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第5話(1)
◆Valentine◆
「葉桜くん、あの、少しいいですか?」
放課後、俺と月夜 は家に帰る途中。
グラウンドに出たところで、突然、後ろから見慣れない女子に話しかけられ振り向いた。
名札の色が赤色だから、三年生だ。
大きな目に長い睫毛が印象的な、ショートカットの活発そうな彼女。
相変わらず月夜はモテる。
そして彼女たちは早耳だった。
花音 との婚約を破棄したのをどこから聞きつけたのかは知らないが、それからというもの、女子からの呼び出しは頻繁だ。
そして、今日は二月十四日。
バレンタインデーだから、いつもより余計に声がかかる。
「亜瑠兎、先に帰ってて」
月夜は苦笑を漏らし、俺にそう言うと、呼び出した女子と裏庭の方へと歩いて行った。
う~ん。先に帰ってと言われても……。
気になってしょうがないのは事実だ。
俺は、木の陰に隠れて二人のやり取りを見つめた。
俺は月夜と付き合っている。
だからといって、同性だから、表沙汰に恋人だと宣言することはできない。
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