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#1-6

 気合いを入れたものの、帰り道を歩く俺たちの間に会話はなかった。話をさせてくれそうな気配がまったくしない。  誰とでも話せるのは、そもそも相手にも話をする気が多少なりともあるからであって、今この状況では俺も黙るしかない。  正直ものすごく気まずい。 (あれ、俺一緒に帰ろうって誘われたよな。帰ろうとは言ったけど、話そうとは言ってないとかそういう事なのか?)  気付かれないように隣を歩く仁科に目を移す。澄ました顔というか涼しい顔というか、こいつは本当に何を考えているか分からない。 (まさか、このまま……消される?)  ただ見ていただけとはいえ、何かを察知して今の内に始末する為に俺を誘ったのではないか?  心做(こころな)しか人気が少なくなってきたような気がする。  まあ眉フェチとしての(こころざし)も半ばで死ぬわけじゃない。むしろ、この眉に殺されるなら本望と言っても過言では―― 「ねえ」  人通りもなく、街灯もほとんど無い道で仁科が立ち止まる。ここを俺の最期の場所とする。 「今、何考えてた?」  形のはっきりとしない暗がりの中、仁科が俺の目の奥を覗くように顔を寄せてくる。真っ直ぐと見つめてくるその目――というか、眉から目が離せなかった。間違いない。これこそ究極だ。  仁科は俺を警戒しているだろうか。この一週間ずっと見続けていたことに気付かれていても無理はない。それだけ見ていたから。  そして、今同じくらい見つめ返されている。 「仁科になら殺されても良い……って」 「そう、ならそれはまたにしよう」  今じゃなくて良いのかと安心した。しかし、その言い方だと俺はまたの機会に殺されるらしい。本望とはいえいつ殺されても良いように用心しておこう。 「僕を見てる時は?」 「あー……やっぱり、あれだけ見れば気付くよな」 「ああ、君の視線、まるで針みたいに刺さるんだ」  そう返す仁科もなかなか人の事を言えないのではないか。もっとも、仁科の視線は俺に向けられているというよりも、もっと奥深いところに向けられているように見えた。 「それで、ええと……初めて会った日は逃げちゃったけど、それからずっと仲良くなりたいなって考えててさ」  そう考えていたのは嘘ではない。けれど、全てでもない。俺がどれだけその眉に思い焦がれていたかを伝えたいし、仁科のことをもっと知りたい。 「奇遇だね。僕も同じ考えだよ」  答えを聞いた仁科が初めて“俺”を見た。

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