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その2 コントロールの必要性

 ああ。  今まで自分は、性欲を完全にコントロールできる獣人なのだと自負してきたが。  そうではなかったのだと打ちのめされる。  シオを近くに感じるだけで、匂いを嗅いだり、軽く身体が触れるだけで、簡単にエレクトしてしまうのだ。そうしてもっと沢山触りたくなり、存分に匂いを嗅ぎまわりたくなる。  しかし、これはあまり良くないことだ。なぜなら、シオを不必要に怖がらせてしまうからだ。  今でもたぶん、すでに怯えさせてしまっている。  朝の挨拶に抱き寄せる時にも、夜の寝床を共にする時にも、人間の青年がビクリと身体を竦ませるのを感じるし、俺を見上げながら、不安そうな色を浮かべることがあるのも知っている。  だいたい、同じ獣人達にさえ怖がられているというのに、人間の青年のシオがこんな猛獣系獣人の俺を怖がらないわけがないのだ。  充血する股間は胆力で落ち着かせることにする。  俺の股間がこんなことになっているのを知ってしまったら、シオはきっと怖がって、どこかへ逃げて行ってしまうのに違いない。  それにしても、人間の青年は繊細だ。  すこし夜風に当たっただけですぐに身体が冷えてしまうし、坂道や階段を登っただけで息を切らしている。  それなのに自分の脆さについてはどうも無自覚だ。自己管理が甘いというか。  腹を出したまますやすや寝ていたり、疲れているのに無理をして家事を手伝おうとする。  人間は体毛や筋肉量が少なめで保温性に劣るうえに、聴覚器官が未発達で尻尾がないからバランス感覚も鈍いのだ。もう少し気を付けて生活するべきだと思うのだが。  だが、その無防備な一面も魅力のひとつなのかもしれない。  この前は、なんでもない平坦な道で何故かつまずいて、恥ずかしそうに笑っていた。可愛いすぎて、抱き締めたい欲求を抑え込むのに精神統一が必要だった。  分厚いステーキ肉を噛むのに四苦八苦する姿を見た時にも危なかった。自分の噛み砕いた肉を口移しで与えたい欲望を押し殺すのに全細胞が悶絶した。  自分に必要なのは欲望をコントロールする力なのだ。  エレクトする愚息に服従してはならない。  人間の青年をしっかりと観察し、ここでの生活が安全に快適に送れるように護らなければ。    気温の下がる夜には身体を冷やさぬように保温を促す。ステーキ肉は薄く切り込みを入れて食べやすく。冷やしたミルクを飲んだ翌朝に少しお腹をこわしていたようだから、ミルクは必ず温める。消化しやすい食材を多く取り入れ、本人が好きだと言う魚料理をメニューに増やす。  幸い俺は、昔から料理をするのは苦にならない。人間の青年の身体に合せた食事を工夫するのも楽しいものだ。  人間の青年はとても素直でもある。  俺の努力を真っ直ぐに喜ぶ。  食事はいつも、もりもりと頬張り「おいしい」と言う。  冷えた身体を温めてやると、やがて安心したような呼吸になりおとなしくなる。  小さなことにも「ありがとう」と言い俺を見上げる。  たまにくんくんと俺の匂いを嗅いでいる。  可愛いのだ。  すべてが可愛い。  怯えさせたくはないが、できれば触れたい。  可愛がりたい気持ちを抑えることは困難だ。  夜は必ず一緒に眠る。これは俺の秘かな憧れであったことだ。番いと一つのベッドで身を寄せ合って眠りたい。だから番う相手がやって来る前に、もう一つあったベッドは捨てた。  魔力の交流も毎日行う。魔力交流は、実は毎日行う必要はないのだが、人間の青年に触れたい余り、毎日必要であるかのように説明してしまった。己の浅ましさには自分でも驚く。  しかし、これには他にも理由があるのだ。匂いを浸み込ませるという目的がある。他の雄を寄せ付けないためだ。もっともっと俺の魔力を注ぎ込む必要がある。  シオは魔力値がとても低いようだが、毎日注ぎ込むことで俺の魔力に慣れさせたい。慣れさせておかないと、強い魔力にあてられて、酔ったり体調を崩したりする。  徐々に慣れさせることが重要だ。優しくゆっくり、怯えさせないように慎重に。できればこれを「気持ち良いこと」だと認識させたい。  シオの反応は敏感で愛らしい。  他人との身体の触れ合いにあまり慣れていないようだ。それは俺も同じだが、俺は自己トレーニングに長けているから。シオの可愛さを堪能したいあまり、行き過ぎないことだけを肝に銘じる。  シオには、やがては思うさま俺と魔力を行き来させることができる身体になってほしい。            

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