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第14話 嘘つき好奇心
「美味い店だったなぁ」
「はい」
夕食はイタリアンにした。とてもシンプルなトマトソースが美味くて、店の穏やかな雰囲気もワインもどれも良かった。その店の中では昔話をしていた。
当時のバスケ部のこと。俺たち一つ下の代は知らない先輩たちのこと。
一つ歳が違っているだけで、やたらと大人に見えたと先輩の話をすると、逆にたった一つの歳の差で、やたらと幼く見えて世話焼きになっていたと先輩が笑っていた。
先輩がワイングラスを傾けながら当時の俺のことを話す。幼くて可愛かったと。
そして俺はその小さなグラスの中で波打つ琥珀色がテーブルに溢れて零れて濡らしてしまうのではないかと、先輩の手元を見つめていた。
「……」
「…………ぁ、の」
イタリアンレストランを出て、ブラブラと歩いている。先輩は駅に向かうのだろうか。それとも途中でホテルにでも入るのだろうか。と、真剣に先輩の背中を見つめてしまう。
ようやく買ったばかりのブーツが足に馴染んできたみたいだ。きゅっと足首までフィットする感じが履きなれていなくて、最初はなんだかぎこちなく、違和感があったのに。たくさん歩いたからだろうか、隣にいるこの人に意識が傾いてばかりだったからだろうか、夕食を済ませた頃にはその違和感はなくなっていた。それくらいに今日はたくさん一緒にいた。
それでもまだ俺は先輩といたいと思った。
「この後、どこか……」
「へたっぴ」
「!」
「けど、そういうの好きな奴も結構いるからいいんじゃない?」
もっとたくさん一緒にいたいと言いたくて、言葉を探していたら、先輩が笑った。バスケットなんてやったことのなかった俺の下手くそなドリブルを笑顔で応援してくれた時みたいに。
「ミキ、まだもう少し一緒にいたい……」
「!」
ゆっくり近づいて、俺の手を取り、強くなく、弱くもなく手首を掴んで微笑みながら、普段よりも少し低くした声で小さくそう囁く。
「こんな感じに手慣れた誘い方よりも、いいかもな」
「!」
きっと先輩にそう誘われた女性たちはホロホロに蕩けてしまったんだろう。
「ほら、行こうぜ。ミキ」
名前を呼ばれて、一日、この人を独り占めできただけでも嬉しいのに、まだもう少しいたいなんて言われたら、蕩けて溶けて、きっとどうにかなってしまいそうになるんだろう。
「え? い、いいですよ! あのっ、そんなの先輩がっ」
「足、疲れたんだろ?」
「そ、そうですけど、そんなこと」
「シャワー浴びて余計に重くなっただろ? 力が抜けるから」
「っ」
「ふくらはぎ、パンパンじゃん」
ギュッと強く揉まれて、痛いけれど気持ち良くて、慌てて制止しようとした手が止まってしまう。
「運動不足」
「っ」
ふくらはぎを揉んでくれていた手が膝裏を撫でる。
「色も白いよな」
「そ、ですか?」
「細いし」
「あっ」
手が太腿の内側を撫でて。
そして、期待に応えるように強くそこを揉む。内側の危ういところを。
「高校の時のお前ってさ」
「?」
「細くて、小さくて、ミニゲームとかで対峙すると吹っ飛ばしちゃいそうでさ」
「そ、そんなに小さくは」
「いつも恐る恐るかわしてたっけ」
そうなんだ。知らなかった。
「ぶつかった瞬間、ドーンって飛んでいっちゃいそうでさ」
俺は、ミニゲームで先輩に対峙する度に、ドキドキしてた。とても近くに先輩がいるって内心大喜びしてた。
「そこまで、チビではっ……ぁっ」
太腿の内側を強く指で押されると、その指に揉まれた場所がじんわりと火照り出す。
「華奢なんだよ」
「あっ」
気持ち良い。そんなとこ、触られたことがないから。
「細い腰とかさ」
「あっ……」
「激しく抱いたら、壊れそうじゃん……」
「あ、あっ……ンン」
もっと触って。
「試して、みてください」
キスをした。
俺から、そっと。先輩に。
「激しくしたら壊れるのかどうか」
触れるだけのキスから、甘える猫みたいにその唇を舐めて。
「あっ!」
そっと俺の脚を柔らかく解してくれた先輩の手に手を重ね、少し強く揉んだ。さっきそれがとても気持ち良かったから。
「気持ちいい」
とろけてしまいそうになるほど心地良かったから。
けれどきっとひどくいやらしい格好なんだろうな。脚の付け根を揉んでもらいたいと自分から脚を広げて、自分の手を重ねて揉んでいる姿はきっととても淫らだ。
「久志、せんぱ、っ……ん、ンン」
シャワーを浴びてバスローブ姿だった。先輩にキスをしようと前屈みになった時、見えてしまったのだろうか。
「あっ……ン、せんぱっ、あ」
それとも足をマッサージしてもらってる時にはもう気付かれてしまっていたのだろうか。
「あ、あっ」
勃ってしまっていたのを。
「あぁぁっ、指っ」
心地良くて、蕩けて、じわりと解けて、火照っていたことを。
「あっ……ン」
セックスがしたいって思っていたことを。
「先輩……」
まるで本物のデートみたいに、夜、こういう行為に耽りたいと思っていたことを。
「教えてくださいっ……ぁ、ん……激しくされるの、してみたいっ」
あるのは欲なのに、先輩に抱かれたいっていう欲情なのに、まるで好奇心が旺盛な子どもみたいに振る舞って見せた。
抱かれ方を教わりたい。
あの時ついた嘘を見破られてしまわないように、脚を広げて、焦がれていたのではなく、興味に胸を膨らませたフリをして、先輩のことを。
「あっ……ン、ん……先輩」
甘ったるい声で読んだ。
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