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はじまりは静かに_2
ここはとある小さな映像制作会社。
視聴者から投稿される「心霊動画」を集めた、心霊ドキュメンタリー番組作成を主軸としている制作会社だ。
時刻は朝10:00、1日が始まったばかりのオフィス内にある1本の電話が入った
「お電話ありがとうございます。株式会社○○です」
電話に出たのは柳井波奈子 、元は地下アイドルをやっていたのだがグループの解散をきっかけに、この会社の心霊番組のアシスタントのオーディションを受け、今ではスタッフとして在籍している。
「もしもし?」
明るく対応している柳井とは正反対に電話を掛けた人物は少し湿っぽい声で問いかけた。
『あの、ここって「心霊映像検証部」という番組を取り扱っている会社ですよね』
電話主の男は挙動不審でいかにも怪しい雰囲気が強かった
「はい、さようでございますが、何かございましたでしょうか?」
『…なんで、ぼ、僕の作品は採用されないのでしょうか?」
すると柳井の営業用の笑顔が固まる
「え、…と、失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
多少動揺したが、柳井は内心「またか…」と電話を続けた…
「おはようございます…」
そこにドアを開けて日下が出社してきた…
日下もまたここに勤めている人間である。
「あ、日下さん!おはようございます!」
そんな日下に気づいたのは、後輩スタッフの平沢和良 柳井とは同期の男である。
少々頼りない一面はあるが、人懐っこく感情表現が豊かで社内のムードメーカーのような存在だ
そんな平沢は作業中の手を止め日下の元に近づいた。
「あれ?今日は少し早くないですか?」
「…すこしな、早く起きたんだよ…」
「えっ!そうだったんですか?もしかして…」
「それより、柳井は誰と電話してるんだ?」
すると平沢の顔は若干引き攣り
「あ~…たぶん例のアイツかと…」
「…は?」
日下は電話対応している柳井に近づいた
平沢もそろそろと日下の後に続く
「確か、あれだろ?自称「幽霊の友達が100人いる」とか言っている…名前、なんだっけ…」
「えっ、日下さん。もしかしてアイツと話したんですか?」
心霊ドキュメンタリーというジャンルは視聴者の投稿動画を紹介したり、動画だけでは不可解な現象はスタッフの誰かが調査に向かうのが基本のスタイル
そして、心霊、つまりオカルトの類はどうしてもまともな人間ばかりが来る物ではない…
日下は柳井の電話の様子を見て、電話の相手が昨日自身が相手したそれだと確信した。
「昨日、俺があんだけコケにしたのにまだ懲りてなかったか」
「えっ、何言ったんですか?」
「映像の合成の甘さを指摘してやったら泣いて切った」
「お、鬼だ…、俺にはできない」
「お前に任せたら言いくるめられておしまいだな」
「そしてひどい」
「柳井も長引きそうなら、俺が引き受けるか…」
そういうと一度、日下はカバンを自身のデスクに置き再度柳井の近くに寄った。
それと同時に柳井も通話を終了させたようで、だがやはり様子は酷かった。
「もぉー!最悪!!何が呪ってやるよ!!やれるもんならやってみなさいよ!!」
動揺はしたものの手慣れた柳井だったが、かなり精神的に来るところあったようだ
受話器を一応丁寧に置き、そなあと勢いよくデスクに突っ伏して叫んだ。
そんな柳井に日下は声を掛けた。
「おつかれ、柳井。あと、おはよう」
「おはようございます~…、頑張ったご褒美になんか飲み物おごってくださいよ~」
「何言ってんだ、頭のネジがおかしい奴が来やすいもんを扱ってるんだ、このぐらいで項垂れるんじゃ、まだまだだな…」
「…はぁい」
「まぁ、短時間ですませた分。平沢よりはマシだけどな」
「ちょっとぉ!!ひどすぎますよ!!日下さん!!」
そうして3人で笑いあっている日下の背後にそっと人影が日下の背後を抱きしめて近づいた。
「っ…!うわっ!」
「おはようございます、日下さん」
日下に抱きついて挨拶した男は芳野徹 、数か月前から大学生インターンシップとしてここの制作会社に働いている。
「…芳野、お前…」
「朝から日下さんの顔が見れて嬉しいです」
日下に抱きつく芳野はその言葉のとおり、普段は固そうな表情を綻ばせ嬉しそうな顔を微笑んだ。
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