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天国は地獄(後)

「榛名、いたっ・・・、痛ぁい・・!!」 「ごめんね。我慢して。」 俺だって結構キツい。腰進めるのも戻すのも出来ないくらい中はすぐ締め付けてきたし、円も反応して、がしーっと抱きついてくるし。って云うか、痛いのに抜けって仕草はしないのか。まあここまで来たらよっぽど拒否されない限りは進めさせてもらうけどと俺は勝手に心に決めて、すぐ近くに来ていた泣きそうな円の耳元に唇を寄せた。 「っ・・・んっ・・、」 「円、いい子だから力抜いて。」 眉を寄せてきゅっと口も閉じてる顔の、口元にもついでにキスを落としたら、気付いて自分から唇寄せてくる。ったく円ってこういう時はひどく可愛いんだなあ。あんまり苦しくは無いように気を付けながら舌を入れると、腕の力も緩んだ。 円が息継ぎをするタイミングを見計らって、腰も奥へと押し進めると、合わせた唇の隙間から小さく喘ぐ声が漏れて、やっぱりちょっと円は眉を寄せて、泣きそうな表情をした。 「ま、まだ挿れんの・・・?」 「いや、もう入った。」 「っ、んー・・・・・。」 円の中も、身体もまた絡み付いてきて、ぎゅうぎゅう来る。やっばいな、キツいのがまた気持ちが良い。遠慮なく抱きつかれると小柄な円でも重いと感じるけれど、挿入だけでこんなに必死な相手も初めてだ。けどこういう時に抱きついてくるって逆効果だと思うし、弱ってる円を更に可愛いと思う自分も始末に負えない。 「ふっ・・・、っん、っ、」 こっちはとりあえず様子見で動かないようにしてるのに、勝手に腰揺らしては、びくーっと震えるし。相変わらず泣き出しそうなのはちょっと可哀相だけど、腕の力抜いて大人しくベッドに横になって、思ったより萎えてないものがちょっと当たると、痛いだけじゃなさそうだなって思えるし。 「・・・円、足も力抜いて。」 「ひゃっ・・・!んっ・・、あっ・・・?」 一瞬力を抜いてみせてもすぐ強張る身体相手は動き辛いけど、円がさっき良くなってた所になるべく合わせるようにはする。って云うかもたもたやってたら俺が保たない。 始めは動揺した表情してたくせに、ゆっくり突き上げると堪えながら小さく声出して、段々とろけた表情になりながら、やっぱりぎゅうと抱きついてきた。 「っ、やっ・・・!こわっ、あっ・・!恐ぁい・・・!」 「ん。円はそのまま抱きついてていいから、」 脚をもうちょっと持ち上げて大分小刻みに突き上げても、すすり泣き始めただけで円は大人しく俺の為すがままになる。意識してるのかしてないのか、たまにぎゅうと締めては、潤んだ目でキスして欲しそうな顔をする。 俺がファーストキスってコイツ、こういう経験も初めてだろうに、キスって言葉すらまだ云えないくせに、やらしい表情して。 まあ変なトラウマ植え付けたくないし、感じられるなら何よりだ。もう円が気持ちいい所なんて気にせずに、俺は自分が気持ちいいように突き上げて、密着してる円の中に遠慮なくぶちまけた。 「ひあっ!あっ、んんっ・・・!・・っ・・、」 円の身体がビクビクと震えて、咥え込まれた所もきゅうきゅう収縮して。円の腕や足からずるりと力が抜けて、思わず押さえた腰だけそのまま、円の上半身はベッドに落ちかけた。 俺も正常位で抱きつかれるのはもう限界だったし、自分が落ち着いた所で円の腕と足を、もう緩くなった拘束を解いて、ベッドに落とした。 ついでに引き抜いた俺のは自分が出したモノとローションが混じり、べとべとだったけれど、別に円は出血したりもしていなく、ただ白いモノが糸を引いただけだった。 それだけでまあ、意識がはっきりしてきた円は身を捩らせたけど。 「っ、はる・・・、はるなぁ?」 「んー、何?」 俺が自分のものを拭い終わって身だしなみも整えた頃、円が口を開いた。涙が、つーっと頬に流れて、ちょっとまだ惚けた顔覗き込んでも、円はそれ以上何も云わない。そういやキスねだられてたっけと、さっきそれ所じゃなく無視したお願いを今更落としてみる。 けど別に今はそういう時じゃ無いかもなあって、した後思った。 円のご機嫌、今はよく分かんないし、別にキスして欲しそうでも無かったし。 「訳っ、分かんなかった・・・・。」 「教えなくてもちゃんとあんあん云えてたよ。よく出来ました。」 「・・・あれ、榛名、気持ち良かったの?」 「うん。良かった。」 正直に答えると、バレバレな、複雑そうな表情隠すみたいに俯きながら、それでも円は俺の傍に寄ってきた。 こういうのも可愛いと思っちゃうのは仕方ないよなあ。今の円は俺の彼氏に求める条件をクリアしてるし。けど俺がなかなか円を一番だって云えないみたいに、円の中で俺だって大した「好き」じゃ無いだろうって、思ってるのに。 「円、イってないでしょ?抜いたげる。」 「っ、いい・・。それよりお尻、おかしい・・・。」 「・・・痛い?気持ち悪い?」 「違う、もっ・・、」 円の足の間に手を伸ばしても、すぐ閉じる。そもそも、ベッドに転がられたまんまだと触り辛いし、俺は円を起こした。すぐに円は俺のシャツを掴んだので、そのまま俺の目の前に座らせて、腰上げさせて。ゴム置いてる場所は遠いから、まあいいかって、直に円の中に指を突っ込んだ。 「やっ・・・、あっ・・、っんー・・・。」 「ああ、なに。中、やっぱり気持ちいいの?」 「だからぁ、っ、そういうのよく分かんない・・・!!」 そう云ってすぐ円はべそをかいたけど、いやぁ、これって気持ち良いんじゃん。 必死に俺のシャツぎゅうって握って、生温かい場所の中、さっき感じてた所引っ掻くとちょっと腰が揺れて。俺もさっきのお礼がてら、円の気持ち良いように指を動かしてみる。 「っ・・は・・・、あっ・・、」 しかし、このくらい濡れてて、キツすぎない締め付けだと俺としてもちょうど良いなあなんて考えてるとまた下半身が少しずつ重くなってくるし、俺の肩に顔押し付けてくる円をちょっと抱き寄せると、やっぱりちょっと勃ったままだし、もう。 俺は円の中から指を引き抜いた。円はちょっと間を空けてから、ただ名残惜しそうな目で俺を見た。 「・・・円、もう一回挿れていい?」 「恐いからっ、やだ。」 「さっきより円も気持ち良くなれるから。痛かったら指だけにするって約束する。」 「んー・・・・。」 「円みたいに俺だって、一回きりで満足する条件じゃ無いし。」 そう口にすると、快感が残ってるのかちょっとぼうっとして、いつもより幼く見えた円は、嫌そうな、困ったような表情をした。俺も円にワガママ云われた時はこんな顔してるんだろうかとちょっと考えながら、まだベルトは締め直さなくて良かったなあと思った。 こういうのって格好悪いけど、形振り構ってもられない。円だけじゃなくて俺だって、快感に弱く出来ている。 俺はもう一度、円に手を伸ばした。抵抗しない円を抱き寄せて、足を割って、間を指で拡げて。円の中にゆっくりと、自分を挿し込んでいった。 「あっ・・・はっ・・・、」 「さっきより楽に入ったけど・・・、まだ痛い?」 「こわっ、恐い。」 「大丈夫大丈夫。好きだよ。」 そんな一言でまた円は泣き出しそうな顔して。けど身体だって正直だ。さっきの感触を覚えてるのか、ぬめついてる中に吸い付かれるみたいに挿れられたし、押し込み終わればぴたっと閉じる。中が濡れてるからかさっきよりずっと動き易いし、生のセックスってこんな気持ち良いのかってちょっと感動しちゃうくらい。 でも円ときたらぽろぽろ泣き始めて、何かちょっと申し訳なくなってきた。身体じゃなく心の部分の問題なら、別に俺は今までだって特別好きじゃ無い人とこういう事してきたのに。 絶対的に一番じゃない人と本音を隠して、誤魔化してこういう事出来たのに、円に対してはあんまり騙せて来なかった所為か、罪悪感みたいなものがある。 「・・・ねぇ、円。恐いって、気持ち良くない?」 「わっ、分かんな・・・!んやっ・・、ひあっ・・・、」 「これ、気持ちいいからだよ。」 「ほんっ・・ほんとう?」 「うん。円の身体、全然痛がってないから。今は痛くないでしょ。」 痛かったらちょっと腰を揺らしただけで甘い声も顔も出て来ないだろう。暫く動くのを止めて、円が落ち着いてきたらゆっくり揺さぶり掛けるようにすると、そういう時だけ円は声を上げた。全く、円は安くて単純だ。俺に都合が良いように言葉を繰り返し耳に流し込んでいけば、こういう事にだって効くみたいだし。 もうあんまりキツくなさそうな円のモノを包んで、指でぐりぐりと刺激して、身体をちょっとずつ揺らしていって。 「んっ、っー・・・ふあ・・・、あっ・・!」 「円、ちょっと腰上げて。あと動いちゃ駄目。」 「んー・・・?っん!やっ・・・!あー・・っ・・・!」 包み込んだ手はそのまま、軽く触りながら円に腰浮かさせて、下から突き上げてはちょっと抜いて、また押し入れては少し抜いてを繰り返すと、俺に縋るみたいに円がぎゅうぎゅう俺の背中を掴んで、堪えて泣いた。パンパンと肉がぶつかる音が立って、それに合わせて円が足を震わせては、甘い悲鳴を上げた。 「あ・・、やあっ・・・!んっ、あっ!はるっ、はるなぁ・・・、」 「んっ、なぁに?」 「きっ、気持ちい、から・・・!ひぁっ・・、もっ、もっとぉ・・!!」 「っ、あんま可愛いこと云うと、もー・・・!」 そういえば円は元々正直だった。けど最中もこうだと最悪だ。堪らなくなる。 やっぱりただ自分の好きにやりたくなって、円の口を塞いだ。唇割って、戸惑ってる口の中を舌で探って、円の力が抜けた所で唇離して、一番感じていた場所を深く突き上げて。 「っあ、やっ・・・!・・っ、ひあっ・・!!」 ぎゅう、と咥えられた所をきつく締め付けられ、罪悪感が消えるほどの強い快感が来て、俺は円の中に出せるだけ全部、吐き出した。ビクビク震えてる円に、ぎゅう、と強い力で抱きつかれながら、だるい指を動かし、結構硬くなっていた円のを扱いてやると、円はもう一回、ちょっと震えた。 「んっ、っ・・!っ、はー・・・・・、」 全然力が入ってない円が全力で俺に寄り掛かってきた。ずれてベッドに倒れ込みそうになって、俺は慌ててべとべとの手で、円の服を汚さないように支えた。まだ円は落ちてるけど、少しでも動くと濡れそぼってる中にまだ軽く締め付けられる。 俺も、想像以上だった円にクラクラしてきて、大人しくベッドに倒れ込んだ。 「・・・・円、さすがに気は失ってないよね?」 「・・・・・・。んー・・・。」 良かった。こんな、円に思いっきり乗っかられた状態で円が動けなくなってしまったら、俺まで身動き取れなくなる。俺がほっとすると、円もちょっと笑った。それが、俺が思ってた事、顔に出してしまったからじゃ無いといいと思った。 「榛名ぁ、気持ち良かった・・・。」 本当、円ときたら馬鹿正直に出来てるから。可哀相なくらい。羨ましいくらいに。 人の上でもぞもぞ動いて、ちゅ、と口元に柔らかい感触。円はちょっと疲れた顔で、それでもやっぱり、にこって笑った。それから、へなっと、顔を崩した。 「でっ、でもやっぱり、お尻がおかしい・・・。」 「んー。ごめんね?」 「その云い方は愛が無い・・・!」 俺も結構体力使って疲れたし、いつもの調子取り戻されようと円が俺に乗っかったままで足も痺れてきたので、ちゅ、とただ口付けると円は喚くのを止めた。うん、素直で何よりだ。 ついでに横に円を転がして、ずる、と萎えたものを抜いた。自分の拭いて、円の拭いて。円は寝転んだまま、だるそうな顔で、不思議そうに首を傾げた。 「この、中のどうするの?」 「シャワーかトイレで流す。」 「な、何それ・・・・・。」 「ってネットで見たんだけど。俺も実際やった事無いからよく分かんない。」 「っ、でも、俺の方が恐いよ・・・。榛名やって。」 「うん。」 円は起き上がろうとしたけれど、それだけで顔を顰めて、上手く座れないって泣きそうな顔をした。すぐ助けて欲しそうな顔するので、円を抱き込んで、ついでに指で探った中は柔らかい。熱くてとろとろしていた。中で指を動かすと円の腰が揺れて、外まで濁った白いものがちょっと伝って出てくるのが酷くいやらしい。 「や、やだぁ・・・あ、んっ・・んっ、」 これ、排泄っぽいけど、やっぱり円は指がすごく気持ち良いらしい。そんな事云いながらも自分の押し付けるように俺を、ぎゅう、としただけあって、またちょっと勃ってら。 まあ、こんな痴態を間近で見せられたら俺もまずいんだけど。一人でするのも嫌いだから、最近あんまり抜いてなかったしなあと云い訳付けて。 「あっ、・・・ふあ・・・、あっ・・!」 「中、気持ちい?」 円はただ、正直に頭をすり付けるみたいに頷いた。指で中を拡げながら気持ち良くなれる所掠めて、出来るだけ奥まで突っ込んでくちゃくちゃ音を立ててみる。すると、ぎゅうと指が締め付けられたり、円がどうしようもなくとろけた表情して擦り寄ってきたりで、身体が喜んでるの、分かるもん。さっきココに突っ込んでた時の感触も思い出すしで、やっばい。夢中になって止められないな、これ。 「円、お風呂にしよ。もうちょっとえっちしたい。」 「んっ・・・、許すー・・・。っ、ひゃっ、やっ・・・、」 動けなくなられたら困るので円の中からゆっくり指を全部抜いたけど、これ、頑張れば後ろだけでイかす事も可能なんじゃないだろうか。こんなに円の身体で遊ぶのが楽しいなら、今度男の身体について勉強してみようと思う。嫌だけど。 でも本当、大きくて丸い瞳潤ませて、柔らかい髪の毛乱して、覚えたての快感に身体震わせてる俺の彼氏は可愛くて、可哀相だ。 ごめんね、好きになっちゃって。そんな事絶対云ってあげられないけれど。 ちょっといいなと思ってた上、俺に告白してきたあの子は、榛名くんって子供っぽいってガッカリした口調で、簡単に俺に別れを告げた。初めて付き合った子には上手く、取り繕った自分だけを沢山見せられた。二番目の彼女は頭が良かったのにちょっと夢見がちで、優等生の俺で騙すのが面白くなった。塾で知り合った子はかなり可愛かったけど馬鹿で、割と何でもさせてくれた。一番俺の外面について聡かったのが三番目の彼女で、面倒な事も多かったけど、その分俺が優位に立てた時はひどく楽しかった。 女の子達は大体、口が悪く子供っぽい趣味の素の俺を否定したので、俺も顔で彼女を選んだ。その分優しくしたのでギブアンドテイクだと思う。まあ、その次に選んだ初めての彼氏には俺は全然優しく出来ないんだけど。だって、思ってたよりずっとうるさくてワガママで、面倒だったから。 けどずっと続いたクセでつい愛想良く振舞ってしまいがちの上辺の俺ばっか見てて、少し素を出すと落胆の表情を隠さない、めんどくさい男子校に染まった奴らより、円はずっと、気持ち良いくらいに正直だった。 案外素の俺を肯定してくれたし、俺の事が嫌になっても陰口叩いたりせずに、素直な表情、言葉を隠さず俺にぶつけてきた。 だからすぐに俺は円を騙すのが面倒くさくなって、素を出すのが楽しくなってきてしまって、別に外面は必要無いと、凄く久しぶりに思えたのだ。 ある日、登校したら円がうちのクラスの黒板いっぱいに下手くそな字を書いて、俺を待っていた。褒めて下さいって云わんばかりのあの、満足げな表情を見なければ、俺はただ円が俺への悪口を書き連ねただけだと思ったかも知れない。 『 棒名は意地悪だけど良い所もあるよ 顔と爪の形と、ゲーム得意なところ! クレーンゲームとゾンビ撃つのと音ゲーが好きだと思うので 誰か榛名のストレス減らしてあげて下さい 』 人の名前を間違えてるくせに間違っていない情報なのがまたムカついて、俺は円のほっぺたを引っ張れるだけ引っ張った。おかげでクラスの奴らが俺に話しかける時は以後、大体ゲームの話になってしまった。榛名君これやった事ある?このステージがクリア出来ないんだけど、っておずおずとだったり、軽い調子で持って来るので、クセで笑顔も添えてしまいつつクリアして、解説して返した。俺は自分のクラスでは割と大人しくしていたって云うのに。 まあ、それでもただ、ちらほやされていた前よりは楽だ。昔、顔の所為で女子がすぐ俺の味方に付き、同性には反感買い易かった経験から、まだつい愛想は振り撒いてしまうけれど。 けれど、ウワサで聞くよりワガママで甘ったれだから円相手には即行止めた外面は、結構ストレス溜まるし、特別反感買わないみたいならどうでも良くなってきたからな。未だに俺を見てはガッカリした顔する奴らもまだ居るけども。 そういえば、俺を見ては微妙な顔する内の一人の見沢には、どうしようも無く泣いて泣いて泣き止まなかった円を送った日に、円を一番に出来ないならこっぴどくでいいからフってくれと云われた。円の“絶対”はそんな簡単に変わらないようにオレがしちゃったから、アフターケアはオレがするからと。 それを、大した自信だなあと思った。帰り道の電車で15分、徒歩も15分ほど、追加で見沢を待っていた20分の間に、円が続けたぐちゃぐちゃの告白を見沢は知らないし、聞いた昔話を踏まえた上で円が執拗にこだわる“一番”についてもう一度考えるなら、円は彼女の片手間に面倒見るだろう、見沢の手になんか負えない。負えないといいなって、思ってしまったのだ。 所構わず泣き続ける最高に面倒くさい円の傍に居て、逃げられないよう手を掴まれていた時。俺が面倒くさいって思うよりずっと、なけなしの良心が痛んだ事を、これが恋ならいいなと思ってしまった。 まあ円が起きる前に見沢にそうお願いされたからって、俺が云う事聞く道理は無いし。そんなの俺の勝手だ。円がめちゃくちゃ感じやすい性質だっていうのも分かった事だし、別れる要因が今のところ無くなってしまったのも事実だし、で。 「立ってするの、疲れっ、たぁ・・・・。」 「円、アイス食べる?」 「食べる!ベッドで食べる・・・!!」 もう犯せるだけ犯したと云うのに、精神的には問題無いらしく、そう元気に円は答えた。 けれど声がちょっと出なくなってるし、後ろから俺の腰に抱きついては寄り掛かりながら歩いてくるのが邪魔で引き剥がしたら、ちょっと怒ってから俺のシャツの裾を両手で掴んでよたよた歩く様がさすがに可哀相に思えたので、結局許してしまった。まあこちらも遠慮なくやりましたし。 でも円は思ったより文句を云わず、さっきまで酷く乱れていた人のベッドの上に寝そべって、ただ幸せそうにアイスを掬い始めたけれど。 「・・・円、自分が何されるか分かってなかったでしょ。」 「なんで。榛名、最近俺のこと触るし、告白した時も云ってたじゃん。」 「けど、あんなにファーストキスの時はめんどくさかったのに。」 「あれは!お前が俺のこと可愛いって云う前にしたから!・・・けど最近は云ってくれるし、なら榛名のワガママも聞かなきゃダメかなあって・・・。」 「・・・・・。円って馬鹿じゃないけど、愚かだよね。」 「何おう・・・?」 「まあ、今までで一番やらしくて、可愛かったけど。」 やっぱ生だったのがポイント高かったんだろうか。別に過去の彼女達と較べようと円は何でも一番が好きだから、そんな事伝えても照れたりせず、ふふん!って表情するのが面白くて俺は笑った。 そうか、ひどいワガママ聞けるくらいには円も俺の事を思ったりするらしい。円の一番は俺じゃないので、大した事ある「好き」なのか自信も無かったので、俺はこれ以上円に振り回されたくなくて、ちょっと手を出すのが恐くなったりもしていたのだけれど。最後の一線越えてもっと円に手を出したりしたら、余程の醜態見せられなきゃ落ちる一方なの、分かってたし。 円なんていつもみたいに、ちょっと怒ったように見える神妙な顔つきで、なんで榛名は分かってくれないんだろって表情で、またワガママを口にするだけだけど。 「あっ、けど榛名の態度、まだ全然足りないんだからね。彼氏はもっと沢山云ってくれなきゃダメなんだからね?」 「はいはい。」 俺は自分が勝てない勝負なんて嫌いだ。それに、変にプライドが高い方だって自分でも自覚してるし、言霊も割と信じている。円もそれがかなり効く性質だと思っている。だって円の宗教はインプリントだ。円は最近見沢に捨てられたばかりで、そういう事に敏感になってた上、元々自分が一番じゃないと許せないんだから俺に縋ったんだと、俺は今でも思っている。 でも、今より幼かった円が絶対だと思って、その後見沢が本当にそうだと、完全に信じさせた“一番”は、俺だって繰り返していれば円に刷り込み出来るかも知れない。 好きとか可愛いとか恥ずかしい言葉の云わされ損も、云わされる自分ばっかが落ちてくのも御免だ。俺も円に多少執着し始めてるのは確かなので、恋だったらいいなあと思ってしまった事も事実なので、余計。 ああ、好きって本当めんどくさい。円相手だと、本当に。 円はイチゴでピンク色に染まったスプーンを咥えて、ねーねー榛名、といつもの能天気な声、不満そうな顔っていう調子で俺のシャツを引っ張って、またどうせワガママを口にしようとしてるし、もう。 「にしても、足もお尻もすごく痛い・・・。」 「んー、タダでは気持ち良くはなれないって事かな。」 「うわ・・・。榛名、いっぱい顔変わったもんね・・・。」 「は?」 「榛名っていつも俺のこと上から見て笑うか呆れるか、ちょっと怒るかだもん。いろんな顔見れたの、得した気分だけど、けどすっごく痛い。」 アイスを食べながらも身体が痛いのは本当らしく、円は不満そうな顔でそう云って、ぎゅーっと身体を伸ばしては、渋い顔をした。けど別に、計算してそんな事を口にした訳じゃ無いらしい。 参ったなあ、円はそこを得と見るのか。そんな、俺の表情変わるのが嬉しいみたいな事云われてしまうと、俺が円にすっごく好かれてるみたいだ。 手を繋ぐのが好きな事、気付いていたけれど、改めて手を近付けてみると嬉しそうに握るし。それじゃあアイス食べられないのに、そんな事お構いなし、みたいに。 「あのねえ、俺、榛名のこと彼氏って云ったよ。父さんと母さんに。」 「・・・それ、優しい彼氏になったらじゃなかったっけ?」 「まあ足りないけど・・・、好きな人居るの?って訊かれたから、嘘吐くよりいっかーって。けど、ちゃんと、暫定だけどって云ったもん。」 「ええ?何でそこを云ったの?」 「だって榛名、俺のこと暫定一番って云ったじゃん!だから、とりあえずは付けとかなきゃいけないのかなあ、って・・・。やっぱこれから嘘になるかも・・って・・・、」 「ああもう、落ち込まない、落ち込まない。」 「全部榛名の所ー為ー!!」 円はそう叫んでは喉まで痛そうにしたけど、そんな話聞いて落ち込みたいのはこっちの方だ。悪気が無い分、性質が悪い。円は、生かされてるかは別として、最低限の躾を両親からされているみたいだけど、それ以上に可愛がられてるって云うのが何回か顔合わせたくらいの俺でも分かっている。そんな馬鹿正直に申告されたら俺が危なくなるの、円は全然分かっていない。 「・・・・。ご両親、怒ってた?」 「うちの円に何の不満が!!!ってお父さん、云ってた。榛名の云い分聞きたいから、また連れて来なさいって。」 「げ。」 いっそお宅の息子さん、ド淫乱ですねって伝えられたらある意味楽だけど、俺まで過程を嘘吐かずに白状しようものなら、どんな目に遭うか分かったものじゃない。 俺は円の家族が苦手だ。嫌いじゃないけど、円は間違いなくこの家の子だなって分かるくらい似た所がある。テンション高くて、感情豊かで、家族バカで。 うちの家族なんて一昨日、円が和花ちゃんに取られるからってうちに持ち込んだクマが姉に見つかってしまい、大笑いされSNSで晒されて、顔を合わせる度未だ言葉を交わさずただ笑われてるくらいの仲なのに。あのクソ姉貴。 ああ、話がずれたけど、何、この外堀固められてる感。別に初めてじゃなく円を選んだ事を後悔してるけど、だからと云って円をフれる程の理由にはならなさそうなのがまた悲しい。 俺は円みたいに思ってる事全部口にするのは恥ずかしいし、自ら弱味なんて云いたくない。言霊はお互い効くって思いながらもちゃんと一番だってたまには口にしてる事、そのくらいで勘弁して欲しい。 俺はこれ以上自分とも折り合いつけて、戦っていかなきゃいけないのなんて御免だ。もっと気楽に円と付き合いたかった。自分をちゃんと見せた上でまたフラれたりしたらすっごく嫌だし、許せないから、まだ逃げ道は作って置きたいし。 「・・・・・。円、お父さん今日家に居るの?」 「んーん。出勤だから、6時頃帰ってくると思う。」 「じゃあその前に送っていくから。一刻も早く回復してね。」 「うわ、榛名、逃げる気だぁ・・・。お父さん、怒ると恐いよ?」 「じゃあ余計、彼氏も大事にしてね?」 「してるよ。彼氏の条件叶えたもん!」 まあ、そうだけど。そうですけども。けど、本人にもまあとりあえず、名実共に彼氏になったんじゃないですか、なんてまだ云えないのに、両親も相手にしなくちゃいけないなんてハードル高い。下手したらあの家、和花ちゃんも参戦してきそうだし。あの子もお子様なのに恋バナには敏感だもんなあ。さすが女の子。 「あ。榛名、アイス溶けちゃう・・・。」 「うん。食べてて。俺は暫く寝るね。」 「お、俺のこと放って・・・!?!」 「うん。ちゃんと円との事、考えるから。」 早めに円を送って行こうとお母さんはご在宅の可能性大だし、今後の俺の身の振り方、考えとかないとまずいもんなあ。俺はまず、現実逃避した上でそういう事を考えなきゃなあと思ったのに、円は何を考えたのか、ちょっとほっぺた赤くして。えらく可愛く笑った。 「ちゃんと、一番?」 「さあね?」 どうせ後で似た文句を云わなきゃいけなくなるのだ。今は、むーっとした顔する円のイチゴ味になった口を軽く塞いで。それでもまた簡単にアイス手放して、毛布に潜ろうとする俺の邪魔する。円は相変わらずすぐ怒って、かなしそうな顔して。 「は、榛名のばか・・・・・。」 こんな事ですぐしょんぼりするのは止めて欲しい。すぐ人の云う事真に受けて、俺みたいに駆け引きなんて微塵も知らないって顔して、落ち込んで。 それから疲れたのか、俺を引きずり出そうとするのを止めて、黙々とアイス食べ始める横顔はまるでお通夜みたいで、本当愚かだよなあ。俺はそんな、恋に、円に振り回される一方なのは御免だとまだ思っているけれど。 でも、俺は、そんな円に一番って云っちゃったのだ。これも彼氏の甲斐性かなって俺は円に近付いて、耳元に『一番好きで大事で可愛いです』と、円が大好きな言葉を吹き込むと、やっぱり特別仕様かよく分からない表情で、円はとても満足そうに、そりゃあもう可愛らしく笑った。

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