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第5話

 ブランコに先に酔った方が、相手の言うことをなんでも聞く。  言い出したのは、さて、俺だったのか、理人さんだったのか。  それはもう忘れたけれど、気がつけばそんな子供じみた勝負ごとになっていて、さらに、理人さんはノリノリだった。  拾い集めるはずだったどんぐりのことは、もうすっかり頭から抜けてしまったらしい。 「ブランコなら得意だからな! 見てろよ!」  またそんな可愛いことを可愛い顔で言いながら、ものすごい勢いでブランコを漕ぎ始めた。  そしたら、 「佐藤くん……」 「はい?」 「……吐く」 「ええっ!?」  理人さんが酔った。  たったの三往復で。 「大丈夫ですか?」 「あー……だいぶ落ち着いた。ありがとう」  タイヤに座ってぐったりと項垂れていた理人さんが、口角を上げて無理矢理笑う。  笑顔は不自然だったけれど、ほとんど蒼白だった顔に少し血の気が戻ってきていて、ホッと安堵した。  隣のタイヤに腰を下ろし、近くの自販機で手に入れたスポーツドリンクを差し出すと、理人さんはゴクゴク喉を鳴らして流し込み、プッハーと豪快な音を立てた。  まるで、風呂上がりに素っ裸のまま腰に手を当ててビールでもあおっているようだ。  酒の飲めない理人さんの手にあるは、きっとコーヒー牛乳だろうけれど。 「……プッ」 「笑うな!」 「ごめんなさい。でも、ブランコに酔うって別に変じゃないでしょ。特に大人になると三半器官が弱くなるらしいし、平衡感覚が乱れやすくなってるんだと思います」 「俺がオッサンだって言いたいのか……?」  理人さんの視線は恨めしげだったけれど、実は俺もブランコを漕ぎ始めた瞬間からもう少し気分が悪くなっていて、内心で「あ、これはやばいかも」なんて思っていた。  もちろん、教えてなんてあげないけれど。 「あー……くそ。これ、佐藤くんの圧勝だな」 「悔しい?」 「……別に」  不機嫌そうに吐き捨てた理人さんの唇は、もちろん、尖っていた。  可愛いなあ、まったく。  俺はもうその時点で、大好きな理人さんの可愛すぎる顔が見られて幸せいっぱいで大満足だったし、体調も悪そうで可哀想だから、賭けはなかったことにしてあげよう……なんて殊勝な思いでいたけれど、当の理人さんは、ものすごく律儀だった。 「で、俺はなにすればいいんだよ?」

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