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第54話(スティーブ)

リラクゼーションルームでの情事の後、マイクと身支度を整えると6階のメインホールへ向かう。 広々としたホールには数百人のゲストがオーケストラの生演奏をバックに踊ったり談笑している。 「マイク、何か飲み物を取りに」 言いかけた時だった。 「ティムじゃない!ベンジーは一緒じゃないの?」 不味い。この声は。 「ナディール議員。 今日はベンジーCEOとは一緒では無いですよ」 「そうなのね!月曜日ぶりね。ふふ、こんなに早く再会出来るなんて嬉しいわ。あの日は朝起きたら帰っちゃていたから寂しかったのよ」 腕にしなだれ掛かるナディール議員にマイクの顔が引き攣るのが分かった。 今の僕には振り解きたい気持ちを押し殺すしかない。 「あの夜は最高だったわ。今日も部屋を取ってあるの。良かったらまた、遊びにいらして」 僕は頭の中で不味いと唱えながらも、出来る限り自然に笑顔を取り繕う。 「素敵なお誘いありがとうございます。今日はちょっと別件でパーティーに参加していて残念ながら行けそうもありません」 「まあ、連れないのね!いいわ、また今度!」 ナディール議員は僕の頬と唇の際どい位置に軽くキスをするとホールの中へ消えていった。 隣にいるマイクへ、まずは弁解をして誤解を解かなければと分かっているのに言葉が出ない。 何も無かったと言わなければ。 「マイク!」 「任務なんだろ?」 マイクから怒りというより悲しみの感情を感じ取り抱き締めようした手を振り払われた。 「ここでは不味いよ。さっきの女性がどこで見てるか分からない」 「マイク、、、」 「風に当たりたい。そこのデッキに居るから飲み物を持ってきてくれない?」 「勿論」 最悪の失態だ。 マイクを傷つけてしまった。 確かに僕はナディール議員とは何も無かった。 けれど、任務とはいえ女性を口説いていたのも事実だ。 マイクと出会うまでどんな嘘も付ける自信があった。 僕はマイクにだけは、やっぱり誠実でありたい。

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