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第10話(9)

 リビングに戻ってきた月夜は、俯いて泣いている俺を見るなり慌てて駆け寄ってくれた。  いやだ。月夜はどうしてそんなに優しくするのっ? 俺の事なんてどうでもいいくせに!!  月夜を振り切ろうとした腕は、だけど柔らかくてしなやかな何かに当たった。 「えっ?」  なに?  びっくりして顔を上げると……。  そこにあったのは、赤い薔薇の花束だ。  腕で乱暴に涙を拭えば、クリアになる視界には月夜と俺以外、誰もいない。  あの女性記者は?  連れ込んだんじゃないの?  俺と別れようとしていたんじゃないの? 「これって?」  なに?  どういうこと? 「ねぇ亜瑠兎、赤い薔薇の花言葉って知ってる? 赤い薔薇は、『情熱』『あなたを愛します』」 「っつ!」  もしかして覚えて、くれていた? 「今日が何の日なのか。知っていたんだ……」 「忘れるわけがないだろう? やっと亜瑠兎をこの手に抱くことができた日なのに」

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