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恋と盲目(前)  無差別戦

三ヶ月目の別れ話なんてほんとにあるんだなって思った。 全てのきっかけは、そう、本田からの一言だった。 「なぁ管野。榛名って合コンとか行ってもいいご身分なの?」 「ダメ!!絶対ダメ!!!」 「だーよなあ。」 それまでしてた世間話から脈絡無く本田は訊いてきたくせに、腑に落ちなさそうに笑ったから、俺はちゃんと訊いたのだ。 いつ、どんな合コンにどんな調子でアイツが参加してたのかって。そりゃあもう訊きたくない話だけど、ちゃあんと。 「合コンとかお前、何考えてんの!?浮気したいの?!?」 「そんな格好で怒っても円、説得力無い。あと今ここでしなきゃいけない話?」 「あっ、榛名くん・・・!良かったら君も来てよ!!」 昇降口横、俺が捕まえた通りすがりの榛名は、俺の後ろからわらわらとやって来た先輩たちにがっちり捕まった。ちょうど良かった、これなら逃げられそうに無い。俺はこの状況に満足したけれど、榛名は俺の後を付いてきながらも訝しげな顔して、いつもより低めの、ちょっと意地悪く聞こえる声を出した。 「ねぇ、一応訊くけどこれ何?」 「先輩たちがねぇ、卒業前に思い出欲しいって。似合う?」 「まあね。似合うよ。」 榛名だけじゃなく俺にまでちょっと伸びてきた先輩たちの手をはらって、榛名の前で俺はくるりと回ってみた。上にコート着てたってふわりと裾が揺れる白黒メイド服はスカートもそんなに短くない丈だと思うし、動きやすいのが良い。俺は榛名に笑いかけたけど、榛名の表情はというとあんまり変わらなかった。 「ちなみにこれは円の中で浮気じゃないの?」 「え?なんで?こんなのただのサービスだし、触られたら怒ってるよ?」 「しかもそういう格好、好きなの?」 「別にぃ。俺もっと可愛い色が良かった!榛名だったら何色がいいと思う?」 ちょっとツンとしてる榛名から話を振ってきたくせに、もう、植え込み前の段差に腰掛けて俺のこと無視する。手元を覗き込んだら携帯ゲーム始めやがって。全くコイツは優先順位というものがが分かってない。 「ばか!榛名のばか!」 俺は無理やり、ぎゅっぎゅと榛名の膝に乗った。ふーんだ、俺のスカートなんて超レアなのに。こういうあからさまな女物なんて卒業間近の先輩達に頼まれなきゃ着ないし、割と似合って可愛い出来なのに。まあ難点もあるけどさあ。 「す、スカート、ちょっと寒い・・・。」 「これで風邪引いたら笑ったげるね。」 「俺丈夫だもん!こんなので風邪引いたりしないもん!」 「そうだね。馬鹿は引かないもんね。」 「・・・・・・!!!」 べしっと頭をはたくと、あ、こっち見た。それは少し楽しそうにだったけど、嫌味云いながらの楽しそうな表情ってやっぱ複雑だ。榛名は本当性格が悪い。俺は榛名のケータイを取り上げてさっと背中に隠した。このくらいじゃ榛名はあからさまな溜息吐くだけで怒りもしないのは前々からだって分かってるけど、それでもだ。 「マドカちゃん目線こっち~。」 「榛名君もこっち、向いてくれないかなあ?」 「嫌です。撮らないで下さい。」 「あ!先輩!俺のでも撮って!!」 俺は榛名との写真を持ってないことに気付いた。欲しいと思ったのはムカつくことがあったら落書きするようなのに、うんうん~って、何でか嬉しそうな顔した先輩にケータイ預けて、俺はお澄まししてみた。 「榛名、あっち見て。」 「円、膝から降りて。」 「やだ!」 「俺だってやだよ。」 「ほんとに君たち、仲良しなんだねえ。」 「や~、これで榛名くんが笑ってくれれば完璧なんだけどねぇ。」 俺は先輩たちに向かって思いっきり首を横に振った。もう榛名はそんなキャラ止めちゃったから。それに榛名は嫌味に笑うことが多いから、楽しくない時以外笑わなくてもいいのだ。 どうせならちゃんと笑った顔が見たいし、でも俺、前みたいにそんなケンカ腰じゃないのに、榛名は付き合い始めた頃とは違うクールさで俺に接してくる。 それなのに仲良くなったクラスメイトの前では榛名、ちゃんと笑ってたりするからムカッとくる。多分絶対合コンの女の子たちにもそんな調子だったんだろうなって容易に想像が付いて更にだ。今は先輩たちへのサービスに徹するけども、榛名の耳に警告吹き込むのも忘れずにしとかなきゃだ。 「・・・榛名、この後おうちデート。」 「うん。」 「話し合いするからね。」 「へぇ?」 ほら、何の?って云いたげな表情してはちょっと笑う。分かってるくせに。 最近、榛名がおかしい。前よりもっと冷たい気がする。ぺらぺら笑顔に嫌味を添えて喋ってた三ヶ月ちょっと前より、なんか。不機嫌そうっていうか何考えてるんだか分かんない表情よくしてるし、考え事してることが多くてすぐ俺のこと無視するし、総じて俺の扱いも全体的に雑になってるしで。 ただでさえ榛名は何考えてるんだか分かり辛いのに。 「・・・・・。これが倦怠期ってやつなの?」 「なぁに、管野までそんなの読んで~。」 「なんかこの女の子の気持ち、分かるなあって・・・。」 「どれどれ。」 俺は本田が、彼女のためにって云うかただ自分の趣味で読んでるっぽい女の子向け雑誌の読者ページを点々点と指差した。毎回載ってる恋愛相談コーナーの今月のラインナップは、メッセージ送っても既読スルーされる、Hの後冷たい、ヒミツで他の女の子と会ってる。俺が目の前で雑誌を見開いたげても西川はきょとんとした顔で首を傾げた。 「管野、この内のどれ?」 「全部!ぜーんぶ!!」 「あれま~。」 「でもマドカ、昨日榛名のことシメたんじゃなかったっけか?」 「んん・・・、自信無くなってきた。」 「は?」 俺は返事代わりに、ぎゅっぎゅと背中の武ちゃんに寄りかかった。昼休み、目に留まったこの雑誌をぱらぱら読んでたらよく分からなくなってきたのだ。俺、昨日ちゃんと榛名に釘を刺せてたかって。榛名にえっちいことで流されてやしなかったか、今更不安になってきたから。 俺が榛名の手とかその他諸々にクラクラしてたあの時、最後に合コンはダメって念押しした時に、アイツ、どんな表情ではいはいって返事してただろうか。うまく思い出せやしないことに気付いてしまったのだ。 「って云うかほんとに合コン、行ってるしさぁ・・・。」 「榛名も本田に悪影響受けてるんじゃない~?」 「それでも俺はエレナが一番よ。」 「その云い草って榛名は俺が一番じゃないってこと!?!?」 「いや、お前んとこの事情は知らんけど。」 冷たい。どうせ本田が榛名のこと誘ったくせして信じられない。 俺が本田を睨みつけても、本田は気にせずケータイをいじくり始めた。 「でもまた南高の子たちと遊ぼうって話、マジで上がってんだよな。榛名が無理なら見沢か西川行く?」 「っ、武ちゃんもダメ!!!」 「俺も生身の女の子はちょっとな~。漫画とかゲームのが今は楽しい~。」 「んだよ、結構可愛い子揃ってんのに。って、あ・・・?管野、また榛名参加するっぽいけどいーの?」 「は?」 俺はちょいちょいと画面を示され、本田の携帯を覗き込んだ。アプリのグループ名は『合コン用』で、榛名と本田のアイコンしか俺は分からない。そして榛名のアイコン横には『次も参加します』って、発言はたった今の吹き出しだ。 俺は飲みかけのキャラメルオレを思いっきり武ちゃんの手に押し付けた。 「お、おい、マドカ・・・?」 「本田、管野には黙っててねって榛名続けてるじゃん~。」 「んな事云われたってなあ。いつまでも隠し通せる訳ねーんだし、」 なあ管野?ってちょっと困った顔で本田に相槌求められても返事してるヒマなんて無い。 それより先に話をつけなきゃいけない奴が居るのだ。 「お前、俺が居るのにまた合コンって何!?!?!」 「もう、やっぱりすぐそんな怒鳴る。」 「だって俺は怒ってるんだもん!!!」 榛名が静かな方が好きとか云うから大声出さない努力してるけど、そんなの腹が立ってる時は別だ。向かった先は当然榛名のクラス。周りに迷惑だからねってあのいつもの微妙な笑顔で連れ出され、ぐいぐい俺は人気の無い方へと引っ張られた。 「榛名、云い訳ある!?!」 「あるって云えばあるんだけど・・・。円、なんでそんな怒ってんの?」 「お前昨日俺の話聞いてた!?俺ダメだって云ったじゃん!!」 「まあねぇ。」 「・・・・・・!!!」 なんで、なんでこんなに榛名は冷静な調子なんだろう。俺は既に息が上がってきたのに。しかもまた俺の先を行く榛名の表情は見えないし。本当榛名は何考えてるんだか、俺には分からない。 「ねぇ、なんで俺が居るのにそんなとこ行こうって思うの・・・?」 「・・・。クラスのちょっと恩がある奴に、数合わせで呼ばれたの。急だったから円に云う時間も無かったし、したら行くなって云われるの分かってたし。」 「んな・・・!だって俺云う権利あるもん!榛名は俺の彼氏じゃん!!なんでそんなとこ行く必要あるの!?」 俺、ちゃんと榛名の彼氏の条件叶えてた。努力もしてた。榛名も俺の条件、一応は聞いてくれるようになったから。そこにほんとの気持ちが伴ってるのか、いまいち判断が付かない時もあったけど、いつだって別に嫌そうな顔して云ったりしては無かったからそのうち不安は消えるんだと思ってた。 いや、そう信じてたんだけど、榛名のやけに整った笑顔や大して気持ちも乗ってなさそうなよく分かんない表情見てると、今だってすぐ、コイツは俺のことなんてやっぱりどうでも良くて、一番になんかにしてないんじゃないかって恐くなる。 榛名が立ち止まって俺の方振り返るのも、俺が榛名の顔を見ることすらもう、恐ろしいくらいに。 「ちょっと知りたい事があって。」 「それ、・・・っ、浮気するくらいに・・・?」 「うん。」 「な、何を・・・?」 でも榛名は俺仕様のいつも通り少し冷たい声で、淡く笑うのだ。 人の気なんて知りもしないで。 「それは円が自分で探してね?」 「何で俺が!?!榛名が悪いのに謝らないで、そんなこと云って・・・!!」 「円って本当、直接的に云わなきゃ駄目なんだね。俺、ちゃんと円の事好きか、よく分かんなくなっちゃった。」 「っ、はっ・・・?」 「円は俺の事、好き?」 俺は慌てて頷いた。全力で引き止めなきゃこういう時、榛名は簡単に俺のこと捨てようとするって俺はもう知っている。俺のことじっと見つめてくる榛名の目は告げた言葉通り、ちょっと迷ってる感じだけど、これはやばい。俺は急いで口も開いた。 「嫌いだったらこんな訊かないじゃん!どうでもいい人だもん!!それに許したことだっていっぱいあるじゃん!榛名、ちゃんと俺の彼氏だよ!?」 「頂きました、定例句。ったく、そうじゃなくてさあ・・・。」 「なに!?!?」 俺も突然突きつけられた不穏な話に混乱してきたし、榛名だって歯切れが悪くて、云いたいことがよく分からない。しかもめんどくさそうな、参ったなあって顔して、はあ、と溜息吐きやがった。 「ダメ。円、不合格。」 「っ、最近の榛名意味分かんない!!俺と別れたいってこと!?!?」 「・・・そうなるのかなあ、これって。」 「知るかバカ!!!!」 もう、一人ごちてるし話になんかならない。俺も戸惑いよりイライラが勝ってきた。最悪本田に榛名の参加を阻止してもらう方向で、榛名とはまた後で話をするしかない。っていうかコイツ、昨日人の身体で散々抜いてこれかよ。昨日は俺のことどう思ってたのかなんて知らないけど、んなよく分かんない気持ちで好きにされてたのかとか思い始めると悲しくなってくる。 別に俺は榛名のことがよく分からなくなっても嫌いになった訳じゃないのに、なんでこんな思いしなきゃいけないんだろう。 「・・・・・。榛名は別に、俺とじゃなくてもやらしいこと出来るんだ?」 「円も淫乱だから、誰とでも気持ち良くなれると思うけどね。」 「・・・・・・・・・。」 たった今、俺の頭の中で「和解」っていう選択肢に大きなバツマークが付いた。ひどい音を立てながら。 俺は背伸びして榛名のシャツの襟を掴み、右手を振り上げて、渾身の力で榛名のほっぺたをひっぱたいた。 「おっ、管野。ド修羅場やらかしたってマジ?」 「絶っっ対俺からは謝んないからな・・・!!!」 「んなひどいこと云われたの~?」 「あれっ!!あれは無い!!!榛名のクズ!!!!」 榛名と別れてからも怒りが全然収まらないので丸々二限サボってみたけど、下校時間になっても全然ダメだった。そして俺がした事は知れ渡ってるのに、榛名がほざいた言葉まではバレてないのがまた腹立つ。俺、さすがにあんなこと云われるとは思ってもみなかった。 「なんでアイツは一番じゃない奴とえっちするっつー選択肢があるんだよ・・・!?!?」 「残念ながら男は高確率でそんなもんだぜ。俺はそこまでしないけど。」 「管野、んな話榛名としてたの~?」 「あーもう俺ほんっとかわいそう!!!!」 「マドカ、場所変えような?な?家帰るぞ。キャラメルアイス買って午後のノート貸してやるから。」 「っ、武ちゃん大好き!!!」 俺は武ちゃんに、がばーと思いっきり抱きついた。く、苦しいって武ちゃんの声が漏れ聞こえるけど知るもんか。俺の方が苦しい。そしてやっぱり意味が分かんない。武ちゃんに八つ当たりするのは間違ってるだろうけど、でも、どうしようも無くって。 「って云うか榛名、謝りに来ないんだけど・・・。」 「あれ?管野って榛名と別れてきたんじゃなく?」 「ち、違うもん!!」 そ、そこまではいってない筈だ。アイツ、別れたいのかよく分かんないみたいなこと云ってたからどのくらいの気持ちであんな台詞吐いたのか物凄く気にはなるけど。でも、あんなこと云われて悔しいから俺から連絡なんてしたくない。でもでもケータイをじっと眺めていても、ちっとも全く何の連絡もやって来ないのだ。 「・・・。榛名、俺より女子の方がいーのかなあ・・・。」 「まあ中学の時だって結構いいペースで付き合ってたからな。」 「管野の見た目が好きって云うならそうかもね~。」 「た、武ちゃぁん・・・。」 「い、いや!榛名だってんな軽い気持ちでマドカのこと一番にした訳じゃないだろ!俺は榛名を信じる!!」 俺は慌てつつも力説してくれた武ちゃんの口元に、武ちゃんに買ってもらった高級キャラメルアイスを差し出した。本田と西川の云うことは榛名派って云うより一般論だろうけど、それでも辛い。ケータイはただ見つめてたってうんともすんとも云わないし、もう武ちゃんの足の間で何も考えないでただ黙々とアイスを食べてたい気分だ。 「でも、合コンで知りたいことって何だよ・・・。」 「女子との相性とか?」 「自分がどのくらいモテるかとか~?」 「あっ、こないだ榛名といい感じだった子の写真あるぜ。笛木さん。あさみちゃんも気がある風だったけど、アイツ、まず顔で選んでるだろ。」 「うわ~、管野と真逆のタイプだね。」 俺は西川も覗き込んだ本田のケータイを奪い取った。液晶に写ってるのは揃いの制服着てる、南高の女子5,6人の集合写真。みんなそろって笑顔でピースなんかしちゃったりして、今は見てるだけでイライラする類の写真だ。榛名の好みなんて知らないけど、二人の意見なんて聞かなくても俺は直感でどの子だか分かってしまった。 「この中ならこの子?」 「そう。おとしやかでこのグループの中で一番美人。本命以外にも優しくふるまえるタイプ。」 「この子、ちょっと化粧濃くない?」 「確かに。マドカの方が絶対かわいい。」 「だよねだよね!?さすが武ちゃん!」 「でも胸おっきーし。癒し系だぞ?」 「・・・・・・・・・。」 「俺の胸見比べないでよ武ちゃん!!」 そこを比べられたら俺が負けるに決まってる。もしかして他の部分でも俺はもう勝ててなかったりするんだろうか、こういう女の子に。俺、たまに自信家扱いされるし、自分でもまあそうかもって思ってるけど、わりと揺らぎやすくもあるなって感じてもいる。 その原因に思い当たるモノがあっても自分じゃどうしようも出来ないのだ。だから一番とか好きだとか可愛いとか、そういう言葉を自分が好きな人に云ってもらわないと苦しいのに。自分じゃ全然、埋められない場所があるっていうのに。 「・・・・・・。はぁ・・・。」 やばい。アイスの味も分からなくなってきた。思わず目の前の机に突っ伏したところで、これは重症だねえって西川の声がした。 俺も恋がこんなにモヤモヤするものだなんて知らなかった。こんなのなんか、ものすごく榛名に片思いしてる気分だ。 「っていうかそもそも榛名と管野、相性良くないでしょ~?」 「はあ?」 「んな迷ってんのに自分からも榛名のとこ行く気しねーなら大したことねーだろ。もう立ち止まってないで次行けよってハナシ。」 なんか本田の表現ときたらざっくりし過ぎだし決め付けっぽいしで反論したくなるけど、まあまさにこの状態は立ち止まってるって感じなのかもしれない。誰がって勿論榛名がだ。榛名ときたらあんなひどい言葉を俺に吐いた後、連絡も寄越さなければ会いにも来ない。 そのまま一週間が経過した。その間に二度目の合コンも終わったらしく、榛名も返事通りに参加してたとの報告が本田から上がっている。 でも、俺は榛名に怒りに行く気がもうしなかった。あの調子じゃ榛名、俺が何云ってもまた女の子に会いに行く。よく分かんないけど、自分の知りたいことを探しに。俺のポジションよりも大事らしい、そんなよく分かんないものを探しにだ。 「でも俺は榛名を待ってる訳であって、捨てるほどでは・・・。」 「っていうか管野が捨てられたんじゃなく?」 「!?!武ちゃん、俺捨てられたの!?!」 「い、いや、違うと思うけど・・・。やっぱんな気になるならオレが榛名に訊いてきてやろうか?」 そう申し出てくれた武ちゃんに向かって俺はふるふる首を振った。違う。誰かに云われてとかじゃなく榛名が自主的に俺の元へと来てくれなきゃ意味が無い。それが前みたいに嫌味ったらしい態度でも我慢してやるから、とにかく戻ってきてくれなきゃダメなのだ。そこはなんか、ただ待つことが苦しくても譲れない所だと俺は思っている。 「ほら、マドカ。キャラメルでも食べて元気出せ。」 「うん・・・・・。」 「あっ、見沢、俺にもちょーだい。」 「俺も俺も~。」 ああ、やっぱ優しいな武ちゃんは。俺にドライなこと云う二人にもポケットから取り出した俺用のキャラメル分けたげるし。こういう武ちゃんみたいな分かりやすい優しさとか気持ちが榛名にも欲しいって、俺は口の中にキャラメル放り投げながら思った。 最近榛名は本当何考えてるんだか分からなくなって、好きとかかわいいとかもまたあんまり云ってくれなくなってきてのとどめがこれだ。武ちゃんとは大違いなのだ。アイツ、俺に一番だって告白してきたくせして。 ・・・ん?でも榛名の一番が俺じゃないかもしれないなら、俺だって榛名を一番に優先しなくたっていいのかもって俺は思い当たった。 「っ、そっか!今の俺にはまた武ちゃんが居るじゃん!!」 「は?」 「武ちゃん、俺と幸せになろう!?!」 「は??」 俺は振り向いて、俺専用の椅子みたいになってた武ちゃんにぎゅーと抱きついた。そうだ、武ちゃんは彼女にフラれたのだ。武ちゃんの一番はまた俺で、俺の一番がまた武ちゃんになっても何も問題は無いのだ。 「本田だって云ってたじゃん?榛名がダメなら俺、また武ちゃんに一番だって云ってもらう!!武ちゃん毎日云ってくれるでしょ?」 「お、おう??」 「だーよね!さすが武ちゃ・・・」 抱きついた武ちゃんの背中越し、顔を上げ廊下を見た俺は窓越しに榛名と目がかちあった。な、なんかいきなりのえらい至近距離で。 やっと今更俺に会いに!?って俺はちょっと期待したけど、カラカラ窓を開けた西川に便乗して、そっと覗いた榛名の手元には勉強道具一式。どう考えてもただの移動教室だった。 「榛名、久しぶり~。元気してた?」 「・・・・・・。相変わらずだね、このクラス。うるさいハイテンションで。」 久しぶりに聞いた榛名の声はこんな感じだったっけって思うほどだった。ひんやりした声に口元だけ笑う形。嘘吐かれて付き合い始めてすぐの榛名を思い出すけど、なんか、なんか違う感じ。っていうか何で俺がこんな気まずい思いしなきゃなんないんだろう。思わず武ちゃんの背中に隠れたくなるような気持ちなんかに。 俺は西川と話してるはずなのにきっと、榛名の声が自分の感情の所為でよく聞こえなくなった状態と、何の色も感じない榛名の目にものすごく嫌な予感しかしなかったのに、本田が口を出してきた。 「今まさに菅野は見沢に乗り換えようとしてるところだけど、榛名的にはどう思う?これ。」 「管野の好きにしていいんじゃない?まぁ見沢がお似合いだよね。」 「・・・っ!?!?」 何、なんだ。菅野って誰だ。それだけ云い残して榛名、俺に背中を向けちゃうし一体なんなんだ。え?なに?まどかちゃんフラれたの?フったの?って外野がうるさい。もう俺にもどっちだか分からない。ただ、たった今、榛名と俺の関係がフったかフラれたかの嫌な二択になってしまったことだけは分かった。 俺は別に榛名と別れる気なんて無かったのに、なんで、なんでこんな事になったんだろう。榛名が一番じゃなさそうな人間を簡単に切り捨てられるからだろうか。それとも榛名が俺と引き換えに探してた答えが出たからだろうか。 「あっ、ダメだ、管野ショック受けちゃってる・・・。」 「ちょっ、まっ、マドカ・・・!?」 俺は俺の目の前で手をぶんぶん振る武ちゃんに向かって両腕を伸ばし、がっちりひっついた。なんか俺の周りには人が集まってきた気配がするし、休憩時間の終わりを告げる予鈴の音もかすかに聞こえた気がするけど、榛名の言葉も態度も何もかもが、何がなんだか分からなくなった。 でも、それでも泣くもんかって思ったのだ。泣いたら本格的に全てが分からなくなる。でも泣きそうだから、俺はしばらく武ちゃんから離れられなかった。

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