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第46話 告白競争

 朝、眩しさで目が覚めた。 「……ぁ」  目を覚まして、一番に視界に飛び込んできた少し青色が淡い、冬の朝の空に、あぁ、ここ、先輩の部屋だ、と、そんなことを思った。  カーテンのない窓からは少し心許ない気さえしてしまうほどの開放感と、それから、驚くほどに眩しい朝日が差し込んでいる。  夜、が仕事の時間なら、こんな朝方に、こんな眩しいのは少し睡眠の妨げになる気がするのに、先輩は睡眠不足にならないのだろうか。 「目、覚めた?」 「あ、先輩」 「おはよ」  先輩はキッチンにいたらしく、部屋の入り口のところで腕を組んで、柱に寄りかかりながらにっこりと微笑んだ。ほんのりだけれどコーヒーのほろ苦い香りがする。  起き上がって、寝癖を確認しようと頭を撫でたら、先輩も布団の端に腰を下ろし、後頭部を撫でる俺の手に手を重ねて、うなじを撫でて、引き寄せ、キスをくれた。  唇が触れる、優しいキス。 「……涎、垂らしてた」 「えっ」 「あと歯軋りしてた」 「!」  そうなの? そんなの、知らなかった。 「それからいびきかいてた」 「!」 「あと、お前、足癖悪いのな」 「そんなに寝相がっ」  どうしよう。今までずっと一人で寝てたからそんなのわからないよ。今までは? 先輩とホテルに泊まった時はどうだったのだろう。同じようにいびきをかいてたのだろうか。歯軋りをしてたのだろうか。蹴ったり殴ったりしてたの? 涎も……だなんて、恥ずかしすぎると頭を抱えたら、先輩が笑った。 「ほ、本当にごめんなさいっ、俺、今までは大丈夫でしたか? その」 「他の男にはそういうの言われたことない?」 「なっ、ないですよ! 誰かと一緒に就寝なんてことしたことないですからっ」  ずっと一人だったんだから。教えてくれる人なんていない。お前、寝相すごいな、なんて。 「っぷ」 「せ、先輩?」 「いつもはさ、死んだように寝るんだ」 「……」 「眩しいとかもなくて、ただホント死んだように寝るのに。そんで、起きると頭が痛くてさ、コーヒーがぶ飲みするんだよ」  ようやく眠れることに安堵の溜め息をついて、起きることに溜め息が溢れる。どこもかしこも疲弊してた。本当に、どこもかしこも。 「今日はなんか眠れなくて起きてた」 「……先輩」 「眠るの、もったいない、って感じかな」 「……」 「で、お前の寝相観察してたんだ。楽しかったよ」 「そ、そんなにっ」  先輩はとても楽しそうに笑うと、また俺にキスをして、まだまだ跳ねている俺の寝癖を撫でて、窓一杯に降り注ぐ朝日と、冬らしい高い高い青空に目を細めた。 「初恋ってさ、なんか、すごいな」 「……」  楽しそうだ。 「何してても楽しいよ」 「……」 「お前のこと、よっぽど好きなんだね」  まるで他人事のようにそんなことを言う。その頬がほんのり赤い気がした。貴方の頬が、ほんのりと色づいてる気がした。遮るものの何一つない窓から降り注ぐ朝日でよく貴方の顔が見える。表情ひとつでさえ鮮明に見える。 「だから、はしゃいで眠れなかったんだ」 「……」 「お前のことが好きで」  そんな顔でそんなことを言う。 「お、俺も、好きです!」  もう何回目かわからないや。貴方にこの言葉を言ってはならないと、三回までが限度だけれど、でも俺にはその三回すら与えられてないと我慢していたから。ずっとずっと言いたかったのに言えなかったからたくさん言ったんだ。だからもうこれが何回目の告白なのかわからない。  そのくらい好き。 「なんか、告白競争みたいになってるな」 「!」 「お前も俺のことよっぽど好きなんだね」  そのくらい、貴方に何度も伝えたかった。 「三百万使っちゃうもんな」 「いくらでも使います」 「……」 「先輩を独り占めできるなら」  貴方からキスをこっそり盗むくらいには、とてもとても好きだった。  もらえるキス一つに胸が躍ってしかたないくらいには、大好き。 「先輩のこと、好きですから」  自分からキスをした時、啄んで応えてくれることに、歓喜してしまうくらいには、好き。 「今度、カーテン、買いに行こうか」 「……」 「今度、一緒に」  貴方がたくさん笑ってくれるからだろうか。部屋の中があったかい。 「そだ、さっきのさ」 「?」 「歯軋り、いびき、足癖、どれだと思う?」 「え?」 「本当にしてたの」 「ぇ! 全部じゃないんですかっ?」  そして、驚く俺に笑った貴方の頬が色付いているくらいには好かれてるって、素直に自惚れてる。 「さぁどれでしょう」 「ぇ、あのっ教えてください! 直しますからっ」 「さぁ……どれかなぁ」  まるでかまって欲しい子どものように貴方がこの初恋にはしゃいでしまうくらいには、好かれてるってとても自惚れてる。

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