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第24話 恋を塗りつけて

「すみません。渡瀬チーフ、この書類にハンコをいただいてもいいですか?」 「え? ぁ……あぁ」  声をかけられ振り返ると隣に見かけない女性が立っていた。けれど、そう言って差し出された書類はいつもアシスタントの女性が持ってくる報告書で。けれども、その女性が――。 「ありがとうございます」 「あ、あぁ」  ずいぶん、派手、というか、見かけない女性だ。 「なぁ、吉川、今の女性は新しく入ったのか? 前までいた」 「っぷ、渡瀬さんがっつりひっかかりましたね。あれ、新しいスタッフじゃなくて、彼女ですよ」 「へぇ……えっ!」  流すように返事をしてから、慌てて振り返ってしまった。 「すっごい見た目激変ですよね。前は地味ーな感じの子だったのに」  化粧っ気のない女性だった。髪もただ束ねているだけで。けれど、別に暗い感じではなかったし、仕事ぶりもとても真面目で。その彼女が激変していた。化粧をしっかり施して、髪は色も変えたのだろうか。前はもう少し黒かった気がする。それに緩くウエーブをかけて、それを一つにまとめているのだけれど。 「おくれ毛がまたセクシーっすよね」 「……」 「なんか彼氏ができたらしいんす。その影響なのかなぁ。にしてもすごい変わりようだけど」  恋を――。 「俺も最初びっくりしちゃって。けど、渡瀬さんほどにはびっくりしなかったけど」  恋をするとあんなに変わるのだろうか。 「すごい変化だな。彼氏がいるいないでそんなに……」  恋ができたらあんなふうに垢抜けるのだろうか。 「そっか……」  羨ましいな。 「……渡瀬、さ……ん?」  だって、彼女は前の地味だった時も別にそれはそれで誠実そうで良かったけれど、今の彼女はとても綺麗で楽しそうで、そして魅力的だから。とても素敵で、羨ましいと、そう思った。  まるで、恋っていうものを筆で全身塗りつけたように変わってたんだ。恋っていう化粧のような、恋っていう、薄い膜で身体を覆うような。 「あっ……ぁ……ン」  恋をたくさんしていたから、いつもカッコよくて、いつも楽しそうで、いつも魅力的だった先輩のように、恋を先輩として変わった女性がどこかにいるんだろうなって。 「あぁぁぁあっ! や、待っ……んんんっ」  今日は丸裸にはならず、シャツ一枚だけを残したまま、ずっと前戯が続いてる。 「や、っああっ!」  ずっと乳首ばかりいじられて、もどかしさに身悶えてる。いつもなら乳首を濡らされた後は孔、触ってもらえるのに。 「あ、あ、あ、あ」  乳首に歯を立てて齧って、尖ったところを下で舐めて柔くされる。可愛がられて、嬉しそうに硬くなった粒を食べるように口に含んではくれるのに、手はもう片方の乳首を摘んで、コリコリってその粒感を指先で確かめるように抓るばかり。  もっと触って欲しいって、おねだりしなくちゃ触ってもらえないのだろうか。  孔のとこが疼いてしまうって、指が欲しいですって言わないと。 「あ、先輩っ……ああああああっ」  甘い悲鳴が上がったのは乳首をキツく抓られながら、もう片方に歯を立てられたから。痛いはずなのに、きっと先輩の歯には媚薬が塗られてる。 「あ、あ、あ、あ」  だってこんなに気持ちいい。 「先輩、あ……の……」 「ミキ、感度がいいから、乳首だけでイケるかもって思ったんだけど」 「な、で?」  乳首ばかりいじられて、その粒もペニスも全部、トロトロに蕩けて勃起してる。 「だって、そう毎日毎日は身体に負担だろ?」  優しい先輩。 「だから、お前、初めての時よりも感度良くなってるから。今日は乳首だけでイク練習って思ったんだ……けど」 「先輩」  羨ましい。この優しい先輩と恋をして変わった女性がたくさんいる。恋を身体に塗りつけた人がたくさん。 「乳首だけで、射精、できたら、してくれますか?」 「っ」 「ここに、挿れてくれますか?」  脚を開いて、ずっと物欲しげにヒクついている孔が見えるように手を添えた。もう片方の手は愛撫されてとても敏感になった乳首を撫でて。 「んっ……ふ」  自分で触っても声が出るくらいに敏感になった乳首。 「あ、あ、あ……先輩」 「ミキ」 「あ、あ、っ……ん、気持ち、いいっ」  さっき、初めての時よりも感度が良くなってると言ってくれた乳首を自分できゅっと摘むと、孔が指欲しさにそこを締め付けた。まだないの、まだもらえてないの、指もペニスも、まだここを抉じ開けてくれていないって、訴え懇願するように。 「あっ、先輩っ」 「お前はどうしてそう……」 「? せんぱ、あっ」 「おねだりが上手いんだよ」 「あ、だって、先輩に、教わった」  なんでもいい。この人との行為で俺のどこかしらが変わったら、変われたら、それが恋じゃなくたって構わない。どこでもいいから、この人に変えられたところが自分にも欲しいって。 「あ、指、んんんんっ……」  そう思ったんだ。 「彼氏ができて激変ねぇ」 「えぇ、すごい変わりようで、一瞬、俺は誰だか分からなくて」  シャワーを浴び終わると、順番待ちをしていた先輩がベッドから立ち上がった。今日は挿入はしないつもりだったんだと苦笑いを溢して、俺の身体を気遣ってくれた先輩。 「そういうことってあるんだなぁと……びっくりしたんです」 「へぇ」 「すごいですよね」  挿入するセックスはするつもりがなかったけれど、挿れてくれた。  もう何度もセックスしてるのに、こういう場面で見かける先輩の裸はまだ見慣れなくて、目のやり場に困ってしまう。 「俺にはそういうの……」 「そう?」 「……え?」  何かを問われて、けれど、あまり意味は分からなくて顔を上げると、ほら、やっぱり目のやり場に困ってしまう。さっきこの人に抱いてもらったんだと、昨夜つけてしまった肩の引っ掻き傷に、今日つけてしまった反対側の肩に残る赤い爪痕に、実感してしまう。抱いてくれた証拠が嬉しくて、舐めて、キスしたくなる。 「やっぱ、なんでもない」 「え? あの」 「明日、仕事きつい?」 「え?」 「また後でシャワー浴びるくらいの時間、ある?」 「……ぁ」  まだ湯の熱が染み込んだままの肌に先輩が噛みついた。バスローブを足元に落っことして、そして――。 「もう一回、抱いてもいい?」 「あっ……っ!」  抱き締められて、俺は今さっき自分がつけた赤い爪痕にキスをした。

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