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#3-2

「その鍵、かける? かけない?」  周の声以外、耳に入ってくる音がすべて遠く聞こえる。頭の中がめちゃくちゃだ。  方法はあとでいくらでも考えればいい。この鍵をつまんで手を捻れば、俺は周と―― 「赤星、仁科、すまん! 会議があることすっかり忘れてた!」  伸ばしかけた手が触れる前に、ドアが勢いよく開いて、目の前には肩で息をする先生が現れた。 「今日はなかったことに……なんだ赤星、その手は」 「な、なんでもないです」  行き場をなくした手を慌てて引っ込める。衝撃で一気に元の思考が戻ってきた。 「先生も大変ですね」 「ああ、仁科。悪いな、鍵は先生が返しておくから」  何食わぬ顔で周が俺の横を抜けて準備室から出ていく。 「紅緒がその鍵、かけたいみたいですよ」 「ん? そうか、ほら」 「あ……りがとうございます」  先生は(いぶか)しがらずに鍵を手渡してくる。ふわりと浮かんだような感覚の中で、鍵をかける間も鼓動の強さだけで心臓がぶち壊れそうだ。 「よし、また今度よろしく頼むな。気をつけて帰れよ。じゃ、先生は行くから!」  そう言い残して、先生はいつかの俺のように走り去っていった。相変わらず鼓動が脳内に響き渡るほど激しい。 「紅緒、僕が先生来ること知ってたのかって顔してる」 「そりゃまあ、そうだろ?」 「他の先生が言いに来るか、放送が入るかとは思ってたけど、タイミング悪かったね」 「はは……“良かった”の間違いだよな」  あそこでストップがかからなかったら、ドアには鍵がかかって、冷静さが欠けた俺は一生に一度の願いを懸けてでもこいつのことを手に入れようとしたに違いない。 「でも、そっか……紅緒は、鍵かけようとしたんだ。どうしてだろう。知りたいな」 「それはまたの機会に……しないか?」 「へえ、紅緒はまた二人きりになってくれるつもりなんだ」 「うっ……出来れば、次はもう少し落ち着けるところがいいんだけど」  いくらこの場所は人気(ひとけ)がないとはいえ、こう何度も学校でハラハラさせられていたら身が持たない。 「例えば紅緒の部屋とか?」 「あぁ確かに……いや、違う違う! そんな変なこと一切考えてないから!」  口を開けば次から次に墓穴を掘っている。慌てて取り繕っても、周は何も言わず、見透かすように見つめてくるだけだ。 「……誘導しただろ」 「さあ、どうかな」 「まあその……嫌じゃなければ、俺ん家行くか」 「紅緒が誘ってくれるならどこへでも」  友達を部屋に呼ぶだけなんだから何も変に考えることはない。そんなの昔からしていることだし、夏輝が来たことだってある。  そのはずなのに、どうにもペースを乱されて仕方がないのは、俺が意識しすぎなのかもしれない。

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