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パーティー、そして
――三月某日
俺たちは再び桃花さんの働くバー「SHION 」に来ていた。
「いらっしゃい!待ってたのよ颯太くん、瑛二くん!それからそちらが話に聞いてた瑛二くんのお兄様ね?初めまして。この店のママをしているミキです。今日はゆっくりして行ってくださいね」
「瑛二の兄の太一です。今日は俺までお招きいただきありがとうこざいます」
俺と桃花さんがこのバーの奥の部屋を使ってから二ヶ月後の二月に国家試験が行われ、その一ヶ月後結果が公表された。
結果が公表されたのがつい昨日の話で、俺と瑛二は真っ先に桃花さんに伝えた。そこからすぐにミキさんやバーの常連さんに話が広がり、ミキさん主催でお祝いのパーティーを開いてくれることになったのだ。
瑛二とも話して熱が冷めないうちがいいから、と急ながらも翌日にやることになり、今に至る。
ミキさんと目が合ったかと思うと、パチリとウインクをされた。
そう、今回はただのお祝いパーティーではないのだ。これは俺とミキさんでこっそり企てた「太一さんと桃花さんをくっつけてしまおう大作戦」も同時進行中なのである。
前回来た時と同じカウンター席に案内され、桃花さんが中から出てきた。
「お!来たね来たね!いらっしゃいませ〜!二人とも合格おめでとう!」
今日の桃花さんは赤いドレスを身にまとっており、前回来た時の桃色のドレスより、うんと大人っぽく色っぽく見えた。
すると太一さんの存在に気付いた桃花さんが俺の腕を掴んで、顔を寄せてきた。
「ちょっと颯太くん!あの人誰?」
「桃花さん、顔怖いです。前に来た時に紹介したい人がいるって言ったの覚えてますか?」
「覚えてるけど」
「あの人のことです。瑛二のお兄さんなんですけど、いい機会だったんで一緒に来てもらいました」
俺の腕を掴んでいた桃花さんの手にどんどん力が入る。
「ちょ、桃花さん痛い痛い!」
「颯太くん……」
「はいっ!」
「……どうしよう」
「……はい?」
「超タイプ……」
思わず吹き出してしまった。
みるみるうちに頬がドレスと同じ色になる桃花さんに余計に笑えてしまい、さらに腕を強く握られた。
こりゃ痕残るかな。というか買い物に行った時も思ったけれど、やっぱり桃花さんは力強い。
こちらで話している間、太一さんと瑛二も話していたようだ。
青花とそっくりだったことも衝撃だったようだが、どうやら太一さんは桃花さんに一目惚れしたらしい。
「え、桃花さんって女性……」
「いや、あれは男だろう」
そんな会話が聞こえた。瑛二はまだ桃花さんのことを女性だと思っていたらしく、太一さんが反応したことで男性と気付いたらしい。 かなり落胆していた。
それからは飲んで食べて、それぞれ思う存分にパーティーを楽しんだ。
桃花さんと太一さんは完全に二人の世界に入っていて気付いたら居なくなっていたが、これは気付かなかったフリ。何となく分かるけど俺は!知らない!
常連さんたちに飲まされた挙句また寝落ちている瑛二を横目に、今日は俺も酔うまで飲んだ。
流石に瑛二みたいに潰れるまでは飲まないけれど。
バカ騒ぎして、気付けば窓から白んだ光が差し込んでいた。外に出てみると、三月のまだ冷えた空気が頬を撫でた。
「青花、俺やったよ」
冷たい風がぶわっと吹き付け、枯れた落ち葉が舞い上がる。周りの木々には新芽が芽吹いていた。
それからは必死だった。学生の時も感じていたが、毎日忙しいなんてものじゃない。必死で食らいつき、慣れるまでに五年はかかった。最も、瑛二は早くに溶け込んだかと思うと、
「医者がダメだ。僕がやる」
と言い残し退職したかと思うと、翌年春に名門大学の医学部に合格したと知らせが来た。
青花のいるこの病院に勤めて十年が経とうとした頃、俺のいる病棟に見覚えのある医者が駆け込んできた。あまりの慌てぶりにナースステーションは騒然となった。
彼が俺を探しているから、と内線が入り慌ててナースステーションに戻ると、奥の休憩室を指さされた。
中に入ると、中では彼が落ち着かない様子でウロウロ歩き回っていた。
俺の存在に気付くと足をこちらへ向け、肩を思い切り掴まれた。
「中村先生、わざわざどうされ――おわっ!」
「望月くん!橘くんを助けられるよ!」
心臓が大砲で撃たれたように大きく飛び跳ね、声を立てることもできなかった。
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