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ピンク色の……?(1)
どこに行くのか聞いても瑛二は答えなかったためそれ以上聞くのはやめた。
エレベーターが最上階、屋上で止まると瑛二はエレベーターを降り、真っ直ぐ歩き出した。
追っていくとエレベーターホールを出た先、屋上の端のフェンスの前で車椅子に乗っている人影が見えた。
青花と似た体格と髪型で、髪色も青花と同じ栗色だった。
歩いていると、向こうもこちらに気付いたのか、首だけ振り向いて目が合った。
その瞬間俺の中に電流が流れたような衝撃が走り、足が止まる。
「はる……か?」
本当に顔までそっくりだった。というよりほぼ本人。しかし青花は今地下の部屋で眠っているため本人のはずがない。であればこの子はいったい……
「瑛二くんおかえり。で、会わせたい人ってその人のことかな?」
「うん」
瑛二が青花に似たその人と親しげに話しているのを少し遠くから眺めていると、瑛二は俺に手招きをした。
速度を上げて胸をノックし続ける心臓をなだめつつ俺は瑛二の近くへ行った。
「初めまして。瑛二くんが紹介したい人がいるって聞いて待ってました。樫野桃花 です。君は?」
「望月颯太……です」
容姿は青花とそっくりで、声も似ていたが、声は桃花さんの方が少し高かった。名前を聞く限り女性だろう。
それから少し落ち着いて見れば、顔は同じだが瞳の色は桃花さんはピンク色だ。
「君、さっき私を見て『はるか』って呼びましたよね?そのお知り合いさんと似てたんですか?」
「はい」
「ふふ。だから瑛二くんは私を君に紹介したかったんだね。私、いとこと似すぎててたまに間違われるんですよ。本人と勘違いされたり、双子に間違われたり。私の方が歳上なのに」
「桃花さん、そこじゃないと思います」
瑛二が思わず突っ込んだ。
話す口調やトーン、瞳の色は違うのに、顔がどうにしても青花とそっくりで脳の処理が追いついていない。すごく変な感じだ。
いとこと似ている、と言っている。もしかすると桃花さんは青花の……
瑛二と桃花さんのやり取りを見ていると桃花さんは再び俺と目を合わせた。
「とにかく、もしかしたらもう察してるかもしれないけど、君の知り合いの『はるか』さんは私のいとこだと思うのよ。その人『橘青花』って名前で間違ってないんじゃないかな?」
「……合ってます」
「やっぱりね!」
瑛二に目をやるとニヤニヤしている。気に食わない。
そもそも気になるのは瑛二は彼女とどこで知り合い、なぜ引き合わせたか、ということである。
青花と同じ顔で俺以外の人と話しているのが、どうしても青花が俺以外と話しているように思えてしまってモヤモヤする。
これはどう考えても醜い嫉妬だ。青花じゃないと分かっていてもどうにも出来ない。
ニヤニヤしている瑛二を睨みつけると、慌てて説明を始めた。
「数日前に兄ちゃんの仕事待って病院の前歩いてたら、僕の記憶の中の橘を成長させたような見た目の人が病院から出てきたんだ。僕驚いて驚いて、見とれちゃってたんだ。そしたら桃花さんの方から声をかけてくれてさ、橘のいとこって知ったんだ。それで話すうち颯太の話になって、今度会わせるって話になったんだよ」
聞き終わるころ、桃花さんは腹を抱えて俯き、肩を震わせていた。
「あの、桃花……さん?大丈夫ですか?」
俺が声をかけると急に吹き出し、高らかに笑った。
「いやー、颯太くん!君面白いね!そんなにこの顔で他の人と喋ってるのに嫉妬した?相当はるくんと仲良いのね!」
図星だ。そんなに俺ってわかりやすいのだろうか?
「だいぶわかりやすいよ君!はー、気に入った!はるくんのことは聞いてるよ。今身体を冷凍しているのも、恋人がいるってのも。君はその恋人にもこんな態度なの?だとしたらそのうちはるくんにも嫌われちゃうぞ?」
どう反応しようか悩んでいると、そっと瑛二が桃花さんに耳打ちをした。
「……え!?颯太くんがはるくんの恋人!?だって男同士――」
言いかけて桃花さんは手で口を覆った。
同性愛は最近カミングアウトする芸能人が増えたこともありだんだんと世間に馴染みつつある。
日本の中でも片手で数えられるくらいしかないが結婚することができる地域もある。
ただ、それはまだ一部の話であり、こうした冷ややかな視線を向けられることはよくあることだ。
「あ、ごめんなさい、つい……否定したい訳じゃないの。ただ周りにそういう人たちが居なかったからどこか他人事で、驚いて……。傷つけたよね、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です慣れてます。顔をあげてください」
「本当にごめんなさい。でもそっか、はるくんと……」
何かを考え込んだかと思うと、少し車椅子を進め、俺の手を掴んだ。
「ねえ、颯太くん、私と付き合わない?ほら、顔一緒だし」
「え……?」
「え!?桃花さん!?」
桃花さんはニカッと笑った。
すると掴まれた手を振り払うより先に瑛二が俺と桃花さんの手を引き離す。
「ちょっと桃花さん、何言ってるんですか?こいつは橘と付き合ってて、今だって橘の為に――」
「瑛二!」
「……ごめん」
瑛二が掴んでいた二人の手を離す。
「桃花さん、俺は青花としか付き合う気はありません。たとえ顔が同じでも、あなたは桃花さんであって、青花じゃないんです」
「はるくんは良い人と出会えたんだねぇ。羨ましいや」
うんうん、と桃花さんは頷いた。
「分かったよ。でも諦めないからね!私は君が気に入った!ねね、今度遊びに行こうよ!連絡先交換して!」
桃花さんの勢いに負け、連絡先を交換した。
すると時間を確認し、
「ごめん、そろそろ行かないと!あとで連絡するね!」
と器用に車椅子を反転させ、エレベーターに乗り込み、去っていった。
この時の俺は、連絡先を交換したことを後悔する日が来るだなんて思ってもいなかったのだ。
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