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第30話 俺
自慰しか知らなかった。
このベッドで、自慰しか――。
「あっ、あっ!」
自分が普段使っている枕に顔を埋めて、腕を拘束されたまま、猫が背を伸ばすような四つん這いの格好になってる。まさに猫のように甘い声で鳴いてる。
こんなふうに抱いてもらうところを想像したことは何度もあった。
「あぁ……ン」
指で蕩けそうなほど気持ち良くなってる自分を妄想したことだってたくさん。
「あっ……先輩っ」
けれど、指ですらしたことなかったんだ。怖かったから。中に触れるのも、触れてもしも快感を覚えても先輩にしてもらえることは一生ないってわかってるから、覚えるの、怖かった。
抱かれることはないのに、抱かれたい欲ばかり膨らむのが怖かった。だから。
「今日、中がいつもよりも熱いね」
「あ……」
だって、そうもなるでしょ?
欲しいけれど、絶対にもらえないと思ってたんだもの。
得られるのは自分で施す快感だけだって思ってたんだもの。
「触ってみ? 中、すごい熱いから」
「ぇ? あっ」
動かすこともままならない腕を引っ張られて、孔に触れさせられた。自分で触って、自分の指に触られて、そこが驚いてキュッと縮こまる。
「ミキ」
「あっ……ン」
けれど、先輩の指で柔く仕立てられた孔はすぐに自分の指も咥えてく。
先輩の指だと思って、しゃぶりついて、先輩の指みたいに中を弄ってくれることを期待して、浅いところに留まる自分の指にさえ蕩けてる。
「あ、あ」
こんなに中、熱いんだ。
こんなに欲しがりなんだ。
抱かれたくてたまらないんだ。
「先輩」
振り返ると、先輩がゴムをつけてるところだった。その様子をじっと見つめていたら、目が合って、先輩がふわりと微笑んで、俺の頭を撫でてくれる。
おねだり、しないとって。
だから、手を添えた。
「先輩、して……ください」
一生ないって思ってた。このベッドでしてもらえるなんて。今、抱き抱えている枕を先輩に見立てなくていい、だなんて。
前まで先輩に見立ててた枕に頭を擦り付けながら、自分の両手で孔が見えるように尻を割り開く。
先輩に教わって変わった、怖がりだった身体を晒して、怖くて触れたことのない場所、自分で覚えたところで貫かれて抉じ開けられることはないと思っていた、そこを。
「ここに、先輩の、欲し」
ここですって、わかるように、指を小さく動かして、欲しがってると懇願した。
こんなに蕩けて熱くなってると見せびらかしながら。
「ミキ」
「あっ……」
先輩のペニスも熱かった。ゴム越しでも熱くて、硬くて。
「ぁ……ああああああああっ!」
両手で腰を掴まれ、あの熱くてトロトロに蕩けた身体に先輩のペニスが突き入れられてく。
「あっ! …………」
ただそれだけで、イってる。
「あぁっ……」
「っ」
シーツに白を飛ばして。
「あ、あ、あぁっ」
中に埋め込まれた先輩の熱に絡みついてしゃぶりついてる。
「ミキ」
「あ、あ」
「触らずにイッたんだ?」
「あっン」
あんなに欲しがってるんだもの、もらえたら、イってしまうに決まってる。
「……ミキ」
「中、俺の、中、熱い、です?」
「ミキ?」
「あっ……ン、知らなかった、から」
「?」
「俺……ぁっ……ン」
話すだけで感じた。きゅうきゅうと先輩のペニスを締め付けてる。
「オナニ、の時、触ったこと、なかったから、中、ぁ……お尻の……」
きっと今もすごく欲しがってる。さっき自分の指にさえもあんなにしゃぶりついたそこは。
「ミキ、ごめん」
「?」
「動くよ」
「あ、っ……あ、あ、あ、ン」
あんなに欲しがりだなんて。
「イッた、ばっかり、なの、あ、あ、激し、ン、あンっ」
今、その欲しがりな身体を先輩に貫かれて、抉じ開けられてる。激しく腰を打ちつけられながら、後ろ手で縛られて喘いでる。今日、仕事で身につけていたネクタイで縛られながら、後ろから激しく貫かれてる。
「あ、先輩っ」
貫かれて揺さぶられながら振り返ると、先輩が夢中になってくれてた。少しだけ熱に浮かされたような表情で、俺の中を激しくペニスで突き上げてくれる。
「せ、んぱ……イッ、あっ、あ、アンっ……ン」
「っ、ミキ」
四つん這いのまま、ネクタイで拘束された手を先輩へと伸ばしたら、応えるように手を掴んで引っ張り上げられ。
「あぁぁ……ン」
また中を更に抉じ開けられた。
零れ落ちるように熱っぽく甘く喘いで、背中を反らせて、先輩のペニスがもっと奥まで来れるようにって、腰を自分からもくねらせる。
「あ、あ、あ、あ」
それ気持ち良い。
「あぁぁぁっ」
片手でネクタイを手綱みたいに掴まれながら、もう片方の手で乳首抓られると、たまらない。
「あ、先輩っ、俺」
また、イク。
「あ、あ、あ、ああ、もう、俺っ」
「それ…………好きだよ」
「ぇ……」
「綺麗で真面目なお前がさ、自分のこと、俺、って呼ぶの…………好きだよ」
「あ、あ、あ、あ」
イク。
「あ、先輩、先輩っ、あ、イクっ、あ、イッちゃうっ」
「ミキ」
「あ、あ、あ」
激しく腰を打ち付けられた。先輩の強さに、激しさに目眩を覚えながら。硬くコリコリになった乳首を捏ねられ、抓られながら。
「ミキっ」
「あ、あ、ああああああああっ」
ばちゅん、って激しく乱れた音を寝室に響かせながら、ペニスで奥深くまで貫かれた瞬間、舌を深く差し込まれながら、またシーツにつけたことのないシミを作りながら。
「あっ、あぁ……」
どこだっていいんだ。
「あっ先輩っ」
俺のどこだっていい。貴方に俺のどこでもいい欠片でもなんでも好んでもらえて嬉しくて、すごく嬉しくて、手も使わず、ただ。
「あっ……ン……先輩っ」
貴方のペニスだけで、射精した。
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