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第4話

 今日は土曜日。  俺も理人さんも、仕事は休みだ。  すやすやと寝息を立てる理人さんの隣で、スマートフォンをロックする。  額に口づけを落とし、いつもより長めに滞在した布団の下から抜け出した。  途端に纏わりついてきた冷えた空気に体温を奪われ、小さく身震いする。  振り返って布団をかけ直し、理人さんを温もりの中に押し戻すと、俺は寝室を後にした。  しばらくして、キッチンで遅めの朝食を作っていた俺の背後から、寝ぼけ眼の理人さんが抱きついてきた。  背中に寝起きの体温が染み渡り、とても心地いい。  後ろからゆっくりと回ってきた腕が、俺の腹の前でそっと交わった。 「……おはよ」 「おはようございます。よく寝られました?」 「……ん。なに、作ってんの?」 「焼きおにぎりです。昨夜の残りご飯があったんで」 「ふぅん……」  美味しそう……とため息交じりのくぐもった声が呟き、俺の頬を弛ませる。 「あの、さ。ご飯、食べたらさ」 「はい」 「散歩……行こ?」 「えっ」 「どんぐり、拾いたい」 「プッ、いいですよ」  こうして、秋の爽やかな空気に絆された理人さんが、珍しく自分から外に行こうと言い出し、俺たちは焦がし醤油風味の焼きおにぎりを堪能した後、散歩に出発した。  淡い水色に染まった空の下、乾いた秋風が俺たちの間を通り抜けていく。  時折触れ合う手の甲が、なんだかとてもくすぐったい。  日向はぽかぽかと暖かいけれど、日陰に入ると少し肌寒い。  理人さんは、まるで雨上がりの水たまりにはしゃぐ子供のように、地面の明るい場所を辿って歩いた。  そして俺たちは、小さな公園にたどり着いた。  遊具がほとんどないせいだろうか。  住宅地に囲まれているにも関わらず、子供も大人も、誰もいなかった。  砂地の中心に、半分ずつ地面に埋もれたタイヤに囲まれたブランコが、ぽつんと佇んでいる。  あるのはそれだけだったけれど、理人さんのアーモンド・アイを輝かせるには十分だった。

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