と恐怖は感じない。
「そんな危険なことにあの若さで挑戦するんだろう?並の覚悟じゃないなって思ったんだよね。理由を聞いてみたら『大切な人と未来を生きるためです』なんて言うから余計に気になっちゃって」
「青花、そんなこと言ってたんですね」
「うん。それに、様子見に行く度にクマのぬいぐるみを持っててさ。チラッと遠目に見たらちゃんと見えなかったけど写真が入っててさ。大切な人?って聞いたら照れながら頷くもんで、キュンキュンしたね。こんなに健気な子が大好きな人はどんな人なんだろうって。そしたら君がお見舞いに来た。最初はただの友人かなって思ってたんだけど、話してる様子はもっと近しい印象だったし、何より家族でないのに前日から泊まりに来てまで一緒にいた。実は君に聞く前に確信してたんだよね」
よく喋る人だ、と思ったのと同時に、からかうつもりがなく純粋に話したいだけだということも分かった。
「それを俺に確認してどうするつもりだったんですか」
「……どうするつもりだったんだろうねぇ?」
「なんなんですか」
えへへ、と笑った彼は、最初にも思ったがかなり若い。一体何歳なのだろう。ただ童顔なだけなのか、正直高校生だと言われてもうっかり信じてしまいそうだ。
「ねえ、君……あ、名前聞いてなかったね。俺は柚木太一 。君は?」
「望月颯太です」
「颯太くんね。うんうん。颯太くんも高校生?」
「はい。高校二年生です」
「じゃあそろそろ進路決める時期か。もう決めてるの?」
「いえ、まだです」
「やりたいことは?」
「特にないので、大学行ってから決めようかとは思ってるんですけど……」
初対面なのに不思議と話したい気持ちにさせられるのはこの人の魅力だろう。看護師になったからなのか、だから看護師になったのかは定かではないが、強みになることは間違いない。
「あの、漠然となんですけど、青花の役に立ちたいとは思ってて、普通の企業に就職するのだと給料もそんなに良くないって聞くし、青花を支えられるかっていうと微妙で」
「なるほどなるほど。んー、そしたら颯太くん、医者になったら?それか看護師。薬剤師もいいね」
「医療関係……ですか」
確かに青花の役に立つ、というなら一番早いかもしれない。先生や看護師に見てもらうのでは無く、自分で。薬剤師であれば薬の開発に関連することが出来るかもしれない。
「そうか……そうか!柚木さん!ありがとうございます!俺何か見えてきた気がします」
「うんうん。それは良かった」
ニカッと笑った先、ふと首を横に向けると、体を隠して顔を半分覗かせている青花の姿があった。
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