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頬の温もり

「青花おつかれ。……なんでそんなとこに」 「浮気現場を押さえていました」 手にはスマホか握られており、カメラはこちらに向いている。 「まてまてまて!浮気じゃないし!ちょっと雑談してただけだし!」 「そうだよ橘くん。確かにこんなにかっこいい子だったら大歓迎なんだけど、どちらかというと僕は青花くんの方がタイ――」 「柚木さん?」 「え!颯太くん怖い!怖いよ!冗談だよ!」 はあ、とため息をつくと、柚木さんはポケットからメモ帳とペンを取り出してサラサラと何かを書き始めた。 それをビリッと破いて手渡してきた。 「それ俺の連絡先ね。患者さんやその御家族さんとの連絡先交換は原則禁止なんだけど、颯太くんは微妙に違うし俺の新しい友達って事で……。実は俺にも君たちと同じ歳の弟がいてね。医者目指してるっぽいから、何か力になれることがあるかもしれない。俺も話聞くし、いつでも連絡してきていいよ」 それじゃあ、と彼は仕事に戻っていった。 青花の病室に戻ると、柚木さんとの話について聞かれたため、掻い摘んで話した。 青花は納得したようで、それ以上は聞いてこなかった。 「そうだよ颯太。すっかり忘れてた。これを渡したかったんだよ」 貴重品を入れておくための鍵付きの引き出しを開けると、青花は誕生日にあげたリングを取り出した。 リングには紐が通され、首にかけられるようになっている。 「俺の一番大事なものは大事な人に持っててもらいたいから」 そう言って青花は紐を俺の首に通してそのまま抱きついた。抱き返したところで病室のドアがノックされて慌てて離れるとさっきまで話していた柚木さんが顔を覗かせた。 「橘くん、準備が整ったよ。行けそう?」 「はい。大丈夫です」 「うんうん。そしたら行こうか」 最後の1秒まで二人の時間でいられるように、俺たちは人目も気にせず手を繋いで柚木さんの後をついて行った。 地下のフロア、厳重な扉の前で青花の両親と俺の両親が待っていた。 「ここから先は青花くん以外入ることは出来ません。ここでお別れになります」 「青花!」 「父さん!母さん!玲子さん!慎也さん!」 一人一人とハグを交わし、俺の隣に戻ってきた。 「俺は絶対戻ってくるから待っててね。……今まで育ててくれてありがとう。颯太、ありがとう。大好き」 頬を両手で挟まれ、優しいキスをされた。 「俺も大好き。待ってるよ」 すると別れも短く青花は柚木さんの元へ歩いていった。 重く分厚い扉の向こう側で、扉が閉まるまで手を振っていた青花は最後まで笑顔だった。 名残惜しそうにギリギリまで頬に残されていた指の感覚が余計に俺の胸を締め付けた。

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