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#3-5

 片付けをしている間も、目の前まで接近した周の顔が頭を離れない。その眉は、触れて、指でなぞりたくなるほど美しかった。  そうやって思い返している内に、抑えていた高揚感が戻ってくる。頭の中の願いとは裏腹に、下半身は欲望に忠実すぎて下着にタオルケットという状況で勃ってしまった。非常にまずい。  この騒ぎを収めるにしてもここは台所だし、部屋へ行ってもそろそろ周が戻ってくるはずだ。どうするべきか、考えろ。 (――トイレ! トイレだ!)  穏便にことを済ませば、あとは平和に過ごせる。唯一の懸念事項は、一階のトイレが洗面所のすぐ横だということだ。二階に向かうほどの余裕はない。  及び腰になりながら、周と鉢合わせないことを祈りつつ目的地へと歩みを進める。  何とか辿り着き、ドアを閉めた。少しあとに洗面所のドアが開く音が聞こえてくる。周の気配がそこからなかなか消えない。 「紅緒?」  ドアの向こうで、周が声色に確信と疑念を入り交じらせながら俺を呼ぶ。 「ん゙んっ!? どうした?」 「ポン吉がドアの前にいたから、そこにいるのかと思って。鍵かかってないよ」  鍵をかけ忘れていたことを指摘されて慌てて施錠する。  まさか入ってくるとまでは思わないけれど、下半身を騒ぎ立たせている要因がすぐそこにいる状態で成り行きでバレてしまうのは避けなければならない。 「いや、あの……あー、うん。ありがとう! 急ぎすぎてたわ!」 「そう、部屋に戻ってるね」 「ぁ、ああ、悪いな!」  万が一を考えて耳を澄ます。階段を上って、ドアが閉まる音がした。  極力静かに、音も声も出さないように高ぶりを鎮める。水に流れていく結果は、「これで二回目」「しかも家族も使うトイレで」「本人が同じ屋根の下にいるのに」という罪悪感を次々に湧き上がらせる。せめてもの償いにと、後処理には細心の注意を払った。     § 「――それはなんの格好?」  スッキリしつつもモヤモヤしながら部屋に戻った俺を待っていたのは、周からの至極真っ当な疑問だった。 「これは、その、濡れた服着たままでいるわけにもいかなくて」 「あぁ、ごめん。僕が先にお風呂いただいちゃったからね」 「気にすんなよ。俺も入ってくる」  脱いだ服と着替えとタオルを持とうと思って動きを止める。  右手は今タオルケットが落ちないように掴んでいるから塞がっている。左手ですべてを持とうにも、濡れた服とそれ以外を一緒にするのは気が進まない。 「手伝うよ」  見かねた周が着替えとタオルに手を伸ばす。 「いや、そんな……いいよ、大丈夫だって。肩にでもかければ持って行けるし」 「お邪魔させてもらってる身で、お風呂も服も借りて、洗濯までしてもらうのに何もしないわけにはいかないよ」  それもこれも周は一切悪くないけれど、絶対に譲らない姿勢だということが伝わってきた。 「ありが……ックシュ!」 「ほら風邪ひく前に」  周に促されて洗面所へ向かう。

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