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第75話(カイト)
マンダリオリエンタルホテルに到着するとトムは16階のフロントに向かう。
深夜のため、人が疎らなホテルでもぼろぼろのタキシードを着た中年男性とアジア系少年の組み合わせは他人の下世話な視線を集める。
「いらっしゃいま」
受け付けが話終わる前に、トムが言う。
「プレジデンシャルスイート」
トムはいつもみたいなビシっとスーツ姿じゃない。タキシードは汚れてるし、髪はボサボサだ。
「お客様プレジデンシャルスイートは前日までにご予約を」
受け付けも怪訝な顔をしている。
「君、今すぐ準備を」
トムがクレジットカードを出すと、受け付け係の顔が急に引き締まる。
「コーヴィン様、大変失礼致しました。今すぐご案内いたします」
マンダリンオリエンタルホテルはコロンバス サークルのAOLタイムワーナーセンター内にあるホテルでセントラルパークや5番街、リンカーンセンターも近い5つ星ホテルだ。
奥にある専用エレベーターで53階にあるスイートルームに案内される。
セントラルパークとニューヨークの街並みのパノラマビューを一望する、贅を極めた部屋へと案内された。
客室は広いベッドルーム、大型バスタブと2人で入れるガラス張りのスチームシャワーを配したバスルーム、書斎、リビング、ダイニングルーム、キッチンがあるらしい。
こんなに部屋いる?俺なんて宿泊した事あるホテルは全部ベッドルーム1部屋しか無かったよ?
随所にハンドメイドのラグ、個性的なアート作品、みごとな工芸品やカスタムメイドの調度品を配し、全体をチョコレートブラウンカラーでまとめた中に、明るい艶消しのゴールドと深紅の装飾品でアクセントを付けている。
深夜にこんな豪華なスイートに泊まるなんて勿体ない。
「金持ちの金銭感覚、、、」
「カイト?どうした?」
「別に。それより先にシャワー浴びていい?砂埃がやばい」
「いいよ。お先にどうぞ」
俺はピカピカでやたら広いバスルームにまた溜息をついた。
「住む世界が違いすぎる」
トムは俺を好きだって言って、キスをした。
それってそういう意味だろ?
いくらアメリカ人でも唇へのキスは、親愛の意味の範疇を超えてるはずだ。
「俺、トムと付き合うって事?」
急にドキドキしてきた。
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