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偽物高校生編 6 先生の話を聞いていない、なんて不埒な生徒

「えー……英文で自動詞、他動詞を区別するには」  高校生ってこんなに忙しかったっけ。  夏休み明けてすぐ、もうしっかりと授業がびっしり入ってるなんて。日々の授業が一時間おきにクルクル変わるだけでも忙しい。五分だ、十分だと、あれしてこれして。  こんなに忙しいのに、記憶に残ってるのは遠くから見つめていた先輩の姿ばかり。 「つまり、この例文で考えてみると」  エアコンが効いているはずなのに、南向きの教室には遠慮したくなるほどの強い日差しが差し込んでいる。そのせいか、熱くて、暑くて。少し汗ばんでしまうくらい。  だから、かな。  忙しくて、目まぐるしくて、だからかな。  忙しいけれど、授業の間はじっと座っているから、頭が休憩したがってる感じ。先生の話してくれる内容が入ってこなくて、それどころか頭の中で響くのは昨日の、先輩に可愛がってもらえた音と声。  悪い生徒だよね。  いや、不埒な生徒、かな。  でも、だって、すごく、その……昨日は、たまらなかったから。  ――やぁ、ン、激し、っ。  交換留学生設定にしたの、先輩のくせに。  ――あっ、せんぱっ。  昨日の抱き方、すごく興奮したの。  挿入がいつもよりも急いでいた。待ちきれなくておねだりしたって、普段はたっぷり蕩けて、奥がぐずぐずに疼いてからしかもらえない。身体にかかる負担を誰よりもわかっている人だから。なのに。  昨日は、おねだりしたらもらえた。  まだ少しきつい中を無理やりにでも抉じ開けられるのがたまらなく気持ち良くて。すぐに達しちゃっても、そのまま続けて責められて、ずっと甘イキが止まらなかった。  早く抱きたいって思ってくれてる感じがして。腰を掴む指先の強さにも、背後から聞こえる先輩の乱れた吐息も。  先輩が見せてくれる独占欲が心地好くて、もっとって、何度も。  でもね。  すごくすごく気持ち良くて何度もイッたのに。  物足りない。  ――ミキ。  先輩の舌に可愛がられたかった。  ――あっ、先輩。ダメ。  先輩の歯にいじめられたかった。  ――シャツ、ニットベスト薄いんです。だから。  先輩の長い指に摘んでもらって、たくさん気持ちよくなりたかった。  スーツなら隠せるのに。  高校生の夏服じゃ、ここ、ダメ、でしょ?  ――あぁ、ミキのやらしい、ここ?  そう言って意地悪な笑顔で、俺の胸に触れるだけのキスをするんだもの。  疼いて困る。  そんなの、ただ欲情を煽られてるばかりで、昨日、あんなにしてもらえたのに、満足するどころか、物欲しくなってしまう。  してもらいたい。 「えー、では、授業はこれまで」  早く学校生活終わらないかな。  まだ微かに覚えてる高校の授業内容をぼんやり聞きながら、そのことばかり考えてしまいそう。 「引き続きホームルームやるぞー」  あと、明日一日、調査日なんだっけ。明日が終われば、この先輩の悪戯も終わって、あとは提案書を作成する、いつも通りの仕事。  そしたら、してっておねだりしたい。  可愛がられて、いじめられて、たくさんかまってもらいたい。  先輩に仕込まれてたまらなくなるように躾けられた、気持ち良くなっちゃう胸の、これを、たっぷりと。翌日、腫れて、シャツに擦れるだけで蕩けてしまうくらいに、この粒を――。 「はーい。それでは……」  やだな。これじゃ、こんなんじゃ、いやらしいことばかり興味津々の、頭の中はそれしかない高校生の子どもみたい。好きな人のことばかり、色恋のことばかりの。  そして、ね? ほら? そんなことばかり考えているうちにホームルームが終わってしまった。  ゾロゾロと生徒たちがそれぞれの用事に席を立つ。部活に行く人。帰る人。まだ教室でおしゃべりしていたい人。  先輩はまだ帰れない。明日一日しかないもの。色々調査すると思うし。先に帰ってもいいって言われてるけれど、一緒に帰りたいし。どこかで待ってよう。 「なぁ、渡瀬川、この後、どっか行かねぇ?」  図書室、とかにいようかな。メッセージだけで入れておいて。特に読みたい本があるわけじゃないけど。 「あー……ごめんね。ありがとう。まだ少し」 「そっ……か」 「秋吉君、部活は? 入ってないの?」 「あー、入ってるよ。バスケ部」 「!」 「今日、練習なんだけど。でも、渡瀬川いられるの一週間だけじゃん? 明日で終わりだからさ、どっか」  先輩の方が終わるの、待ってよう。待っている、なんていうのも高校生の時はできなかったことだもの。でも、帰り道、先輩と一緒になりたくて、少しのんびり屋で歩いていると誰かしらに話しかけられて、その都度足を止めてしまう先輩と帰りのタイミングを合わせるのは少し大変だったりした。だから、帰りを正々堂々と待っていられるっていうのも、些細だけれど俺にとってはすごく嬉しいことで。 「バスケ部、なんだ」 「そ。一応レギュラーなんだ。あ、じゃあ、練習見てく?」 「……ぁ」  そうしようかな、って言おうとした。  そしたら、秋吉君が俺の肩越し、背後に視線をやって、少し驚いた顔をして目、丸くした。  教室ではまだおしゃべりを楽しんでいた女子生徒たちのざわついた声がして。 「バスケ部なんだ? 俺も、バスケやってたんだ」  何よりも大好きな声が、その背後から聞こえてた。 「俺も参加させてもらおうかな」  振り返ると、先輩がいて、にっこりと笑っていた。

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