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夏祭り (1)
学校にも慣れ始めた最初の夏休み、俺は瑛二の家にお邪魔して課題に取り組んでいた。
両親は別の場所におり、今は太一さんと二人でアパートを借りて住んでいる。
「兄ちゃん十八時くらいには帰ってくるってさ。今日も夕飯食べてく?」
「あー、どうしようかな。あんまりご馳走になってばっかだと迷惑だろ?」
「そんなことないよ。一緒に食べるのは楽しいし」
夏休みに入ってからほぼ二日に一回のペースでお邪魔しているがもう中盤。誘われる度簡単に話に乗ってしまう自分も自分だが、流石にお邪魔しすぎではないかと不安になる気持ちも理解してもらいたい。
「そういえば颯太、今週末の夏祭り行くの?」
ピンと来ないで首を傾げると、ペンを置いた瑛二が手早く検索画面を開いて見せてくれた。
「隣駅の神社で毎年やってるお祭。けっこう有名なんだけど、知らない?」
おお、と手のひらをパチンと鳴らせば瑛二は良かったと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「ここのお祭毎年花火上がるし、もし予定無いなら一緒に行かない?僕こっち来たの久々だから行きたいんだけど一人ってのはどうも味気なくて」
「いいな!行こうぜ!」
約束をした俺たちは存分に遊べるように、祭までの5日間で課題を全て終わらせた。
当日は夕方現地集合で、途中から太一さんも合流することになった。
当日になって母さんに浴衣を手渡され、着付けに手間取ってしまい待ち合わせに遅れてしまった。
連絡先入れておいたが、慌てていくと瑛二の周りには浴衣を着た女子たちが群がっていた。
「お待たせ瑛二!ごめん遅れた!」
少し遠くから声をかけると、瑛二は軽く女子たちに微笑みながら俺の方へ駆け寄ってきた。
「悪いね。ちょっと困ってた」
「いやいやこちらこそ。俺が遅れたせいでこうなったわけだし……ってかお前浴衣似合いすぎ。これだからイケメンは……」
「颯太も似合ってるよ?かっこいい」
いやいや、と返しつつちらりと目をやると女子たちはまだ同じ場所に留まっており、「一緒にいる人もかっこいい!」などとキャーキャーはしゃいでいる。
俺は行くぞ、と声をかけて瑛二の手を引いて神社の鳥居をくぐった。
いざ空間に入ってみるとかなり規模の大きなお祭で、露店の数が多くあれやこれやすぐ目移りしてしまった。
ガッツリ食べるのは太一さんと合流してからと決め、チョコバナナやフランクフルトなどを食べつつ射的や金魚すくいで遊んだ。
瑛二は射的が得意なようで、カエルの人形を一撃で撃ち落とした。
「何でそれ狙ったんだ?」
「何となく……開きたいなって……」
「解剖すんなよ!?」
そんな話をしながら歩いていると、神社の境内が見えてきて、休めそうな木のベンチを見つけた瑛二が「少し休もうか」と声をかけてきた。
「はー、楽しいねお祭り。何年ぶりだろ」
ふう、と息をついたのは瑛二だけじゃない。人混みの中を歩くだけでも慣れない浴衣では少し疲れる。
だがもう一つ俺は気になることがあった。
これだけ一緒いて楽しく遊んでいるはずだが、どうにも瑛二の笑顔の仮面が外れない。きっと楽しんでいるのは本心だ。だけど、それが表情に出てこない。誰にでも人当たりの良い笑顔。悪いとは思わないが、はしゃいでる割には何かが違う、そう感じてしまうのだ。
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