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はじまりは静かに_1

けたたましく鳴る目覚まし時計の音。 うるさい機械音に、ゆっくりと眠っていた瞼を開いた… まだ眠りたい体を無理矢理動かし時計を止め、時間をみて呟いた… 「…朝」 必要最低限の物しか置いていない1人暮らしの室内。 なんとなくあたりを見渡せば昨日届いた『日下成海(くさかなるみ)様」と書かれた自分宛ての支払い請求書の紙を、近くのテーブルに置いてあるのを見つける。 (あぁ、またか…) さっきまで見ていた夢を思い出して俺はため息をついた… これで何度目なんだろうか… 古びた座敷牢、檻の向こう側で念仏を唱えていた群集… それは俺が子供の時に経験した出来事 13年前、まだ俺が中学生のとき… いつも通りの学校の帰り道で、複数の大人に抑えられ誘拐された 放り出された場所はどこかわからない座敷牢、腐った畳の湿気た感触は今でも覚えている。 そこで俺は何日も監禁されていた… 幸いそのあと無事に警察が保護してくれたのだが 警察が来た時にはその群勢と主犯の誘拐犯達はすでに死んでいたらしい、自殺だった こうして俺は今、無事に平凡な日課をおくれているが あれから時間が経っても時々こうしてあの夢が現れる そして最近はあの夢を見るたびに何か得も言われぬ感覚を感じるようになってきた 何か忘れているような、切ないような感覚 事実、あの時の記憶は一部欠けている… 覚えているのは捕まった瞬間と座敷牢の居心地の悪さ、そして目の前で念仏を唱えていた集団だけだ どうやって犯人達が自殺したのか、俺はそれ以外の時間は何をしていたのか覚えていなかった 医者によれば誘拐されたショックの防衛反応として、記憶をなくしていると言っていた 最初はこのまま忘れてしまおうと思っていたのだが、こうして夢に出てくると忘れるなと言われているようだ あの時、誘拐された目的は未だにわからない 両親に聞いても思い出したくないのか、今でもこの話題ははぐらかされる… 13年も前なのにまだ引きずっている… そう考えたらいつまでこんな中途半端な状態なんだと苛立ってきた (もういい、今は考えてもしょうがない) 今考えても埒が明かない ゆっくり、失った記憶は探せばいい… 息をはき、無理矢理背伸びをして気を紛らわすために辺りを見渡した 「そういや…、来てたんだっけか…」 さっき見つけた支払い請求書の紙を見つける 「早く引き落としに切り替えればいいんだよなぁ」 そうは言ってもこの紙が来たのだから払うしかない 今日はいつもより少し早く起きた、あの夢のせいだが しょうがないから払ってから職場に行くか… 「その前に飯かな…」 別に誘拐された経験があっても過去のことだ、何も特別じゃない、こうして普通の人たちと何も変わらず生きている。 ベッドから立ち上がれば、先ほどの夢は記憶の片隅に寄せられた… 「あー、今日は仕事何すんだっけ…」

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