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#2-5
静かな帰り道だった。
よく考えてみると、放課後は紅緒のほうがあの友人に連れられて先に帰っているから、そもそも互いの帰り道が同じである可能性があるのかなんて分からないのに、疑うことも文句を言うこともなくついて来たということは、少なからず向こうにもその気があったと考えても良いのだろうか。
それとも、いっぱいいっぱいで何も考えていなかったかもしれない。
それにしても、本当に静かだ。誘った身としてはこちらから何か話題を投げかけるべきとは思うものの、気まずそうにこちらを伺う姿を見るのも悪くない。
しかし、突然思い耽 り始めたのを見て、何を考え出したのかが知りたくなった。
「ねえ。今、何考えてた?」
顔を寄せて、その目の奥を見つめる。紅緒が容赦なく見てくるので見返しているだけだけれど、こうするとずっと深いところまで捉えられるような感じがした。
この奥にある強い思いがすべて僕に注がれている。
「仁科になら殺されても良い……って」
思っていたよりも面白い回答が返ってきた。
希死念慮 があるとは知らなかった。
最期の時を任せても良いとまで思われているとは、踏み入ってきているのは自分だけではないのかも知れない。
「そう、ならそれはまたにしよう」
答えを聞くと、紅緒は安堵の表情を浮かべた。彼は僕と違って表情が豊かだ。
「僕を見てる時は?」
一番聞きたかったことを聞いてみる。
「あー……やっぱり、あれだけ見れば気付くよな」
「ああ、君の視線、まるで針みたいに刺さるんだ」
紅緒の反応は、自分の視線の鋭さには気付いていないと言っているようだった。今も揺るぎなく注がれている視線をひしひしと感じているというのに。
「それで、ええと……初めて会った日は逃げちゃったけど、それからずっと仲良くなりたいなって考えててさ」
彼は七月の帰り道のことを覚えていないのか、それともあれが僕だと気付いていないのかそんなことを言う。けれど、それで良かった。
「奇遇だね。僕も同じ考えだよ」
目の前にいる紅緒を見ると、自然と目が合った。
お互いの意見に相違はない。僕のほうが少しだけ早く紅緒を知っていただけで、考えていることは同じだ。
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