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第33話 勘違い

 商社の仕事は色々な部門がある。  物を作る側とそれを買いたい側を繋ぐ、中継ぎのような仕事がメインだが、他にも金儲けになりそうな企業、特に中小企業に融資をして育てて、出来上がった果実を食べるように金を得る仕事もある。ビルのような箱の中で自らものを作り出すのではなく、「商い」をする会社。金儲けをするための会社だ。  俺はその融資部門にいる。  果実を育てる仕事、だ。 「渡瀬さん、大崎さんから連絡がありました」 「……あぁ」 「なんなんすかねぇ。最近あそこあんま景気良くない感じですよね。なんか技術の数人が抜けたとか、の割には、大崎さんって羽振りがいいですよね」  まぁ、確かに、彼の話す豪遊話はその身分に見合ってないような気がしなくもない。一介のサラリーマンにしては、そうかもしれない。会社の方はさして伸び率は高くない、はずなのに。 「あ、それと、この前の新技術のとこ、あそこからまたぜひともって」 「あぁ、そうだな」  あそこは確かにこれから伸びる物を持っていると思う。対応が速い。融資を望むからこその速さなのだろうが、けれど展開が速いからこちらともしてとてもやりやすい。社長は若いのにたいしたものだ。 「あの技術すごいっすよ」 「そういえばお前は詳しそうだったな。社長と話が弾んでた」 「あはは、俺が前に受け持ったとこ、もっと小さい会社だったんですが同じ分野の産業だったんすよ。そん時、まだ新人も新人だったから、手抜きの塩梅が分からなくてめっちゃ勉強したんです」 「お前ね……先輩の前で仕事の手抜きの話、普通はしないだろ?」  あははと屈託なく吉川が笑った。親しみやすく、人懐こい、そういうところが大石に似ていて、先輩の側から接する時、可愛いがりたくなる。きっと先輩から見た大石もこんな感じだっただろう。  その隣にいた俺はどう見えてたんだろう。  可愛くはなかっただろうな。いつもろくに話さないし。俯きがちで、大石やこの吉川みたいに屈託なく笑うわけでも、話をする訳でもなかったから。  ――お前、昔から可愛かったじゃん。  お世辞、上手いんだ。先輩は。 「……渡瀬、さ……ん」 「? ……!」  驚いて、手を払ってしまった。吉川が急に手を伸ばして、髪に触れたりするから。反射的に拒否した。 「あ、すんません。ゴミが……」 「あ……ご、めん、悪い。つい、びっくりして」  少し変だったかもしれない。払い退け方が。 「いえ……」  ちょうどそこへ吉川に電話があったと知らせるアナウンスが流れてくれた。その場をスッと立ち去る背中を見送って、一つ溜め息を零した。  本当にびっくりしたんだ。  こっちへ伸びてきた手に。急なことで反射的に払い除けたけれど。  でも、それだけじゃなくて、嫌だった。あの人が触れてくれた髪を、気に入ってくれた手触りを、他の男には触らせてやりたくなかった、なんて。 「……はぁ」  自分は何になったつもりでそんなことを思ったのかと、溜め息が溢れた。 「へー、この映画、面白そう」  食事の後、酒を飲んでいたら、先輩がそう言ってテレビの画面を指さした。画面にはスーツを身に纏った男性があろうことかヘリコプターから飛び降りるシーンが写ってる。公開は……十二月の半ばだ。  十二月……クリスマスの事。 「公開は来月か」 「……」  先輩はアクション映画が好きみたいで、この前もテレビで初放送となっていたアクション映画を一緒に観てたっけ。ラストはどうなったんだろう。途中から別のことに夢中になってしまって、観ていないんだ。 「映画館なら、途中から観ないでラストがわかんない、ってならないし」 「!」 「だろ?」  先輩がクスクスと笑いながら、俺を見てた。この前は、ラストを見逃してしまったから。俺が、おねだりをして抱いてもらっていたから。 「なぁ、ミキ」 「? はい」 「お前さ、あの男」 「?」 「ハリー・ウィンストンオーシャン世界限定十本」 「!」 「なんかすげぇあだ名……あいつは平気?」 「……ぇ?」  なんで、先輩が大崎を? だってもう、あの仕事は。 「いや、あいつ粘着質じゃん? 悪癖あるし。基本、変態だし」 「っぷ、そんなこと」 「今のお前、ハリー・ウィンストンオーシャン世界限定十本の激好みだろうからさ」 「男ですよ」  そんなのあの悪癖男に関係あると思う? と、先輩が笑ってる。確かに、あの男はそんな性別とか気にしない気がする。悪い意味で。なんでも口にしたがるというか。 「もしも……あいつが何かしてきたら、いや……してきそうだったら、俺に言いな」 「ぇ? なん」 「絶対に、言えよ?」 「なん、…………ンン」  腰を引き寄せられて、そのまま深く口付けられた。舌先が絡まり合って、応え方が上手になったと褒めるように、先輩の舌が舌を撫でてくれて、硬くなったものが股間に触れる。先輩の、が、硬くなってる。 「んっ」  硬くしてくれて、嬉しい。 「あっ……っ、ンン」 「お前、敏感だけど、ここも性感帯になった、とか?  髪に触れられてゾクゾクしてしまった。 「ご、ごめっ」 「なんで謝るの。可愛いじゃん……俺に開発されるお前」 「あっ!」  あまり触れないで。  先輩が硬くしてくれた股間にはしたなく擦り寄ってしまう。 「ダ……メ……」  先輩が髪を撫でて、中に指を差し込んで乱してく。最近上手になったワックスで整えてある髪を撫でて乱して、キスをくれる。  反応してしまう。  そんなに性感帯が増やされたら困るんだ。 「あ、あ、あ、あ、先輩っ」  乳首は一番感じてしまうのに、そこをシャツ越しに噛まれただけでイッてしまうくらいに可愛がられて。 「あ、ダメっ先輩っ」  こんな身体になったら、困る。  あと一ヶ月しかないのに。 「あ、あ……ん、や、ぁ、あ、齧っちゃ、や、だ……乳首っ」  何か困ることがあれば言って、なんて言わないで。いつまでもそばにいてくれるようなこと、言わないで。  髪まで性感帯にしないで。  貴方以外になんてこの身体に触れて欲しくないと、思ってしまうような。 「あ、ダメ……」  勘違いをしてしまうから。あと一ヶ月しかないくせに、先輩の何かに。 「先輩、イッちゃう」  何かになれたように勘違いをしてしまうから。

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