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第10話(スティーブ)

来週からシカゴへ飛ぶ。 次の任務は潜入捜査。 捜査対象はナディール上院議員という女性だ。 ヨハネスブルクでの大規模な武器取引を潜入捜査していた時に顧客リストを手に入れた。その上客リストに米国のナディール上院議員の名前が見つかっていた。 WIAではナディール議員を捜査対象として1年程監視しているが、なかなか尻尾を掴めていない。 普段からボディーガードを付け、ナディール議員はかなり慎重に動いていた。 更に彼女のIT担当が議員のオフィスと自宅に鉄壁のハッキング防止システムを構築している。 議員がオフィスと自宅に居る間はハッキング不可能な状態のため、彼女のシカゴ出張中を狙った作戦だ。 ここからが僕が憂鬱な理由。 ナディール上院議員は、大の面食いで知られている。自分のボディーガード達も全員、彼女が選んだ美しい男達。 僕は彼女を口説き落とし、ホテルの部屋へ入り込みパソコンへハッキング用のプログラムが入ったUSBを差し込みダウンロードした後、気付かれないようよう速やかに脱出。 これまで1年程、ナディール上院議員を監視していたWIAの捜査チームには適任者が居なかった。その為、僕へ声が掛かった。 任務とはいえ、マイクという恋人が居ながら、別の女性を口説くのは気分が滅入る。 「こんな時代錯誤な任務、初めてですよ」 嫌味の一つも言いたくなる。 「エージェント•ワイルド、何を言ってるんだ。潜入捜査の基本中の基本だろ」 エージェント•ハワードはニューヨーク支部長になってから更に隙がない。 「レッドの方が適任では?」 「残念ながらナディール上院議員のタイプは君みたいな金髪でマッチョなタイプなんだよ」 「僕が口説き落とせないかもしれませんよ?」 「大丈夫だよ、君は議員に近づくだけで良い。相手から寄ってくるさ」  潜入捜査はもう何十回と経験してきたが、女性相手に口説き落とす任務は初体験だ。 ミーティングルームでのエージェント•ハワードとの会話を思い出して、マイクの隣で小さな溜息をついた。 マイクは僕の隣で疲れて眠っている。 額にそっと口付けた。 「ごめん」

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