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ピンク色の……? (7)

瑛二の所へ戻ると瑛二は既に寝落ちてしまっていて、変わらずカウンターにいたママさんは戻ってきた俺たちを見てかなり驚いた顔をしていた。 「あら?ヤらなかったのね?」 「そこなんですね」 スっと隣で桃花さんが頭を下げた。 「ママ、今まで迷惑かけてごめん。もうこれっきりにするから」 ミキさんは察したのか、桃花さんの頭にぽんと手を置いて優しく撫でた。 ……と思ったらいきなりギュッと力を込め、桃花さんの頭を強く握った。 「いっ!痛い痛い痛い!!」 「おっそいわよまったく!いつもいつもボロボロになってるアンタを介抱するこっちの気持ち、考えたことあった!?ここに連れてきてから、アンタはもう私の子供同然なの!家族なの!」 「ママ……」 「もう絶対、自分の身体を痛めつけるようなことはしないで」 「……うん」 桃花さんの目からは大粒の涙が溢れ出し、ミキさんはそんな桃花さんをそっと抱きしめた。 桃花さんの言う通り他のお客さんたちも桃花さんの普段の行動は知っているようで、桃花さんとミキさんの様子を温かく見守っていた。 「颯太くん、ありがとうね。どうやってこの子を説得したのかは聞かないけど、あの部屋に入ってヤらずに出てきたのはあなたが初めてよ」 「そうなんですか?」 「そうよ。私がこの子をここで雇ってからは……そうね、もう三年になるかしら」 「三年!?」 「ちょっとママ!四年だよ!四年!」 「誤差じゃない。とまあ、そんな感じだったのよ。だからビックリしちゃった。ありがとうね」 「いえ。俺は何もしてないです」 ミキさんは優しく微笑んだ。 「さ、桃花。散々迷惑かけられた分、これからもっと働いてもらうからね。まずはこれ。ヨウジさんたちのテーブルに持って行って」 「はーい」 お酒の入ったグラスを三つと料理を一品トレーに乗せて、軽い足取りで桃花さんはテーブルへ向かった。 「ミキさん、ありがとうございました」 元の席に戻り、再度お礼を伝えるとミキさんは桃花さんのことを少し話してくれた。 「いいのよ。あの子、ここに連れてきた時からもうボロボロだったのよ。身体がっていうより、その時は心の方ね。あんまり良い人に出会えてなかったみたいで。だからここで働き始めた時なんかは笑うどころか表情なんて無い状態だったのよ。言われたら動く、まるで人形だったわ」 ふとお客さんの方に向かった桃花さんを目で追うと、運んだ先のテーブルで頭をポンポンされていたり、ハグしたり、スキンシップは多いがとても楽しそうであった。 心からの笑顔があふれていた。 そんな様子だから、昔表情が無いときがあったなんて信じられない。 「深い事情は話してないんだけどここにいるのはだいたい常連だから。色々察してくれて、見守ってくれたのよ。みんなにも感謝ね」 「それでも俺は、ママさんが一番桃花さんの支えになっていたと思いますよ」 「んもう!颯太くん良い子!私のとこに来ない?」 俺の手を取り、手の甲にチュッと唇を落とす。そのまま上目遣いで目を合わせてくるもんだから、ついついドキッとしてしまった。ミキさん、なんかエロい。 「ちょっとママ!その子は私のいとこの彼氏なんだから!ダメよ!」 「あらそうなの?残念だわ。けど颯太くん、覚えておいて。私は何も一番じゃなくてもいいのよ?」 「ママ!」 「ははは。すみません、ミキさん。俺は恋人一筋なんですよ」 「振られちゃった」 三人で笑っているとようやく瑛二が目を覚まし、状況が飲み込めないようでしばらくぼーっとしていた。 時間も時間だったため、俺は瑛二に声をかけ、店を出ることにした。 店を出る時桃花さんが入口まで送ってくれた。 瑛二は一人で歩くのは危なっかしく、肩を組むようにして支えて歩いた。 「ありがとう颯太くん。それと、ごめんね」 「いいんですよ。また来てもいいですか?」 「もちろん!」 「ももかさぁん!ぼくもぉまた来ますんで!」 「はーい。瑛二くんも、待ってるよ!」 桃花さんが瑛二の頬にキスをすると、瑛二は酔っ払って真っ赤なくせに更に赤くなっていった。 「桃花さん、こいつ多分未だに桃花さんのこと女性だと思ってますよ」 「ははは!それも『優しい嘘』ってね!知らない方がいいことも世の中にはあるもんだ!」 桃花さんの顔がいつになく悪い顔をしている。 「そう言えば桃花さんのその一人称とか口調とかって……」 「ああ。これね、癖なんだ。この店に来てから何となくだんだんこうなってったの。流石に家でこの口調は出来ないけど、家じゃない時くらい好きに生きなきゃ」 家に複雑な事情でもあるのだろうか。以前二人で出かけた時は、運転手さんが乗った車を呼んでいたし、かなり高そうな車だった。もしかしたら相当お金持ちなのだろうかと疑っていたが、案外間違っていないかもしれない。 それから俺は瑛二をタクシーで家まで送り届け、自分の家へ向かった。

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