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第67話(カイト)
俺は昔から静電気体質だった。
ドアノブを触れば指先に火花がスパークする事もあった。
冬場は酷くて、付き合ってる彼女と手も繋げなかった。
言い訳がましいかもしれないけど、俺が童貞なのも絶対この静電気体質のせい。
手も繋げなかったのに先に進めねーだろ。
とにかく俺が電気のスイッチに触れたら電球が音を立てて割れるし、電子レンジやコーヒーメーカーは何回もショートさせた。
親父からの誕生日プレゼントなんて毎年静電気除去ブレスレット。
まあ、ゲーム機とかだったとしても壊すから仕方ない。
「あなた方は、ネオヒューマンズと呼ばれる能力者です。
同じように様々な能力を持った人間が世界中に散らばっています」
トムと俺は、良い雰囲気をブチ壊したエージェント•ハワードというオッサンに連行されヘリで移動させられた。
ニューヨークのロングアイランド海峡から程近いカウムセット州立公園の上空でヘリがホバリングするとゆっくり降下した。
ヘリポートが地下へまるでエレベーターのように下り、地下にある駐機場に着く。
「こちらです」
エージェント·ハワードに連れらヘリを降りる。
軍事施設のような無機質で超近代的な基地に、映画でも見ている気分になった。
非現実的過ぎだろ?
非現実的が服を着て歩いているような大富豪のトムも少し驚いてるみたいだし。
「ハワード支部長!新しいネオヒューマンズですか?」
そこへメガネをかけてヒョロりとした白人男性が現れた。
「グラスゴー博士、君も来てくれ。彼らに説明が必要だ」
「いいですよ」
会議室のような円形テーブルが真ん中にドンと鎮座した部屋へ案内された。
「さて説明してもらおうか。ネオヒューマンズとは何だ?なぜ僕が狙われた?」
トムがハワードへ促す。
「あなた方はネオヒューマンズという能力者です。まずはグラスゴー博士に説明してもらいます」
オタクっぽいメガネ男子は早口で話し始めた。
「遺伝子の突然変異で、特殊な能力を得た人達を僕らはネオヒューマンズ、新しい人類と読んでいます。
遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパクの設計情報が記録された領域のことです。
染色体は、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です。
人間のすべての細胞には23対(計46本)の染色体が入っています。
ネオヒューマンズはこの染色体の数や形状に異常が多く見つかっています。
詳しい原因はまだ解明中ですが、すでにいくつかのパターンがある事も分かっています。
共通する事は遺伝的にこの染色体異常を受け継いでいる可能性が高く、僕らが覚醒と呼んでいる能力の発出までは普通の人間と何ら変わらないという事。
覚醒のタイミングも人それぞれで生まれた時から能力がある人もいれば、、、
君達のようにある日突然、覚醒する人もいる」
「ちょっと良く分かんなかったけど、俺のこの力は遺伝子の突然変異って事?」
「ええ、そうです。君は覚醒したばかりだ。今から力のコントロールや増幅を覚えて行けばいいよ」
「コントロール?」
「WIAではもう半世紀以上に渡ってネオヒューマンズを保護、育成しているんだ。君達のような能力者は社会に溶け込む事が難しい人間もいる。力の使い方によっては人類の為になるからね」
「ちょっと坊や、人類の為になるって?この能力を君らWIAが搾取する良い口実じゃないか?」
トムは気に入らないみたい。
「コーヴィンさん、僕は坊やじゃありません。博士です。搾取なんて言い方はやめて下さい」
「坊や、僕は僕の為に生きてる。誰の指図も受けないし、厄介事はごめんだ。
僕が君らに協力するメリットは?無いだろう?」
「でも彼にはある」
全員が俺を見た。
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