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第26話 デート、レッスン
本当はね、映画なんて別に興味がなかったんだ。
そもそも映画をあまり観ない。学生の頃に観たっきり、ってくらいに縁遠い娯楽だった。
この映画を選んだのも話題になってたから。話題の新人を起用したんだって。
恋愛映画、になるのだろうか。
少年院を出てきた青年と舞台女優を夢見る少女の恋のお話。どちらも倉庫でアルバイトをしていた。少し斜に構えた少女と影のある青年の、少し暗いストーリーだけれど、それを新人二人のフレッシュさが……と、話題らしい。
これを今日の日に選んだ理由は。デートに最適と書いてあったから。
ただそれだけの理由だった。
結果としては――。
「あのシーンよかったです! カーテンもない部屋で二人してプラネタリウムみたいだって笑って」
「あー……」
結果としてはレストランで夕食を食べながらもまだ話して、それでも足りず、今、そのレストランを出ても話してる。
途中で、ミステリーみたいなところがあるんだ。その青年が捕まってしまったのは強盗だった。老夫婦を殺害し、現金を奪う凶悪事件に少なからず関わった罪で服役していた。けれど、彼はそんな恐ろしい犯罪に自分が加担しているなんて思ってもいなかった。知らずに関与、協力してしまっていた。それで出所できたわけだけれど。
「一瞬、青年が見せたあの表情」
意味深に笑うんだ。その強盗殺人、金は盗んだけれど、その金が忽然と消えてしまった。それもあって刑が軽くなったのだ。では、その金は? そう疑問が浮かんだところで見せるあの笑みが、もう。
「でも彼女は彼は金をくすめてないと信じるじゃないですか」
周囲が青年へ疑念の視線を向けても、彼女だけは彼を真っ直ぐに見ていた。見続けていた。
「確かにあそこよかったな。彼女が微笑むとこ」
「はい」
そこは感動的だった、素直に真っ直ぐ青年を見て、微笑むんだ。誰も信じずにいる彼を、誰からも信じられずにいる彼を見て、微笑んで、好きだと告げるシーン。
「っぷ、お前、かっわいいな」
「な、なんで笑うんですかっ」
「だって、お前、めちゃくちゃどハマりしてるから」
「そ、それはっ」
先輩がお腹を抱えて笑ってる。
笑って、涙まで拭いてるし。
「はぁ……お前といると、楽しいよ」
「え? …………」
「お前、寒くないの?」
その言葉にいつも通り胸が躍って顔をあげたら、黄色のストールがふわりと広がって、俺を包むようにしながら、その内側でキスをくれた。
「……ん」
ストールの温かさと唇の熱に身体がほわりと熱を生む。
寒かったんだ。震えてしまうほど。日中はそうでもなかったのだけれど、やっぱり夜になると冷え込んできた。ニットとカーディガンなんて薄着じゃ凍えて、映画に興奮しつつも語る声が震えてしまうくらい。
「コートは?」
「あ、ありますけど、服に合うのがなくて」
「……」
じゃあ、これを着なければいいだろう? って思っただろうか。
――いいの! 君がくれたこのマフラーがいいんだってば。
使いすぎて古びて、ゴワついたマフラーを寒さの一時凌ぎだと青年が少女の首にかけてあげるんだ。少女がそのマフラーを大事に持っていたら、そんな安物って青年が言って。
冬のお話だから。
丁寧に唇を重ねて、俺のうなじから後頭部を掌で撫でて、髪をくしゃりと掻き乱す。舌は入れずに唇だけを啄まれてる。夜で、人通りもそうなくなってきた路地でさえ、戸惑ってしまうほど長いキス。
「……先輩?」
「あそこ、よかったな。キスするとこ、マフラーでさ」
マフラーを巻き直してあげながら、青年が少女にキスをするシーン。二人ともとても楽しそうに、嬉しそうにキスを。
「あのシーン、よかった」
キスをしてた。そしてまた先輩がキスをくれた。
パンフレットで読んだら、二人とも人生初のキスシーンでとても緊張していたらしい。その緊張がスクリーンいっぱいに滲み出ていた。二人の初々しい「好き」として。
「んっ……ンン、ぁっ……」
「ミキ」
「……あっ、ン」
キスをしながら、中を指で弄られて、舌先からとろけそう。唾液が溢れて、喉が鳴って、指が抜ける時、くちゅり、と甘い音がした。
「ミキ」
「? はい」
「今日、楽しかった?」
デートのレッスン、だったっけ。
映画を見て、少しブラブラして、レストランで食事をして、それからホテルへ。
「はい、楽しかったです」
「映画のチケットの買い方も覚えられたしな」
「んっ……ぁっ」
孔に熱が当たる。
「ミキ」
「あっ……」
先輩の熱。
脚を思い切り開いて、その膝に先輩の手が触れて、さらにグイッと開かれると、曝け出された孔に先輩のペニスが触れた。
「あっ……ぁっ……んんんんっ」
そして、ズブズブと中に挿ってきてくれる。
「あぁぁぁあっ」
指でしっかりと柔く蕩けるまで解された孔に、強烈なほどの熱の塊が埋め込まれて、仰反るほど気持ちいい。
「あっ……ん、ン」
ほら、気持ちいいと孔が先輩のペニスの根本をギュって締め付けて、中がその硬さを確かめるように絡みついてる。
「ミキっ」
「あっ……ン」
「トロっトロ」
「んっ」
口の中もトロトロでしょう?
「ンンっ」
先輩が緩く、ゆっくりと腰を揺らしながら、俺の口の中に指を挿れた。
「ん、んぶっ……ん、ンンっ」
その指に舌を絡めてしゃぶりつきながら、揺さぶられてる。
「ミキ……」
「ん、ンン」
蕩けそう。今日は、デート、だからかな。
「ミキの中、すごい」
「ん、ん、ンン」
喉奥まで指で撫でられたくて、自分から首を傾げてしゃぶりついた。
「ミキ」
「ん、んっ……ん、んん、んぶっ……ン」
今日のセックスは、たくさん名前を呼んでくれる。おねだりの練習もしなくて、フェラチオの仕方も教わらず、ホテルの部屋につくなりキスをくれて、そのままベッドへ雪崩れ込んで、服を脱がされた。
「ああっ! 先輩っ」
先輩のペニスが前立腺を可愛がる。途端に甘い甘い悲鳴が溢れて、俺の下腹部のところがきゅうううって先輩を欲しがる。
「ミキ」
「あ、あ、あ、あ、激し、いっ」
「っ」
「あ、あ、あ、あ」
腰を掴まれ、ペニスが中を掻き乱す。しゃぶりついて、絡みついて、物欲しげな身体を奥までこのペニスで擦ってくれる。
「あ、あ、あ先輩っ」
「ミキ」
先輩の、これ、好き。
「あ、あ、あ、イっちゃう」
挿入は丁寧にしてくれるのに、射精の直前だけ、腰つきが乱暴になるの、好き。
この瞬間、先輩の頭の中も独り占めできてる気がして、好き。
「あ、あ、あ、あ、イク、先輩、イっちゃう、んぶっ……ん、ン」
「っ」
そして、俺がイきたいと中から締め付けると、もっと腰つきを乱暴にしながら、キスをくれるのも、好き。
「あ、あ、イクっ」
「いいよ。イクとこ、見せて」
「あ、あ、ああああああああああ!」
先輩のことが。
「っミキ」
好き――だと、これが本物のデートなら今言えたのに。
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