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#3-4

「あのとき紅緒がしたかったこと、教えて」  周の問いに対する答えは頭の中で出ているのに、ここまでしておいて口から先へ出ていこうとしない。 「今も、同じこと考えてる?」  問いかけに視線を交わした。周が「そっか」と一言だけ返事をして、顔を寄せ――ワンッと俺たちの横でタオルケットが元気に吠えた。体を起こした周がそれを(めく)ると、姿を現したポン吉がもう一度鳴く。 「えっと……とりあえずこれ、片付けるか……」  コップの中身は周にもかかっていたけれど、ほとんどは俺が浴びていた。ポン吉の足元にトレイと二つのコップが転がっている。多少床にも飛び散っているが俺以外の大惨事は免れたみたいだ。 「その前に濡れた服着替えないと風邪ひくよな……。濡れたの上だけか?」 「ああ、うん」 「了解。ちょっと待ってろよ……お前、俺より背高いからサイズ合うか分かんないけど……これシャツ、あとタオル。風呂は階段降りてすぐ横、もろもろは見れば俺のって分かると思う。服は洗濯して返すから。あ、そこコップ踏まないように気をつけてな」  中途半端な展開に対しての消化しきれなかった気持ちを、ただひたすらやるべきことを作り出して消そうとすることで、数十秒前のことを考えないようにしている。 「――紅緒!」  そんな俺を見て、違和感を覚えたのだろう。珍しく周が声を張り上げた。 「なんだよ、どうかしたのか」 「どうしていつもみたいにこっち見ないの」  ぎこちないのは自分でも分かっている。 「別に見てないわけじゃ……ムグ」  振り返った俺の口を塞いだのは、湿った鼻先だった。周はポン吉を抱えて、ほんの少しだけ眉を顰めてムッとした表情をしている。 「なら、ちゃんと僕のこと見て話してくれるよね」  その問いに俺は頷くしかなかった。  床に降ろされたポン吉は周に頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めて、しっぽを振っている。 「この子、紅緒が一番大事なんだね。僕みたいだ。これありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」  周が部屋を出ていくのを見送り、その場にへたり込む。 「ハハ……末恐ろしいわ……」  傍らでポン吉が飛びつきたそうにそわそわと俺を見ている。  「ポン吉ごめん、俺のこと待ってたんだよな。でも飛びついたりするのは危ないんだぞ」  頭を撫でてやると、やっぱり嬉しそうに目を細める。  熱でも出たかのように全身が熱いけれど、九月の終わりともなればさすがに濡れっぱなしでは寒い。  かといって裸になるわけにもいかないし、濡れた服を着たままでいるわけにもいかない。仕方がないので、服を脱いで下着の上にタオルケットを羽織る。 「ゔ、冷たっ」  少しだけ濡れていたところが背中に当たって思わず声が出た。

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