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第3話(5)
下ボタンを押すと、エレベーターはタイミングよく開いた。中に誰かが乗っている。
脇によって道を開けるけど、目は……ダメだ。
涙で視界がぼやけて何も見えない。
今の俺の顔はたぶん、相当悲惨な顔をしているに違いない。
中から人が出ていく影が見えたから、エレベーターに乗り込む――その瞬間。
俺は後ろからふいに腕を引っ張られ、エレベーターは俺を無視して下りて行った。
な、に?
いったい何が起こったの?
俺は腕を引っ張った人物を見上げた。
視界は涙で相変わらず歪んでいる。
掴まれている腕とは反対の手で乱暴に涙を拭き、目を瞬 かせる。
するとそこには金髪の隣人、矢車 隼翔 さんがいたんだ。
彼は、とても心配そうに俺を見下ろしていた。
その顔が月夜とダブる。
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