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重い扉の中
お祭り以降、瑛二は少しずつ色んな表情を見せるようになった。学校ではまだ良い奴の笑顔だが、俺と二人でいる時は素で笑うことが増え、近寄りやすくなったと話題になり、前よりファンが増えたという事実を本人は知らない。……俺とセットが好きだという一部の層もいるそうだがそこは目を向けないことにする。
夏休み中課題を終わらせ、一緒に勉強していた甲斐もあり休み明けのテストも難なくクリアし、それからまた勉強漬けの日々が続いた。
瑛二は元々頭が良く授業内でほとんど覚えてしまえるのでテスト前に勉強する必要がなく、テストの度に付きっきりで教えて貰いながら俺たちは学校のカリキュラムを順調にこなし、時は流れて三年生になった。俺と瑛二の成績の良さは先生たちの折り紙付きだ。
おかげで無事就職は決まり、国家試験に受かれば俺も瑛二も青花が入院している病院に就職出来る。
全ての実習も無事終わり、今は十二月。国家試験までは残り二ヶ月となった。
願掛けとして、これまで一度も行ったことない青花の元へ行くことにした。
厳密に言えば青花が冷凍されている部屋の入口までである。特殊な保存状態であるが故、極力外界との接触を減らしている。
病院入口のインフォメーションで声をかけると、事務の方が電話を繋いでくれて、指された方に目を向けると担当の看護師と見覚えのある医師が奥から俺を呼んでいた。
「やあ。橘くんのお見舞いによく来ていた子だね」
「お世話になっています。望月です」
「そうか、望月くんか。さ、案内しよう」
看護師は途中までの付き添いだったらしく、医師のあとをついて地下に向かった。
青花と最後に別れた重い扉の前、最後の笑顔がフラッシュバックして胸がギュッと苦しくなる。
「君は看護師を目指しているんだってね?そろそろ国試だろう」
「はい。……え!?俺っ、…僕言いましたっけ?」
すると医師は大きく口を開けて笑った。
「はっはっは。ごめんごめんそうじゃない。橘くんのご両親から聞いたんだ。もしかしたらうちに就職希望出すんじゃないかってこともね」
「そうだったんですか」
「就職志望者の名簿はいつも看護師の方は担当じゃないから見ないんだけど、今回はしっかり君の名前を探したし、ちゃんと推薦もさせてもらったよ」
肩をポンと叩かれ、俺は一礼する。
医師は扉の横にある小さな機械に医師が自分の名札をかざした。
ピッと鳴ったと同時に扉が開き始めた。
「さ、望月くん、行こうか」
「中に……いいんですか?」
「いいよ。今回は特別。就職内定祝いと国試の景気づけ、かな」
立てた人差し指を口元に近付けたその様子はとても四十代には見えなかった。
中を進むと奥に大きな部屋があり、大きなガラスで中が見えるようになっていた。
袋が吊るさっていた。
「左から二列目、一番手前」
医師の指した袋に貼り付けられた紙に目を凝らしてみる。
20XX年 6月18日 生
橘 青花
20XX年 7月20日 凍
と記されていた。
「青花……」
できるだけ近くまで行きたくてガラスに手を当てる。
「国試、絶対受かるからな」
「国試に受かったらまた来るといい。入れてあげるよ」
「ありがとうございます」
後ろから声をかけてくれた医師を振り返り、感謝を伝え、青花に「また来るね」と伝えこの場を後にした。
重い扉から外に出ると、そこには瑛二の姿があった。
「やっほ!」
「瑛二!?」
「ちょーっと色んなコネで颯太がここにいるって聞いたんだよね。ところで颯太この後暇?」
「おう。特に何も無いよ」
「そしたらちょっと付き合ってもらってもいいかな?」
にっと笑った瑛二に手を取られ、エレベーターの前に立たされていた。
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