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瑛二の過去 (1)
高校二年生の時、兄から聞かされた俺と同い年の二人の話。入院している恋人の役に立ちたいからと看護師を目指す颯太くんという男子高校生と、現在は特効薬がなく治すことが出来ない病にかかっている恋人。その恋人は兄貴の病院に入院していて、どうやら兄貴のタイプの感じだったらしい。
ということは必然的に「男」ということになる。
僕の周りにそういう人達が集まってくるのは何故なのだろう。昔からそうだった。
思えば、昔よく一緒にいた男子から告白されたのが僕のこの人生の始まりだった。
初めて告白された時は中学一年生の終業式の日で、男でも男に告白することもあるんだ、と感心したくらいで、嫌悪感等は特になかった。元々仲の良かった友達だし、その好意に応えることは出来ないが、クラスの中で目立たない僕と彼にとってはお互いが唯一だった。だから縁が切れてしまわないように「友達」という形で繋ぎ止め、彼もそれを受け入れた。
その日は終業式だったためそのまま春休みに入り、休み明けに学校に行くと玄関前にクラスのガキ大将とその子分達五人が仁王立ちで待っていた。
とにかく端を通り目立たないように通ろうとしたが、子分の一人に腕を掴まれてしまった。
「おい待て!」
「いた!……なん、だよ」
「お前終業式の日、橘と何話してたんだよ」
「……え?」
「だから終業式の日、あそこの木の下で何か話してただろ?」
子分たちが後ろでニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。争い事は起こしたくないし、何よりこいつらの圧は怖かった。早くこの場から立ち去りたい。
「……離してよ。君たちには関係ない」
精一杯勇気を振り絞って掴まれた腕を振り払い、靴箱へと足を向けた時、後ろからまた声が飛んできた。
「告白、してたんだってなぁ。男同士で」
子分たちがゲラゲラと笑い出す。黙っていると大将は立ち止まった僕の肩に手を置き、耳元で囁き始めた。
「気持ち悪いなぁお前ら。男同士でさぁ。付き合ってんのか?あ?……答えろよ」
「……付き合って……ないっ」
声が震える。怖い。同じ歳なのにそいつの体は他の奴らよりも一回りも二回りも大きくて、上級生と引けを取らない。
「告白したのはどっちだ?」
この質問はまずい、と思った。大将の顔を恐る恐る覗くとニタニタと汚い笑みを浮かべている。
ああ、こいつはきっと暇つぶしだ。ガキ大将様の気まぐれの遊び。世間じゃこれを「弱い者いじめ」と呼ぶ。この質問に答えてしまえばきっと橘が狙われる。あの子が狙われるくらいなら……
「……お、れが、こくはく、した」
俯いて小さく答えると頭の上から「ふーん」と静かな声が降ってきた。
「お友達を守るナイト様、ね。そんなに怖がってんのに他人の心配とか、お前どんだけお人好しなんだよ」
――バレてる…!?見られていたのか
「いーぜ。お前は見逃してやる」
「見逃す……?」
「俺は今暇なんだよ。勉強なんて下らねぇことしててもつまんねぇの。刺激が欲しいわけよ。お前、今日から橘と口聞くなよ」
「……は?なんで――」
「あいつは今日から俺の玩具だ」
「やめ……!ううっ……!」
何が起きた?目の前には先程まで踏みしめていたコンクリート、腹にズシッと重さを感じ動くことが出来ない。
……殴られたのか。
「俺に逆らうな。じゃなきゃお前も俺の玩具にしてやる。まあそう心配するな。悪いようにはしねぇよ。……悪いようには、な」
大声でゲラゲラ笑い、奴と子分達はどこかへ歩いていってしまった。
ゆっくり立ち上がると腹がものすごく熱く、背筋を伸ばすのも辛い。だが校舎の入口で転がってる訳にもいかないため重い体を引きずって何とか教室にはたどり着いた。
少し休むと体はマシに動くようになっていたが、何やら視線を感じる。気付いたことにバレないよう頬杖をつき、スっと目線だけ廊下側に向けると先程の子分の一人がいる。
――僕の腕を掴んだ奴か
監視がついていれば下手に橘と会話することは出来ない。目を盗んで会話することも考えたが、腹の痛みがフラッシュバックして全身が震え上がってしまう。
「僕は、弱いな……」
ため息をつくしかなかった。
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