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第1話(13)

 だっていつもなら、俺を抱く時、『可愛い』とか、『俺の亜瑠兎』とか、さんざん恥ずかしいことを言うのに……。  やっぱり、何か怒ってる?  その疑問は、月夜の言葉で理解した。 「亜瑠兎……隼翔に抱きしめられていたよね」 「っつ!!」  俺の火照った身体から熱が消え、急激に冷えていく。  恐る恐る月夜の様子を窺えば……。  月夜の視線はいつもより冷たい。  ものすごく怒ってる。 「あ、あれは……隼翔さんが抱きしめてきて!!」 「でも、抵抗していなかったよね? 嫌じゃなかったんだ?」  唇の端をつり上げて笑う月夜が怖い。  その言い方だと、俺は誰にでも身体をひらく、淫乱みたいだ。  ――違う。  嫌だった。  隼翔さんに抱きしめられても気持ち悪かった。  だけど隼翔さんに月夜との関係がバレて、月夜を失うと思ったら、抵抗さえもできなくなった。

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